(一社)九州・台湾未来研究所(隈本直樹代表理事)がこのほど、福岡市で設立記念シンポジウムを開催した。((一社)台湾日本研究院(李世暉理事長)との共催)。同研究所は産業界と教育機関、地方自治体、社会団体などをパートナーとして、教育・企業・経済をつなぐ「共育」のしくみの構築を模索しており、学生向けインターンシップなどを実施している。

隈本代表理事((株)UNA FORESTA代表取締役)はあいさつにおいて、TSMCの熊本進出を契機として経済往来が深まるなか、日台間の人材育成・交流を促進したいとの想いから設立したと紹介した。
基調講演では、麻生泰(一社)九州経済連合会名誉会長((株)麻生代表取締役会長)が、「九州から日本を動かす」と訴え、台湾との連携によって九州の勢いを加速させるべきと述べた。
講演およびセッションでは、台湾からも専門家を招き、半導体産業の現状、日台の大学・企業連携による人材交流の可能性やグローバル市民の在り方などについて議論が交わされた。TSMCなど半導体企業を約30年取材してきた林宏文氏(『今周刊』顧問)の講演の内容を紹介する。
TSMCの企業文化

林氏はTSMCが成功したポイントとして3点を挙げる。第1にサービス業並に高いサービス提供力。921大地震(1999年)で台湾全土が大きな被害を受け、停電が数週間続いたにも関わらず、同社はわずか2週間後に操業を再開した。第2に顧客本位の精神を貫いてきたこと。自社の生産能力が受注に追い付かなかった際に、顧客を競合であるサムスンに紹介したことさえある。
第3に企業文化だ。エンジニアが自宅で夜中の12時に機械トラブルが発生したという連絡を受けると、隣で寝ている配偶者も「(工場に)行ってきて」と当然のごとく送り出すという。林氏はこの点について、契約社会である米国の競合企業であればエンジニアは翌朝まで待って対応するであろうが、TSMCの姿勢とは対照的であり、そこで数時間の差が生まれると強調する。
そして、米国にはTSMCが求める勤労意欲の高い文化が存在しない一方で、日本はそうした文化になじみやすいとし、この違いが工場建設の速度にも現れているという。台湾や日本の熊本工場が約2年で建設されるのに対し、米国アリゾナ工場は4年かかっており(編集注:TSMCの米アリゾナ第一工場は2021年4月に着工、今年1月に4nmの生産を始めていることが報道された)、文化の違いなどが遅れの一因となったと指摘する。
TSMCは近年、内外で大型の投資を相次いで行っているが、こうした戦略は持続可能なのか。林氏は同社の過去15年間の設備投資額と純利益の総額はほぼ同額であり、大きな借り入れを行う必要がなく、財務体質は強固で世界最高水準だと評価する。
日本・九州との半導体をめぐる協力
日本の半導体産業復活・振興について、林氏は熊本に建設されたJASM工場が重要な意味をもつと述べる。JASMで製造される12~16nmの半導体はたしかに世界最先端ではないものの、日本国内では40nm以下の製造ができていない現状において最先端の技術であり、日本の半導体産業を復興させる役割を担うとともに、新たな世代の半導体人材育成に大いに役立つものとして期待を寄せる。またJASMの存在は、日本の優れた半導体製造装置、材料、化学薬品などのメーカーにとって、発展の大きな機会を提供するという。
林氏は九州と台湾の関係、ひいては日本と台湾の関係について、非常に補完的で密接な関係であり、往来が密接であると強調する。仕事に対する態度が非常に似ており、規律正しく、自身の仕事を重視するとし、日本の強みである研究開発、基礎研究、長期投資、職人精神と、台湾の強みである柔軟性、製品化・実装能力、サプライチェーンを結びつけることで、グローバルな競争力をさらに高めることができると連携に期待を寄せた。

4人目が李理事長、5人目が麻生名誉会長
【茅野雅弘】