NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
今回は、5月16日付の記事を紹介する。
今週、トランプ大統領は中東各国を歴訪し、サウジアラビアやカタールからは大規模な対米投資の約束や大統領専用機までプレゼントされるという好待遇を受け、ご満悦のようでした。ところが、先にホワイトハウスを訪問した赤沢大臣にもホワイトハウスでプレゼントしていたご自慢の真っ赤な「MAGA」(アメリカを再び偉大に)帽子ですが、中東地域では被ることもプレゼントすることもなかったようです。
実は、あの帽子もファイト印のT シャツなど、いわゆるトランプ・グッズは全て「メイド・イン・チャイナ」に他なりません。自国ではモノづくりができない状況を放置し、製造してくれている外国を一方的に非難し、「関税」で脅しをかけるというやり方が、いつまでもつのでしょうか。
中東諸国では関税問題はご法度でしたが、その他、日本を含む世界各国では大いに物議を醸しています。しかも、国際社会から反発を呼ぶだけでなく、アメリカ国内でも物価高をもたらすことになるため、早晩、国民の間での「トランプ離れ」が加速する可能性が高まっています。そうした反トランプの動きをけん制するための秘策が「相互関税」というトランプ砲なのです。
トランプ大統領は「アベ・シンゾーは素晴らしい男だった」と、故安倍首相を持ち上げながら、日本への24%の追加関税を発表しました。日本政府は「同盟国への配慮に欠ける決定だ。断固として抗議し、修正を要求する」と述べていますが、トランプ大統領の真意を掴めていないようです。
実は、トランプ大統領は同盟国であろうと、敵対国であろうと、区別する気はさらさらありません。石破首相も「想定外の事態で国難に等しい」と危機感を滲ませてはいますが、「日本は対米投資額では他を圧倒している。きちんとデータを示して説明すれば、分かってくれるはずだ」と悠長な構えに終始しています。
サウジアラビアなど中東の産油国は、そんなデータで説明するような交渉は一切しません。あくまで、トランプ大統領の目の前で用意した対米投資合意文書に署名したのですから。これにはトランプ大統領も頷くばかりでした。
ところで、アメリカの貿易赤字は2024年で1兆2,129億ドルと過去最大を記録しており、国・地域別で赤字額を見れば、日本は684億ドルで、中国、EU、メキシコ、ベトナムなどに次ぎ、7番目です。
要は、アメリカが直面する貿易赤字の要因で大きいのが日本からの自動車輸出に他なりません。日本からアメリカへの輸出額のうち、最も大きいのが自動車で6兆264億円と全体の28%を占めているほど。一方、アメリカから日本が輸入した自動車の金額は全体の1%に過ぎません。
トランプ大統領は「こうした不均衡は容認できない」とし、「関税によって是正したい」と目論んでいるわけです。とはいえ、経済安全保障の観点から見れば、アメリカの弱点を象徴的に示しているのが造船業の衰退です。2023年の時点で、造船の世界シェアでは中国が51%で、世界最大です。その後を26%の韓国と14%の日本が追随。アメリカは何と0.1%とほぼ壊滅状態です。
船舶の建造や修理は「アメリカを裏切ることのない日本にお任せあれ」というディールはトランプ大統領の胸に刺さるに違いありません。というのも、トランプ大統領が自ら「国防産業基盤を強化させるために造船業を復活させる」と主張しているからです。2025年4月、中谷防衛大臣と会談したアメリカのフェラン海軍長官は「アメリカの造船業を復活させねばならない」と危機感を明らかにし、日本への協力の期待を滲ませていました。というのも、現状では米海軍は軍艦の建造も修理もままならない状況に陥っているからです。
自民党の小野寺政調会長や小泉進次郎衆議院議員も「造船業を日米関税交渉の切り札にできる」と密かに期待しているようです。しかし、肝心の石破首相ですが、側近によれば、「その気がサラサラない」とのこと。残念至極です。
実は、造船業以外にも、自動車部品や工作機械、素材の分野で、アメリカが欲しがる先端技術を日本は数多く保持しています。経産省の幹部曰く「こうした日本の誇る技術をアメリカのために協力する提案は日本発のディールとして効果が期待できるはず。場合によっては、日本がアメリカの造船の拠点に直接投資を行う選択肢もある」。
確かに、既に3,000億円以上を輸入している大豆や7,000億円近いトウモロコシ等の食料品の輸入拡大に加え、造船分野での協力という新たな交渉カードを切る選択肢があり得るはずです。中東の原油大国とは違い、技術大国・日本の出番を官民挙げて追及すべき時ではないでしょうか。
著者:浜田和幸
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