舞鶴に息づく美食の隠れ家「旬魚季菜 凪」 対馬の極上穴子を堪能

 福岡市中央区舞鶴3丁目に、食通たちが足繁く通う穴子専門店がある。対馬の穴子を主役に据えた日本料理店、「旬魚季菜 凪(なぎ)」だ。鰻とは一線を画す繊細な甘みを湛え、歯ごたえ豊かな“刺身”や、出汁の香りが広がる“しゃぶしゃぶ”で、訪れる者を魅了する。ひそかな人気を博するこの店は、2年前に閉店の危機に直面したこともあったが、常連客として十数年通い続けた現オーナーの松本健一氏により深い愛着をもって引き継がれている。対馬の海の恵みと松本氏の情熱が融合した「凪」は、福岡の隠れ家として美食の新たな地平を切り拓いている。

対馬の天然穴子 海の恵みと揺るぎないこだわり

「旬魚季菜 凪(なぎ)」対馬の天然穴子    「凪」が誇るのは、対馬沖で水揚げされる天然穴子である。対馬海流と黒潮が交錯する豊穣な海域で育ち、プランクトンやエビ、小魚を食して豊かな肉質と脂の乗りをもつ。深海200mの水圧と対馬海流がもたらす引き締まった食感、柔らかな小骨、そして濃厚な甘みが特徴だ。対馬の穴子は、他地域のものに比べて脂の甘みが際立ち、刺身やしゃぶしゃぶでその真価を発揮する。高タンパク・低脂質でありながら、軽やかな味わい、栄養価の高さも魅力。夏バテ予防や健康を意識した美食として、支持を集めている。

 「凪」では、対馬の穴子の鮮度と品質を守ることに一切の妥協がない。長崎の信頼ある卸業者を通じて仕入れを行い、水槽で厳格に管理。先代オーナー木下慎一郎氏の夫人の実家が対馬の漁師という縁を大切に引き継ぎ、最高の状態で調理に供される。ストレスに敏感な穴子は泳がせると弱るため、網のなかで密集させて運ばれ、新鮮さを保つ。穴子の旬は5月から9月。夏の海流が脂を増し、刺身やしゃぶしゃぶに最適な味わいをもたらす。対馬の豊かな海が育む穴子は、「凪」の料理の礎であり、他では味わえない本物の風味を約束する。

 「凪」には、全国でも珍しい穴子の“フルコース”がある。また、アラカルトも、穴子の魅力を極限まで引き出す逸品ぞろいだ。とくに刺身、しゃぶしゃぶ、白焼きは、他では得られない価値をもつ。刺身は、歯ごたえ豊かな食感と濃厚な甘みが際立ち、常連客から「ヒラメを超える」と称賛されるほどの極上の味わい。年中提供される稀有さも特筆すべき点で、他店では季節限定や不定期提供が多いなか、「凪」ではいつ訪れても楽しめる。

 しゃぶしゃぶは、穴子の頭と骨を3~5時間煮込んだ出汁が主役。丹念に手づくりされた出汁は、穴子の繊細な旨みを最大限に引き出し、贅沢な一品に昇華させる。銀座でも出会えない味として、美食家たちを驚嘆させている。白焼きは、わさびと塩でシンプルに味わう一皿。焼き上げることで引き出される穴子本来の甘みと香ばしさが際立ち、素材の純粋な美しさを存分に感じられる。

松本氏の志「愛した味を未来へ」

一番右が松本氏
一番右が松本氏

    「凪」を運営する松本氏は熊本県玉名市出身。長崎大学卒業後、明治安田生命に35歳まで勤め、約20年前から不動産事業に従事している。仕事柄、富裕層を接待することも多く、「凪」に多くのお客様を連れていく十数年通い続けた常連客だった。転機となったのは2023年。木下氏が外務省の在ブラジル公館の公邸料理人への挑戦を決め、店は後継者不在のため閉店の危機に直面した。松本氏は「この味を残したい」と、木下氏に掛け合い、飲食事業部を立ち上げて引き継いだ。

 調理を指導するのは、その道37年の梛木春幸顧問だ。鹿児島県枕崎市「なぎ食堂」の長男として生まれ、幼少期から料理に親しんだ。小学校高学年で弟妹の夕食を担当し、「兄ちゃんのご飯はおいしいね」と言われたのが原点だ。辻調理師専門学校卒業後、京都の老舗料亭で修行を積み、ホテルや割烹で総料理長等を歴任した。鹿児島に戻った後は、市場に出る前に捨てられる魚を利用した灰干し魚の駅弁「桜島灰干し弁当」を開発、考案。鹿児島中央駅で87カ月売上高1位の実績をもつ。今は専ら、食育についての講演・授業のため全国を回っている。

 そんな梛木氏の指導のもと、「凪」は品質と健康志向を追求し、既成品や防腐剤を使用せず、無添加にこだわる。ポン酢や出汁は一から手づくり。ランチでは、糸島や福岡産の野菜を用いたサラダや、手づくりドレッシング、わらび餅を提供し、健康志向のメニューが女性客や、本物志向のお客様にも好評だ。ランチの“博多美人御膳”や“穴子ひつまぶし”は、今までにないランチスタイルで、博多新名物にしたいと松本氏は語る。

 松本氏が引き継いでから同店は穴子専門店としての性格を強めていると語る。意欲的なスタッフとともに新たな挑戦も行い、新たな名物も生まれている。24年には、JA・ぐるなび主催の「〆おにぎり&おつまみおにぎりグランプリ」で煮穴子おにぎりが全国2位、九州・沖縄1位を獲得した。

落ち着いた空間で過ごす、福岡での特別なひととき

 店内には、木の温もりに満ちた落ち着いた空間が広がる。カウンターとテーブル席は接待やデートに最適な雰囲気を醸し出す。客層は本物の穴子の味を求める食通や、静かな食事を望むビジネスマンが中心。化粧室には女将のこだわりのハンドソープを置くなど、隅々まで神経が行き届いており、心安らぐ時間が流れる空間は、知る人ぞ知る隠れ家として愛されている。

 松本氏によると、対馬の穴子の地元以外の出荷先はほぼ東京と大阪であり、福岡で対馬の穴子を味わえる店は非常に少ない。舞鶴3丁目の立地は、赤坂駅から徒歩圏内にあり、博多や天神からのアクセスも良好。佐賀など県外から毎月訪れる客もいるほどだ。福岡の夜を彩る一軒としておすすめだ。地元客には、日常の喧騒を忘れられる癒しの場として親しまれている。

 ただ、対馬の穴子も多くの魚と同様、気候変動の影響により漁獲量が減少し、価格も長年にわたって上昇している。この対馬の海の恵みが未来永劫味わえるとは限らない。ぜひ「凪」でこの新名物を堪能してほしい。福岡の新名物とも言える対馬産穴子、ぜひご賞味あれ。


<INFORMTION>
旬魚季菜 凪

〔所在地〕
福岡市中央区舞鶴3-1-10
〔営業時間〕
(ランチ:平日のみ)午前11時半~午後2時(LO:1時半)
(ディナー:月~土)午後5時半~10時(LO:9時)
定休日:日祝日
〔TEL〕
092-741-5108
〔URL〕
https://syungyokisai-nagi.hp.peraichi.com/

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