2度の火災で遅れ発生 北九大が新学部設置も

(2022年4月撮影)
だが、22年に旦過市場を2度の火災が襲ったことで、再整備は停滞を余儀なくされた。1度目は22年4月19日未明、新旦過横丁付近から出火し、通報から約65時間後に鎮火するまでに42軒・1,924m2が焼損。2度目はそれから約4カ月後の8月10日夜、同じく新旦過横丁付近の飲食店から出火し、約22時間後に鎮火するまでに45店舗・3,324m2が焼損した。2度にわたる大火災で、いずれも人的被害がなかったことは不幸中の幸いだったが、旦過市場ではまずは火災からの復興が最優先として、再整備全体のスケジュールの見直しを余儀なくされた。
その後、23年3月末に、火災跡地で仮設店舗「旦過青空市場」が完成。当初は火災被害に遭った店舗を中心に営業が行われていたが、再整備の進行にともなって立ち退きを余儀なくされた店舗も青空市場内に移転・開業。23年12月には、2度目の火災で焼失した映画館「小倉昭和館」も再建された。
そして24年1月に、「北九州広域都市計画事業旦過地区土地区画整理事業(第1回計画変更)」として、再整備事業が再始動した。計画変更の理由は、施行区域内の街区の見直しにともなう土地利用計画変更および、事業費増にともなう資金計画の内訳変更によるもの。このとき、当初は約34億4,000万円とされていた事業費が、約47億5,000万円に増額。また、当初は2階建の店舗建物とされていたBC地区の建築物の概要が変更され、敷地面積約624m2にS造・地上5階建、延床面積約4,000m2(概算)の建物となった。同建物は、1・2階部分はBC地区の敷地上に建っているが、3~5階部分は旦過市場のメインストリートである新市場通りの上をまたぐかたちで建設。3階以上がちょうど通りの上にかかるアーケードのようなかたちとなる。
一方で24年5月、公立大学法人北九州市立大学が新学部「情報イノベーション学部(仮称)」を旦過市場に設置することを決定したと発表。同学部は情報エンジニアリング学科(仮称)と共創社会システム学科(仮称)の2つの学科で構成され、収容定員は472名。学部開設時期は27年4月とされた。新校舎は、前述のBC地区の建物の2~5階部分を大学が使用し、1階部分は市場店舗となる予定だ。なお、当初は建物の完成予定は27年3月末としていたが、計画より約8カ月遅れ、27年11月になる見込みだ。
24年10月からはA地区にあたる中央市場の既存店舗建物の解体工事に着手。そして今年3月から商業施設(立体換地建築物)の本格工事に着手したことは、冒頭に紹介した通りだ。
市は推進体制強化も地場からは不満の声
北九州市では5月15日、新たに「旦過市場プロジェクト推進本部」を立ち上げた。同推進本部は、北九州市が掲げる「観光大都市への進化」「世界をリードするサステナブルシティ」という政策と、市場関係者による未来ビジョンとを掛け合わせ、次の100年に向けた「安全な旦過市場」「魅力ある旦過市場」の実現を目指して、ハード・ソフト両面でさらにもう一段ギアを上げて取り組んでいくために、市の推進体制を強化していくためのもの。資材や人件費の高騰など、計画当初と比べて外部変化が大きく変化し、工期や整備費が増大する可能性が生じているなかで、旦過市場の関係者や利用者に支障が出ないよう、伴走支援しながら万全の体制で再整備事業に取り組んでいきたいとしている。
「安全な旦過市場、魅力ある旦過市場をつくるという大目標に向けて、官民一体となって、さまざまな課題を乗り越えていきたいと思います」(北九州市神嶽川旦過地区整備室)。
だが、その一方で、北九州市側の進め方に対して、一部の市場関係者からは不満の声も挙がっている。たとえば、A地区の商業施設に入居する場合の費用的な問題などだ。
同施設は前述のように立体換地建築物という性質上、もともとの地権者および借地権者らに、建物の一部および敷地の共有持分を割り当てるかたちとなっている。だが、新たな商業施設に入居して営業する際の条件がいまだ不明瞭で、そのうえ費用的な部分が、当初の話から二転三転。たとえば、地権者らはこれまで所有していた土地に見合ったテナントスペースをもらえるという話で、自分らの店舗にかかる移転費や改装費のみを考えていた。だが、商業施設に取り付ける看板(外部看板および建物内部の誘導看板)や施設共用部も含めた空調設備のコスト、監視カメラや警備員代などのセキュリティのコストなども、地権者が分担して支払わなければならないというような話が出ているという。
「私のところは地権者でもありますし、新たな商業施設に入居する予定ではいます。ですが、市側の話は、まちづくりコンサル会社の言いなりで、かかる費用についてもコンサル会社が提示する割高なものばかり。『それはおかしい』と、こちらで相見積もりを取ろうものなら、コンサル会社からは露骨に嫌な顔をされる始末です。また、1階部分の商業フロアもまだ埋まっていないようですし、2階部分の飲食フロアを担当するはずだった企業が撤退したとの話も聞いています。さらに3・4階の駐車場の管理にしても、当初行うはずだった事業者が手を引いたようです。本格工事が着工し、来春には建物自体は完成する予定のようですが、このままでは商業施設がきちんと開業できるかどうか…。今は不安でなりません」(地権者でもある市場関係者)。
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いよいよ本格化してきた旦過市場の再整備事業だが、最も難しいのは、新たな施設にこれまでの旦過市場の魅力をどこまで受け継がせることができるか、という点だ。
たとえば、本誌vol.19(19年12月末発刊)で取り上げた、福岡市東区・香椎地区の区画整理事業を例に挙げてみよう。同区画整理事業では、約20年間の事業期間で鉄道高架化や幹線道路や区画道路、駅前広場や公園などの一体的な整備が行われ、たしかに街並みはキレイに整備された。だが、街区が整備されて新たな建物が建設される過程で、それまでのテナント等が次々と退転・移転を余儀なくされるとともに、そこを目当てにしていた買い物客も途絶。その結果、区画整理完了からすでに5年以上が経過しているが、以前と比べて人通りは少なくなり、まちの賑わいは失われてしまっている印象だ。同じような現象が、旦過市場においても起こらないとも限らない。
私見だが、そもそもの旦過市場の魅力とは、さまざまな商店がひしめき合っていた“雑多さ”であり、老朽化した店舗が醸し出すレトロな雰囲気に包まれたなかで、商店主らが馴染みの買い物客と交わす言葉が生み出す喧騒や、店先に並ぶ鮮魚や総菜・漬物などから立ち上る香気(あるいは臭気)、観光客らが楽しむ試食や食べ歩きなど、無意識的に五感をフル動員して感じられる、そうした“空間そのもの”であったように思う。言い方は悪いかもしれないが、旦過市場は人々がわざわざおしゃれして行くような“ハレ”の場ではなく、もっと日常に密着した普段使いの買い物の場だ。そうした旦過市場の本質的な良さをどれだけ受け継がせることができるかに、再整備の成否がかかっているように思う。
今後、再整備が進んでいくなか、市側と市場関係者側とがうまく歩調を合わせながら、いかにして「安全」で「魅力ある」旦過市場を、うまく再構築していけるか──。引き続き動向を見守っていきたい。
(了)
【坂田憲治】

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