アクセスの良さだけでなく過密ぶりも日本一の空港
3月20日、福岡空港において増設整備が進んでいた第2滑走路が供用開始となった。これにより、「日本一の過密空港」といわれる福岡空港の混雑緩和への期待が寄せられているものの、その一方で、発着処理能力の向上が限定的なため、根本的な解決にはつながらないとの見方もある。
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福岡空港は西日本地域の拠点空港として、離島を含む国内外の各都市との人・物の流動を支えているほか、九州およびアジアの玄関口として社会経済活動の中心的役割をはたしている空港だ。都心部に近く、地下鉄・都市高速道路などのアクセスが整備されていることで「日本一アクセスの良い空港」としても知られている。
戦時中の「席田(むしろだ)飛行場」および終戦後の米軍接収下の「イタヅケ・エアベース」を前身とする福岡空港は、1972年4月に運輸省(現・国土交通省)所管の「第二種空港」として供用開始されたのが始まり。81年に国際線ターミナルビル(現・国内線第3ターミナルビル)が竣工し、93年3月には福岡市地下鉄が乗り入れ、地下鉄を利用した交通アクセスも格段に向上した。99年5月には新国際線旅客ターミナルビルおよび国際貨物ビルの供用が開始。現在、空港法第4条第1項第6号に該当する「国管理空港」に区分されており、約354haの敷地の東側に国内線のターミナル地区を、西側に国際線のターミナル地区を配置している。
これまで福岡空港は、延長2,800m の1本の滑走路で国内線および国際線の両方を賄っていたにもかかわらず、羽田、成田、関空に次いで国内4位の乗降客数を集めており、滑走路1本あたりの離着陸回数は日本最多。その過密ぶりから慢性的な遅延が常態化していたことで、2016年3月には航空法107条3項に基づく「混雑空港」に国内5例目として指定された。そうした状況から、混雑緩和のための発着回数拡大に向けた機能強化策の1つとして、15年度から国土交通省を事業主体に、総事業費約1,643億円を投じて福岡空港滑走路増設事業に着手。なお、先行して進んでいた平行誘導路の二重化整備事業は、20年1月末に完了している。
滑走路は増えたが発着処理能力は微増に

今回新たに増設された第2滑走路は、既存滑走路(延長2,800m)の西側210mの位置に並走するかたちで整備されたもので、延長は2,500m。滑走路の配置は、空港の敷地が狭くても2本目の滑走路を設けることが可能な「クロースパラレル方式」を採用している。
ただし、滑走路が1本から2本に増えたといっても、発着処理能力が単純に2倍になるわけではない。事業着手時の滑走路処理能力は年間16万4,000回で、それが平行誘導路の二重化整備によって年間17万6,000回に上昇し、第2滑走路の供用開始で年間18万8,000回まで上昇。事業着手時と比べて、約1.15倍となる。1時間あたりの発着回数も、これまでの38回から40回とわずか2回の増加に過ぎず、混雑緩和に過度の期待はできない状況となっている。
この発着処理能力の上昇幅が小さい理由は、2本の滑走路の距離が近いため、同時進入・出発は原則として不可となっているからだ。一方の滑走路で着陸を行うと同時に、もう一方の滑走路で離陸に備えて待機するなど、空港の地上交通および離着陸機の調整によって運用効率を上げることは可能となっており、今回供用開始となった第2滑走路は、原則として国際線の離陸にのみ使用される。
なお、地元の理解を得たうえで進入方式を高度化することで、理論上は年間21万1,000回、1時間あたり45回まで増加することは可能とされているが、それでも依然として増加傾向が続いている福岡空港の航空需要を考えると、決して十分とはいえないだろう。19年4月から滑走路を含めた空港運営を行っている福岡国際空港(株)(FIAC)では、24年3月に24年度から28年度までの5年間の中期事業計画を発表。それによると、今後も東南アジアのリゾート路線や中国の未就航都市、欧米路線などの誘致に取り組むなど、航空ネットワーク拡充に努めていく方針を示している。こうした将来にわたる航空需要増を考えると、今回、第2滑走路が供用開始となったものの、混雑状態は続いていくと考えられる。
国際線で新ターミナルビル開業
国内線でも新複合施設が着工
一方で、福岡空港では滑走路の増設以外にも、施設面を含めたさまざまな機能強化が進んでいる。
たとえば国際線ターミナル側では、23年2月に従前の駐車場を立駐化し、収容台数を約1.4倍に拡大させた新立体駐車場の供用が開始。同年12月には国際線旅客ターミナルの北側へコンコースを延伸し、PBB(旅客搭乗橋)を従前の6基から12基に倍増させた。さらに24年12月には、国際線ターミナルビル側で新たな管制塔の運用が開始。また、国際線1階到着ロビーにおいてバスターミナル機能を有したアクセスホールも供用開始となったほか、国内線・国際線を結ぶ連絡バスの国際線側の専用道も供用開始となった(国内線側の専用道は26年度整備予定)。
そして今年3月28日には、増改築工事が進んでいた国際線旅客ターミナルビルが、グランドオープンを迎えた。今回のグランドオープンでは、国際線旅客ターミナルビルの床面積が従来の約2倍に拡張され、保安検査場および出国審査場を移設・拡張。保安検査場には新たに「スマートレーン(スマートセキュリティシステム)」が7台導入され、処理能力が従来の約2倍となることで、出発手続き時間の短縮を図る。また、待ち列に並ばず優先的に保安検査を受けられるレーン「プライオリティレーン」が九州で初めて導入された。さらに、保安検査・出国審査通過後のエリアには、従来の約4倍の広さとなる新免税店のほか、「賑やかな屋台街」をイメージしたフードコート「HAKATA FOOD HALL」がオープンし、ショッピングや食事を楽しく快適に過ごせる空間を提供。ウォークスルー型の免税店の中央にはランドマークとなる櫓(やぐら)を設け、出発間際まで福岡らしさ・日本らしさが感じられるよう演出されている。同ターミナルビルでは今後11月にも、既存施設内部改修により搭乗待合室内にさらに商業テナントを拡充する計画となっている。
一方で、国内線ターミナル側でも、24年4月に新たな立体駐車場がオープン。構造は8層9段で外観は博多織の白と黒のデザインをモチーフとしており、収容台数は従来の約2倍となる1,617台。この新立体駐車場の完成にともない、旧立体駐車場は閉鎖された。

旧立体駐車場の跡地では今年4月から、国内線ターミナルビルと一体となった商業・ホテル・バスターミナル機能を有する複合施設の整備がスタートした。新たな複合施設は、地上11階建の延床面積約4万m2となる計画で、既設の国内線ターミナルビル(地上5階・地下2階建/延床面積約12万8,000m2)に接続するかたちで整備される。コンセプトを「旅する空港」とし、空港ならではのエモーショナル(非日常)な空間でローカル(福岡・九州)とグローバル(アジア)を旅することができる唯一無二の商業施設を目指しており、到着口(北)正面に1階から4階をつなぐ大階段を配置。フロアごとに異なる表情を見せることで、上階へと惹きつける仕掛けを施す。
1階部分は「旅の準備と日常コンテンツフロア」とし、到着フロアとの接続階として、旅の楽しみをアシストするトラベルグッズやサービス店をラインナップ。出発フロアとの接続階となる2階部分は「食と土産の集積フロア」として、福岡・九州を中心とした日本各地の食物販や工芸品などを集積する。3階部分は「日本キャラクター・体験型コンテンツフロア」として、新たな日本の文化を発信するキャラクター雑貨や体験コンテンツのフロアとし、4階部分は「日本最大のアジアンフードフロア」として、異国情緒あふれるユニークな街並みを再現した約8,000m2の空間に、就航先のアジア各国の食文化が楽しめる40店舗超の多彩な飲食・食物販店がそろう。
5~11階部分には(株)西鉄ホテルズによる空港直結型ホテル「ソラリア西鉄ホテル福岡エアポート(仮称)」が入居。7タイプ・全165室の客室を計画しており、上層階からは滑走路や航空機などの空港ならではの景色を楽しむことができるほか、ホテル内にはサウナ付き大浴場やフィットネスなどを併設し、さまざまなニーズに対応する。
さらに新複合施設の1階部分には、路線バスや高速バスの乗車拠点となるバスターミナル機能を新たに整備。国際線側と同様に、連絡バス専用道の国内線側も供用開始となることで、ターミナル間の移動時間が約5分に短縮される。
こうした新複合施設の誕生により、商業面積は新たに約1万1,000m2増え、国内線エリア全体でこれまでの2.2倍に拡張。飲食・物販・サービス施設などの店舗数は新たに約180店舗増え、既設の国内線ビルと合わせて約270店舗とこれまでの3倍になり、国内空港最大級となる。新複合施設の竣工は27年春ごろの予定で、グランドオープンは27年夏ごろを目指している。
都市高延伸&国道3号立体交差
周辺のアクセス強化も進む
こうした空港施設自体の拡充が進んでいく一方で、周辺では強みであるアクセス性をさらに強化していくべく、インフラ整備も進んでいる。
まず本誌vol.39(21年8月末発刊)でも紹介したが、福岡高速道路(都市高)では、「福岡高速3号線(空港線)延伸事業」が進行。これは、福岡市南部地域や太宰府IC方面からの国内線旅客ターミナルへのアクセス強化と、空港口交差点をはじめとする福岡空港周辺道路の混雑緩和を図ることを目的としたもので、現在は空港通出入口が終点となっている都市高3号線(空港線)を空港方面へ延伸するとともに、都市高2号線とは連結路によって接続する。延伸した空港線は、国道3号の地下をトンネルによる立体交差で通過し、一般道出口のほか、空港出口を設けることで、国内線ターミナルに直接乗り入れることができるようになる。空港方面から都市高に乗る際は、空港北口交差点の西側に一般道からの入り口を設け、国道3号の地下をトンネルで立体交差した後、新設の料金所を通過。そこから、天神および太宰府方面へ分岐する構造となっている。延伸区間の終点部には空港北口(仮称)出入口を設け、道路延長は約1.8km(約1.4km+連結路約0.4km)。21年7月の事業認可告示・工事開始告示を経て、21年度から地質調査や路線測量、用地測量、設計などを進めており、23年度からは支障物件移設工事に着手している。
また、空港にもほど近い国道3号・博多バイパスの下臼井交差点から空港口交差点までの区間約1.6kmにおいては、22年度から国の直轄事業として立体交差化事業が進められている。同区間は交通量が多く、空港や博多港、博多駅といった主要交通ハブを結ぶ要衝にあたることから、日常的に激しい交通渋滞が発生。とくにピーク時には、区間内で走行速度が10km/hを下回る状況も確認されており、深刻な交通ボトルネックとなっている。同区間の博多バイパスの立体交差化により、現在7カ所ある信号交差点を回避可能になり、通過交通が信号待ちなしで走行できるようになる。これにより、松島交差点から空港口交差点までの所要時間は、現行の25分から20分へと5分短縮される見込みだ。この事業には25年度当初予算で約20億円が計上されており、総事業費は約360億円の見込み。事業完了予定は未定なっている。
さらに福岡市では、23年3月に博多駅まで延伸された福岡市地下鉄七隈線を、博多駅から国際線ターミナルまで再延伸することも検討。仮に国際線への地下鉄延伸が実現すれば、さらなるアクセス向上により、ますます便利な空港になることは間違いない。
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第2滑走路が供用開始となったほか、さまざまな施設面や周辺インフラの拡充が進んでいる福岡空港。今回の滑走路増設が混雑緩和に対してどれだけの効力を発揮できるかは定かではないが、さまざまな機能拡充を進めるなかで諸問題を解決していき、福岡空港が都市・福岡のさらなる発展に寄与していくことに期待したい。
【坂田憲治】

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