コクヨが本格参入 既存ビルを再生・収益化

 文房具やオフィス家具などで知られるコクヨ(株)(大阪市東成区)は今年3月、不動産の企画からリノベーション、運営までを一手に担う、既存ビル再生収益化事業に本格参入した。その第1弾として、東京・蔵前(台東区)にある1棟空きビルを取得し、来春にもリニューアルオープンする計画だ。都市部においては、バブル期に建設された中小ビルの多くが更新・改修が必要な状態で、既存ビルの活用は社会課題となりつつある。コクヨが手がける新たな不動産ビジネスは、どのようなものなのだろうか。

蔵前の既存ビル取得

アセットバリューアップ推進室による取得1号物件となった東京・蔵前の既存オフィスビル
アセットバリューアップ推進室による
取得1号物件となった
東京・蔵前の既存オフィスビル

    コクヨは2021年以降、文具や家具にとらわれない事業領域拡張を推進している。コロナ禍を経て働き方が変化するなかで、オフィス家具や什器、オフィス内装などのファニチャー事業を展開。中小オフィスビルの空室対策、既存建物の価値向上のニーズに対応するために、アセットバリューアップ推進室を今年1月に立ち上げた。蔵前の空きビル取得はその第1弾となる。

 取得した蔵前のビルは、JR総武線および都営浅草線・浅草橋駅から徒歩5分の1998年に竣工したRC造8階建のオフィスビルで、延床面積は2,222.51m2(672坪)。東京都心部東部の隅田川沿いに立地しており、アクセスも良いことから、働く場として魅力ある施設を目指した改修を実施する計画だ。蔵前の物件は、1号物件として自社で手がけやすい規模や条件だったといい、具体的な改修の内容については現時点では検討中としている。

 「今までは上場企業のオフィスを中心に、働き方の観点からオフィス空間の設計・施工、運営まで含めて行ってきた。この価値をさらに広げていくために、建物のワンフロアだけでなく建物1棟で扱うと、より我々の価値が発揮できると考えている。また、ハードだけでなく不動産の企画など事業的な視点、経済的な価値を含めて、オフィスで働くことのさらなる価値が発揮できるのはないかとのことで、3年くらい前から検討を続けてきた。不動産価値を上げていくことが大事だ」(齋藤丈寛アセットプランニンググループリーダー)という。

一気通貫モデル目指す

アセットバリューアップ推進室の齋藤丈寬アセットプランニンググループリーダー(左)と竹本佳嗣専門部長(右)
アセットバリューアップ推進室の
齋藤丈寬アセットプランニンググループリーダー(左)と竹本佳嗣専門部長(右)

 アセットバリューアップ推進室では、既存事業として内装設計や施工、オフィス家具・什器に加え、事業領域の拡張として投資目線の不動産企画や建築リノベーションによる再生計画、オープン後の場の運営モデルの構築など行う。請負、マスターリース、取得といった手法で、空間のバリューアップを手がけていく方針だ。

 「事業の仕組みを社内で調整し、具体的な案件で検証していった。そのなかで自分たちが収益を上げる事業にポイントをおいて、自ら物件を取得することや建物オーナーから1棟丸ごとマスターリースを行うことを検証しながら、(1号となる)物件を探していた」(竹本佳嗣専門部長)。これまでの既存事業のシナジーを生かしながら、最終的には自社取得やマスターリースした物件の価値を運営によりソフト的に高めていく、“一気通貫モデル”を目指すとしている。

既存ビル再生収益化プロジェクトのイメージ
既存ビル再生収益化プロジェクトのイメージ

    過去の事例として、都内ビルオーナーの相談を受け、コクヨが企画、設計、施工を行い、フロア改修と用途変更などにより賃料(坪単価)をアップ。その結果、ビルはほぼ満室稼働となり、オーナーはビルを大手デベロッパーへ転売した。アセットバリューアップ推進室では同様に、ビルオーナーが所有する不動産バリューアップも手がけていく意向だ。

ハード・ソフトで強み

 アセットバリューアップ推進室は、6人のメンバーで、新卒からのプロパー社員のほか、中途入社の社員などで構成。推進室のメンバーに加え、社内で空間設計や施工管理といった建築系に携わっている社員にも、必要に応じて業務に関わってもらっているという。

 コクヨはアセットバリューアップ推進室が発足する前から、不動産に関する事業を行ってきた。これまで手がけてきた空間の価値向上の事例では、12年4月に開設した渋谷ヒカリエ8階のメンバー制ワークラウンジ「クリエイティブラウンジ・モブ」がある。運営はコクヨのグループ会社が担当。「毎日働いている人で賑わっており、こうした状態を(アセットバリューアップ推進室でも)つくっていきたい。だから、運営が大事になってくる」(竹本専門部長)という。

 また、コクヨの社員寮を集合住宅へと改修して23年9月にオープンした生活実験型集合住宅「THE CAMPUS FLATS TOGOSHI」(東京都品川区戸越)では、入居者が“いつかやりかったこと”を試せる「プロトタイプする暮らし」をコンセプトに、共用部を充実。狭い単身用住戸でも、共用部の魅力によって高い水準の賃料を確保できている。この経験を生かして、大阪の企業が保有するオフィスビルを住宅に用途変更する提案も行っているという。

 アセットバリューアップ推進室では、ハードとソフトを一貫して提案することで、強みを発揮していく。今後、蔵前での事業が軌道に乗ってくる段階で、既存ビルの取得以外のマスターリースなどの手法を用いて価値が上がった新たな物件の運営など、事業拡大を図っていく方針だ。


<プロフィール>
桑島良紀
(くわじま・よしのり)
1967年生まれ。早稲田大学卒業後、大和証券入社。退職後、コンビニエンスストア専門紙記者、転職情報誌「type」編集部を経て、約25年間、住宅・不動産の専門紙に勤務。戸建住宅専門紙「住宅産業新聞」編集長、「住宅新報」執行役員編集長を歴任し2024年に退職。明海大学不動産学研究科博士課程に在籍中、工学修士(東京大学)。

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