建築分野の中長期ビジョン 国交省が検討を開始

 国土交通省は、今後10年を見据えた建築行政の中長期ビジョンの検討を始めた。「建築分野の中長期的なあり方に関する懇談会」(座長=松村秀一・神戸芸術工科大学学長)を設置し、5月23日に第1回目の会議を開催した。建築分野を取り巻く環境が大きく変わっている。既存建築ストックの有効活用や木材利用の促進、新技術・新材料の導入促進など直面する残された課題に対して、中長期的な視点が必要なものについて検討する。5月30日からは広く意見募集も開始。懇談会として、9月16日に取りまとめを行う予定だ。

2050年見据えた議論

 初回の懇談会では、今後議論するテーマとスケジュール、意見募集、議論する論点案を検討した。残された課題ごとにテーマを決めて、2回目以降の会合で議論していく。議論するテーマとしては、まず既存ストックの活用とそれを支える担い手などについて検討。次に、建築物の質の向上に役立つ新技術・新材料の活用、脱炭素化に貢献する木材利用促進、気候変動問題に付随する災害激甚化への対応などを議論していく。建築物の質については、非住宅分野で対応が遅れている性能などの総合評価や表示、誘導体制などを整備する。最後に、まちづくり・社会との接続といった課題に対して、単体規定と集団規定の接続部分や建築物の集合体としてのまちづくりなどについて検討する。

 論点案は、中長期ビジョンに盛り込む全体像を示したかたちだ。論点案で示されたのは、①中長期的なビジョンの目的、②建築分野において目指す社会像、③目指す社会像の実現に向けた取り組み事項(ビジョンの枠組み)、④中長期的なビジョンの実践にかかわる点検・評価―となっている。具体的な方向性については、議論のなかでまとめていくことになる。

 ビジョン作成の目的については、国民、業界、行政のそれぞれの目線に留意して、投資の予見性、技術開発の方向性、人材確保・育成の計画性に必要な道筋を示していく。目指す社会像としては、社会全体および建築分野それぞれの方向感を考慮して、キャッチフレーズのようにわかりやすく、心をつかむ展望や夢をもてる、楽しいと思える展望とするように留意。社会資本としての建築物や市街地の在り方を示すような展望を検討する。

 また、中長期的なビジョンは、どの程度先の社会を見据えるべきかを議論。そのうえで、建築物のライフサイクルの長さ、大規模建築プロジェクトに要する期間が長期間となること、ストックの有り様、社会構造の変革点に留意しながら、2050年などの中長期的スパンを見据えた検討を行うとしている。

中長期ビジョンの枠組みイメージ(出所=国土交通省)
中長期ビジョンの枠組みイメージ(出所=国土交通省)

ストック活用を中心に

 ビジョンの枠組みとしては、社会変化やどのような取り組みが求められるのかを議論。人口動態などの社会全体の動向や医療や物流など他産業の動向、DXの進展など社会の動きを留意し、建築業界全体が持続できるよう担い手や市場環境整備に関する施策を強化するほか、新築に比べて圧倒的多数を占めるストックを活用する取り組みをビジョンの中心に据えるべきとしている。また、SDGsやESGなど建築分野でも注目されている市場動向についても、着目すべきとした。

 ビジョンの実践にかかわる点検や評価について、PDCAをどう進めていくべきか、方向性と具体的な取り組みの効果検証をどの程度の期間で行うべきかを中心に、議論を行う。進捗を測るうえで、住宅に比べて非住宅建築物に関する統計情報が少なく、目指すテーマに応じて、これまでの施策の実施状況をレビューし、過去の教訓を今後の検討に生かすべきとしている。そのために、建築データの利活用の推進、データや合理的な根拠に基づいて意思決定を行う「EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)」よる効率的・効果的な施策立案を検討する。

 また、見直し期間の設定や、どの程度の期間で評価・点検すれば実効性があるかについては、施策効果の見極めがしやすい概ね3~5年程度を目安に検討する。

現場の意見を幅広く

 5月30日から12月中旬までを予定している意見募集は、「建築分野の中長期的なあり方に関する意見箱」として、国土交通省のホームページ上で公開。QRコードや回答フォームから提出できる。意見募集の対象として想定しているのは、設計や施工者、所有者、利用者、開発事業者、不動産仲介業者、金融、コンサルタントなど幅広い。

 意見は、立場や検討テーマの種類、具体的な意見内容を個人情報がわからないように留意して集約、公表するとしている。また、資料としては懇談会のほか、建築分科会建築制度部会などで随時配布して、議論に活用する。

 意見募集するテーマは、大きく7つのテーマとそれらの内訳として28に分類される項目で構成。7テーマは、①既存ストックの活用、②人材確保・育成、③新技術・新材料、④地球環境問題、⑤建築物の質、⑥持続可能な市街地、⑦その他―となっている。とくに⑦その他については、建築分野の目指す社会像のキャッチフレーズなど、中長期的な在り方の提案を求めている。

「意見箱」における意見の分類一覧(出所=国土交通省資料から著者作成)
「意見箱」における意見の分類一覧(出所=国土交通省資料から著者作成)

<プロフィール>
桑島良紀
(くわじま・よしのり)
1967年生まれ。早稲田大学卒業後、大和証券入社。退職後、コンビニエンスストア専門紙記者、転職情報誌「type」編集部を経て、約25年間、住宅・不動産の専門紙に勤務。戸建住宅専門紙「住宅産業新聞」編集長、「住宅新報」執行役員編集長を歴任し2024年に退職。明海大学不動産学研究科博士課程に在籍中、工学修士(東京大学)。

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