2024年03月29日( 金 )

し烈さを増す寿命延長レース~125歳まで生きますか?それとも1000歳まで?(中)

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国際政治経済学者・参議院議員 浜田 和幸 氏
60才を過ぎても出産可能に?

 日本ではあまり知られていないが、インターネットの生みの親とも呼ばれているアメリカ国防総省の先端科学技術研究所(通称「ダルパ」)の存在は世界を変える新技術の開発においては欠かせない。なぜなら、インターネットをはじめ技術関連の未来研究においては、当初の目的は軍事そのものであることが多いからである。


 このダルパが、近年、国家予算の半分近くの資金の中から、強力に研究開発を進めているが、人体改造計画に他ならない。本来の目的は、戦場で致命的な傷を負った兵士の人体の再生技術や、兵士の運動能力や耐久能力を飛躍的に高めるための細胞研究であった。
 たとえ戦場で腕や足が失われたとしても、そうした兵士の肉体を速やかに再生するための技術。はたまた、1週間、2週間にわたり、飲まず食わず、睡眠をとらなくとも判断力や決断力に影響を受けないような、人間の意識改革と生命力の強化に細胞研究の成果を応用しようとするものである。


 オバマ大統領も、このダルパに対して、「人間の脳の活性化について研究を進めるように」との特別な指示を出している。いわば、オバマ大統領のお墨付きプロジェクトである。こうしたアメリカ政府の潤沢な研究開発費のお陰で、アメリカにおいては、人体の再生研究に関する国際会議が頻繁に開催されてきた。


 具体的には、2014年末には、科学史上最大と呼ばれる寿命延長のためのバイオテクノロジー会議が開催された。ハーバード大学をはじめ、世界の名だたる延命、生命科学の専門家が一堂に会し、かつてないほど創造的な研究成果が相次いで発表された。
 たとえば、マウスを使った実験であるが、人間に例えれば「60歳の高齢者を20歳の青年に若返らせる研究」の成果も発表された。これこそが、冒頭に紹介したNMNの力である。何しろ、糖尿病のマウスを使った実験で、肥満状態にあるマウスにNMNを一週間飲ませた結果、血糖値が大幅に低下。「糖尿病も改善し、老化した膵臓(すいぞう)の機能もよみがえった」と報告されている。夢のような話だが、「60歳を過ぎた女性が20代に若返り、出産も可能になる」という。


 更には、近年、遺伝子の解析スピードが急速に上がっており、ビッグデータの解析手法を使うことにより、長寿遺伝子の解析も長足の進歩を遂げている。その研究対象になっているのがサーチュイン遺伝子なのである。現在、7種類のサーチュイン遺伝子の存在が確認されている。普段は眠っているこれらの遺伝子を覚醒させることで、大幅な延命効果が期待できるというから、アラブの大富豪に限らず、ビル・ゲイツやウォーレン・バフェットら世界の富裕層の間ではこの話題でもちきりのようだ。 


 こうしたサーチュイン遺伝子の存在を発見したのが、冒頭にも述べたワシントン大学の今井眞一郎教授である。同教授によれば、通常、「あらゆる生物の細胞にNMNは含まれているのだが、加齢とともに減っていく傾向にある」とのこと。そこで、こうした細胞内のタンパク質の1種であるNMNを増やすことができれば、衰えた細胞が元の若々しい臓器の再生につながると仮定されている。さらにはアルツハイマー病についても、早い段階からこのNMNを取り入れていれば、病気の発症も抑えられるという。


 我が国の食品加工会社でも、既にこのNMNを独自に製造できる術を開発している。要は、Googleにとどまらず、アメリカの国防総省が先鞭をつけた、人体改造計画、延命研究は、まさに、世界のベンチャー企業や投資家の関心を大きく刺激し、新たな成長産業として飛躍を遂げる原動力となっているのである。


 このようにアメリカでは、官民を挙げて夢を現実のものにしようとする研究が、確実に動き始めている。そして、そうした研究の重要な部分を日本の研究者が担っているのである。Googleの共同創業者の1人であるラリー・ペイジは、ヘッドハンティングをしたカッツウェル博士とともに、2045年を目標に、「人間の頭脳を現在より10億倍強化する計画」を温めている。
 言い換えれば、人間の頭脳をビッグデータ化するとともに、人間の肉体や生命を永久化しようとする試みに他ならない。人間とマシーンの合体とも受け止められる。これを単なる空想の産物と笑い飛ばすのか、あるいは、科学的なニューベンチャーとして真剣に受け止めるのか。どちらの視点に立つかによって、人類と地球の未来が大きく左右されることになるに違いない。

(つづく)


<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。

 

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