政治経済学者 植草一秀
5月29日に開いたガーベラの風国会イベント「参院選で一票一揆 しょぼい減税を-ぶっ壊す!」で「地球温暖化CO2起源説のウソ」のテーマで極めて貴重な説得力のあるご講演を賜った工学博士で元静岡大学教員の松田智氏(35分50秒~1時間5分15秒まで)が拙著『財務省と日銀 日本を衰退させたカルトの正体』(ビジネス社)の書評を公開くださった。この場を借りて深く感謝申し上げたい。7月27日に開かれたISFシンポジウム「財務省解体と消費税ゼロを問う」でも拙著についてのご講評を賜った。重ねて厚くお礼申し上げたい。
松田氏の書評から一部を紹介させていただく。
「植草氏はこれまでも多数の著書を世に問うてこられたが、今回の新刊は、格別に優れた出来映えだと私には思われる。その根拠は、まず何と言っても読みやすく分かりやすいことだ。」
「例えば昨年出版された白井聡氏との共著『沈む日本 4つの大罪』も、ほぼ同じ主張を述べた本だが、今回の新刊の方が断然分かりやすい。その理由の一つは、データの記載された図表が豊富に載っていて、主張の内容が一目瞭然に理解できるからだろう。そして、大手マスコミでは解説されない真実が、次々と露わにされる。その有様はまさに『壮観』で、私などはページを繰って読み進みながら『へえ〜ッ、そうなんだ・・』と何度もつぶやいたものだった。読んでいて、実にワクワクした。」
「その例を挙げよう。まず『日本の財務状況は危機的な状態にあって、財政破綻したギリシャよりも深刻なくらいだ』との主張が石破首相からも言われたしマスコミにも何度も出てくるが、これが実は大ウソだということ。確かに日本政府の23年度末での負債は1,442兆円にものぼるが、一方金融・非金融の資産総額は1,700兆円もあり、日本政府は259兆円もの資産超過の状態にある。この数字は、内閣府が発表する国民経済計算年報に載っている、政府発表データである。だから、政府自身が財政破綻するリスクはゼロに近いと言っているに等しいのだが、マスコミに宣伝されるのは、国民一人当り1,000万円相当の借金(1,300兆円の負債)だけで、それを上回る資産があることなど、ほぼ全然伝えられていないのだ。上の数字は「一般政府」つまり日本政府全体での数字で、一般政府は中央政府、地方政府、社会保障基金の三カテゴリーに分かれる。その中央政府だけを見れば、23年度末で負債が1,474兆円、資産が778兆円で、696兆円もの赤字になる。財務省が盛んに宣伝するのは、この数字の方だ。実際には、地方政府と社会保障基金を合わせると上記のように大きな黒字なのに。故に、財政健全化のために大型増税などは全く不要なのに、大ウソ宣伝がまかり通っていることになる。」
「次に、日本経済の実情を見ると、1995年から2024年までの30年間に、ドル建ての名目GDPは中国が25.7倍、米国が3.8倍に伸びているのに、日本は0.73倍、つまり目減りしている。しかし経済が全く成長していないのに大企業の利益だけは激増し、内部留保は増え続けた。その分、労働者の実質賃金は減り続けた。この事実を、政府与党はもちろん、大半の野党も正面切って取り上げてはこなかった。この点をしっかり強調するのが『本物の野党』のはずである。今回の参院選の大きな争点は、消費税をどうするかだったが、政府与党や大手マスコミの説明では、消費税は社会保障の財源だから、これを廃止するなら代わりになる財源を示すべきだとなっていた。しかし実際には、消費税が導入された1989年度から2023年度までの間に、消費税で509兆円を得ているのに、個人と法人の所得税・法人税の減収は605兆円にのぼる。つまり、消費税は、富裕層の所得税と大企業の法人税の減税に使われたのと同じで、社会保障などに使われてはいないのである。この重大な事実の広報を抜きにして、消費税に関するマトモな議論など不可能だったはずだ。つまり、間違ったウソの情報を前提とした消費税論議しかなされなかったというのが実際なのだ。私も、この本を読むまでは、そんなこととは『つゆ知らず』であった。」
拙著を一人でも多くの人に読んでもらいたいと思う最大の理由の一点がここにある。財政論議にさまざまな意見があるのは当然だが、意味のある議論を行うには、まず現実の事実を正確に把握することが必要不可欠。しかし、日本では真実が完全に覆い隠されている。いや、大ウソが権力によって流布され、この間違った事実認定の下で論議が特定の方向に誘導されている。まずは、日本財政の真実、日本経済の真実を一人でも多くの方に知っていただきたいと思っている。
松田氏の書評からさらに紹介させていただく。
「そしてもう一つ、この国の予算構造に大きな問題があることを、国民は知らされていない。かいつまんで言えば、1年間の政策支出が総額23兆円であるのに対し、補正予算は最近の4年総額154兆円、1年平均で39兆円にものぼる。家計に例えれば、家族の衣食住その他の生活費が月23万円なのに配偶者の遊興費が月39万円という状況になる。補正予算を遊興費に例えるのはいかがなものか?との疑問もあろうが、補正予算は大半が各省庁が出す各種の補助金=所管する業界への補助金の給付と引き換えに『天下りポスト』を確保する仕組みがある=なので、家計で言えば遊興費に例えても何の不思議もないのである。つまり、毎年23兆円ですべての支出を賄っている日本財政の外側で、年平均39兆円もの『利権補助金ばらまき財政』が展開され、一方、各省庁は利益供与を受けた企業、業界団体にさまざまな形態でキックバックさせると言う『持ちつ持たれつ』構造が出来上がっているのだ。これはまさに合法的な『賄賂政治』と言うしかあるまい。『政・官・民・学・報』の鉄の五角形(ペンタゴン)と呼ばれる強固な複合体も、元を辿ればこの補助金行政に端を発していることが理解できると思う。だからこそ、多くの御用学者や大手マスコミは、この事実を決して正確に伝えようとはしないのだ。こんな『美味しい』利権を、手放してなるものか・・と。」
「近年の補正予算で大きかったのは2020年度の73兆円で、このうち13兆円が一人10万円の一律給付金で、他に持続化給付金や家賃支援給付金などは比較的透明な予算であるが、一方で16兆円のコロナ対策費その他、透明性の低い『利権予算』とみられるものが54兆円にのぼる。その中には10兆円にものぼる『予備費』が含まれる。まさに使い放題、コロナのどさくさ紛れに、超巨額の国家予算がばら撒かれたのだ。これで、補正予算が『利権の巣窟』であることが明白になる。この利権の巣窟に、シロアリ、ハゲタカ、ハイエナ、イナゴが群がり、食い尽くしていった・・。」
「その結果何が起きたかと言えば、よく知られている通り、市中に出回る資金量が増えて、物価高=インフレが起きたのだ。アベノミクスで『黒田バズーカ』と呼ばれた『異次元金融緩和』でも起きなかったインフレが、実際に起きてしまった。物価上昇率は、目標の2%を簡単に超えて4%にも達した。その物価高が、現在にも続いている。そもそも、インフレ誘導と言う政策自体が、奇異なものである。インフレで喜ぶ国民はいないが、片や経営側にとっては実質的な賃金切り下げになり、多額の借金を抱えるものにとっては借金の減額と同じ効果を持つので、インフレは歓迎される。だから、有権者は選挙の時に、候補者が国民の味方かどうか判別するのに、インフレへの向き合い方が参考になるはずだ。むろん、日銀は伝統的に『インフレの防止』を使命としてきた。これを黒田総裁がひっくり返したのだ。」
「幸いにして黒田構想は不発で、アベノミクスによるインフレは起きなかったが、2020年度コロナ以後の大規模補正予算で民間融資が激増し、その結果インフレが起きた。23年から25年にかけて、インフレ率は4%にも達したので、日銀はインフレ鎮圧に向けて利上げなどの引き締め政策を採るべきであったのに、実際の利上げ幅はとても小さかった。」
「しっかり把握しておくべきは『相変わらず財務省に国家権力の大半が置かれる現実』であろう。巨大な予算配分権、金融行政の監督権限、外国為替資金の管理・運営権、個人や企業に対する税務調査権限を有する財務省・金融庁グループが、その権力を武器に国家を支配してしまうと言う現象が、図らずも生じていると本書は述べている。これらに対して「解体」「分割」の主張が発生するのは当然のことである。」
「第5章『腐敗する日本の政治』では、主に財務省が関わる諸問題を取り上げている。例えば政党交付金と企業献金の問題。これは国会でも議論されたが結論は出なかった。しかし論理的には、企業献金を止める代わりに政党交付金制度を創設した以上、企業献金は全面的に禁止するのが正しい。なお本書では、政党交付金でなく、議員個人に対する交付金制度にすべきだと主張している。」
さらに松田氏は税制の根本問題、日本円暴落を誘導してきた日本政府の政策運営、そして、所得再分配政策をめぐる政治哲学に関する考察についても論評を示されているが、これはこれで重要なテーマになるので、回を改めて解説させていただくことにする。
<プロフィール>
植草一秀(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
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