
本誌67号(2023年12月末発刊)および79号(24年12月末発刊)で、カスタマーハラスメント(カスハラ)についてご紹介し、カスハラと正当なクレームの違いやカスハラ防止条例が制定されるなどの動きがあることなどについてご説明しました。
このような流れのなかで、今年6月4日に、労働施策総合推進法を改正して、カスハラ対策を事業主の「雇用管理上の措置義務」とすることを主な内容する法律が国会で可決・成立しました。早ければ、来年後半にも改正法が施行され、義務に違反した事業主は、報告徴求命令、助言、指導、勧告または公表の対象となるため、事業主はそれまでに対応をしておかなければいけません。なお、79号でもご紹介しました通り、事業主が、労働者が安全に労働に従事できる環境を確保する義務を怠った場合には、被害を受けた労働者から損害賠償請求等の責任を追及される可能があります。
カスハラとは、次の3つの要素をすべて満たすものとされています。
①顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行う
②労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えた言動により
③労働者の就業環境を害すること
まったく理由のない理不尽なクレームはもちろんカスハラに該当し得ることになりますが、理由のあるクレームでも、怒鳴りつけたり、土下座を要求したりすることは、社会通念上許容される範囲を超えるものとして、カスハラに該当することになります。
事業主の講じるべき「雇用管理上の措置義務」とは、労働者の就業環境がカスハラによって害されることのないよう、次のような措置を講じる義務をいいます。今後、必要な指針が定められることになりますので、フォローが必要です。
①労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備すること
②カスハラ抑止のための措置を講じること
③労働者への配慮のための取り組み(メンタルヘルス不調への相談対応、1人で対応させない等の取り組み)
カスハラ被害は、矢面に立たされる労働者が疲弊し、生産性の低下、離職者の増加など事業遂行上の不利益が発生する可能性があります。また、クレーマー対応のために時間、労力、費用を浪費し、ブランドイメージの低下、クレーム対応に労力を割かれて業務遅滞が生じて、他の顧客などに迷惑をかけるなどの問題も発生しかねません。また、繰り返しになりますが、労働者がカスハラ被害で現実に被害を被った場合には、労働者から損害賠償を請求されるリスクもあります。
事業主が、カスハラ対策を講じなければいけないことが法律上規定されるのを機会に、改めて貴社におけるカスハラ対策を見直されることをお勧めいたします。
なお、前述の法改正において、求職者など(就職活動中の学生やインターンシップ生等)に対するセクシュアルハラスメント(就活セクハラ)を防止するための必要な措置を講じることも事業主の義務とされていますので、こちらもご確認ください。
<INFORMATION>
岡本綜合法律事務所
所在地:福岡市中央区天神3-3-5 天神大産ビル6F
TEL:092-718-1580
URL: https://okamoto-law.com/
<プロフィール>
岡本成史(おかもと・しげふみ)
弁護士・税理士
岡本綜合法律事務所 代表
1971年生まれ。京都大学法学部卒。97年弁護士登録。大阪の法律事務所で弁護士活動をスタートさせ、2006年に岡本綜合法律事務所を開所。経営革新等支援機関、(一社)相続診断協会パートナー事務所/宅地建物取引士、家族信託専門士。ケア・イノベーション事業協同組合理事。

月刊まちづくりに記事を書きませんか?
福岡のまちに関すること、再開発に関すること、建設・不動産業界に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。
記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。
企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。現在、業界に身を置いている方や趣味で再開発に興味がある方なども大歓迎です。
ご応募いただける場合は、こちらまで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)