NHK党・立花孝志容疑者、ネットで「犬笛」の代償の大きさ

演説するNHK党党首・立花氏 (1)
演説するNHK党党首・立花氏 (1)

    政治団体「NHKから国民を守る党」の立花孝志容疑者が9日、逮捕された。今回の逮捕に至ったのは、斎藤元彦兵庫県知事のパワハラ疑惑を百条委員会の委員として調査していた元県議(無所属)の竹内英明氏について、「犬笛」と呼ばれる煽動や虚偽情報を投稿した行為である。昨年12月に「警察の取り調べを受けているのは多分間違いない」などと発言したことが対象となった。「犬笛」行為とはどのようなものかを考察する。

逮捕理由は証拠隠滅の恐れ

 今回の経緯と社会的背景を説明する。兵庫県の告発文書問題に絡み、1月に亡くなった竹内英明元県議を誹謗中傷したとして、兵庫県警は名誉毀損の疑いで立花容疑者を逮捕した。SNS上では逮捕を疑問視する声も一部にあったが、県警は立花容疑者が「情報源」とした人物らの捜査を重ねた結果、情報そのものに真実と信じるに足る根拠がなかったと判断。証拠隠滅の可能性があるとして逮捕に踏み切った。

 今回の逮捕に至ったのは、「斎藤知事失職の黒幕」「元県幹部の告発文書作成に関与した」と竹内氏が悪であるかのように断定した動画や投稿をSNS上で拡散した行為についてである。昨年11月の兵庫県知事選で、立花氏は竹内氏が関与したとの発言を行っていた。

 さらに百条委員会の委員長である奥谷謙一県議(自民党)の事務所前で街宣活動を行い、「出てこい奥谷」と声を上げてインターホンを押す様子をネット配信するなどした。竹内氏は家族を守るために議員辞職したが、SNS上での誹謗中傷は続いた。

 立花容疑者は、兵庫県知事選への立候補にあたり、斎藤知事を擁護する立場から立候補を表明。選挙戦では自身の当選は目指さず、斎藤氏を応援する「2馬力選挙」を展開した。立花氏の街頭演説には多くの聴衆が集まり、それまで選挙に関心がなかった人も少なくなかった。立花容疑者は、その後も各地の選挙に立候補し、当該自治体とは関係のない兵庫の話題についても発言してきた。

 6月には竹内氏の妻が刑事告訴をし、兵庫県警に受理されていた。
 代理人弁護士である郷原信郎・石森雄一郎両弁護士が9日にオンラインで会見を開き、「世の中の法を事実上無視するのに近い行動を取った場合は、それなりの対応が行われることを示す意味があった」と今回の逮捕について述べている。

相次ぐSNSでの煽動行為

 SNSにおいて特定の層にしか分からない表現で人々を特定の方向に誘導する煽動的な情報発信を「犬笛」という。近年、SNSにおける投稿・発信により、ターゲットとされた人々が攻撃を受ける事案が相次いでいるが、最近では日本維新の会の藤田文武共同代表が、取材を受けた『しんぶん赤旗』の記者の名刺を自身のX(旧・Twitter)に投稿した件も、「犬笛」行為だとの批判がなされている。

 『しんぶん赤旗』編集局の三浦誠社会部長はデータ・マックスの取材に対し、「インターネットで記者への攻撃を誘発することを狙った悪質な行為である」としたうえで、「名刺は公開されることを前提として渡しておらず、名刺にある直通電話は公開していない。またメールアドレスもドメインしか消しておらず容易に推測できるかたちになっている」「この結果、直接編集局に電話がかかってきたり、なりすましが疑われるメールがほかの事業者に大量に送り付けられている」と藤田氏の行動を厳しく批判した。

 『赤旗』は編集局長と編集長名で抗議文書を出したが、藤田氏は「(赤旗は)共産党のプロパガンダ紙と認識している」として投稿の削除に応じていない。

 立花容疑者の行為も藤田氏と共通する面がある。「NHKをぶっ壊す」のフレーズで反響を得た立花容疑者は、常に耳目を集める行動を取ってきた。「暴露系ユーチューバー」のガーシー(東谷義和)氏を22年の参院選に擁立し、東京都知事選では選挙ポスターを掲示板に貼る権利を販売するなどしてきた。

 昨年の出直し選挙での再選で立花容疑者に助けられたといってよいのは斎藤元彦兵庫県知事であるが、「捜査中の件でありコメントを控えたい」としている。立場上の対応とはいえ、疑問も残る。

 SNSが選挙に大きな影響を与えるようになり、無関心層が選挙に関心を持つようになったことは喜ばしいが、一方で意図的かつ一方的な煽動により、結果やその後の社会状況が左右される面があることは指摘せざるを得ない。

 外国人政策や移民をめぐる議論もその一例で、福岡県内の自治体もSNSでの情報拡散による電話対応などに苦慮している。言論や表現の自由は重要だが、近年のSNSでの情報発信をみていると、情報リテラシーとファクトチェックの重要性が改めて浮き彫りになったと言えるのではないだろうか。

【近藤将勝】

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