地域政党「新党大地」代表の鈴木宗男参院議員(自民党に復党、今夏の参院選比例代表で当選)が8月20日、支持者向けの勉強会「東京大地塾」を開催した。まず元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が「米ロ首脳会談」についての基調講演を行い、続いて鈴木氏が補足説明をした後、質疑応答タイムという流れだった。

冒頭の基調講演で佐藤氏は、鈴木氏がモスクワを訪問、現地の情報を石破首相に伝える重要性を指摘。これを受けて私は質疑応答で、「石破さんが辞めると政治空白が生まれて外交上マイナスではないかと思うが、石破降ろしについてどう考えているのか。高市さんとか小泉さんになったら、(石破首相に比べて)より良くなるのかどうか」と聞くと、佐藤氏は次のように答えた。
「石破さんの政策は非常にいまうまく行っている。日本キリスト教会の影響を非常に強く受けているプロテスタント特有の思考法があるから(石破首相のことは)良く分かる。自分の分かる人が政治の世界にいるのは非常に安心だし、ただ彼が1つ真面目に考えているのは、絶対に我々が戦争に巻き込まれないようにすること。そして中国との関係が非常に緊張していて、もしかすると偶発戦が起きるかもしれないと思っているからこそ、中国との関係改善を一生懸命やろうとしている。ポイントは分かっている」
このことについて佐藤氏は8月7日に「石破茂首相は続投せよ! 日中の偶発的軍事衝突に備えルート作り」と銘打った東スポのコラムで、次のように詳しく解説していた。
「既に与那国島は自衛隊によって『要塞化』されている。このような状況で、日中間の偶発的な軍事衝突が必ず起きる。これはいくら努力しても回避できる問題ではなく、これだけ日中の軍事力が一地域に集中していれば、確率の問題としていつか起きる。石破官邸はその場合に備えて、習近平中国国家主席の秘書室と特別のルートをつくりつつある。筆者が承知する範囲では、まだこのルートは完成していない。いずれにせよ偶発的な日中間の軍事衝突が生じた場合、それを全面的な紛争に発展させないことが、沖縄と日本の平和にとって死活的に重要だ。筆者が知る限り、日中の偶発的軍事衝突が起きた場合、それを初期に封じ込めることを考え、行動に着手しているのは石破氏だけだ。石破氏が辞任し、中国を挑発するような新首相が誕生することは、平和を希求する沖縄と日本の利益に反する」
佐藤氏はトランプ関税問題での対応でも石破首相を評価していた。
「それから関税に関しても、トランプが心で数字を決めているのだから、積算根拠なんかないのだから。ちなみに、来月(10月発売)の文藝春秋に今日の夜中、ちょうど原稿を書いて送ったのだけれども、フリードリッヒ・リスト著の『経済学の国民的体系』のなかで『関税率の論理は存在しない』と(書いてある)。保護貿易の父であるリストが言っているから、関税率はさまざまな政治的な判断で行われる。だから政治家の心の要素が非常に大きいわけ。そういうなかにおいて、極力トランプを刺激しないと。そしてアメリカが間違えたことを言っても平場では攻撃をしないという(対応を石破政権はしている)。一見へりくだっているのだけれども一番利益が取れる。イエスの弟子たちが言い争っているときにイエスが『一番へりくだるものが一番偉いのだ』と一喝する。『へりくだったほうが得だぞ』ということを(キリスト教徒の石破首相は)教え込まれている。(石破首相が)赤沢さんにどういう指示をしているのかが私は手に取るようにわかる。
多分、石破さんは進退に関して神さまにお祈りをして決めていると思う。一番最後にきちんとお祈りをしたときに聞こえてきた声が『ここは何と言われても続けろ』と。周りから圧力がかかってきても旧約聖書のヨブ記か何かを思い出して、『悪魔がいろいろなことを言っているようにしか見えない』と。そういうような信念の人は多分、頑固なかたちで動く。頑固な方向で」
続いて佐藤氏は、秋葉剛男・国家安全保障局長が変わって以降、どこまで正確な情報が石破首相のところに上がっているのかが懸念事項と指摘した後、2人(高市早苗・前経済安保担当大臣と小泉進次郎・農水大臣)の有力総裁候補について述べていった。
「それから横田さんの文脈で非常に重要なのは、排除の政治はいけないこと。だから『排除します』(小池百合子都知事)とかいう政治ではなくて、極力みんなでまとめ上げていく。それは政治の世界だけではなくて、コメの値段がこれだけ高くなってきて、単なる格差では済まない絶対的貧困の問題にも目を向けないといけないし、やはりやらないといけないことが多い。そのときに今、(次の総裁候補として)いろいろな人の名前が出てきたのだけれども、石破首相に比べてそういった人たちのほうが貧困問題に目配りがあるのかと思うと、どうもそうは思えない。(高市氏と小泉氏の)2人とも、グローバリゼーションと価値観外交重視、新自由主義的な競争原理の価値観が強いので、ちょっと周回が遅れているような感じがする。石破首相自身は『保守』というのだけれども、かなりその考えは公平配分的だし、現実主義的な平和主義で戦争には巻き込まれないということと、力の均衡による共存政策の考え方だから、そういうことを考えると、この3人(高市氏と小泉氏と石破氏)のなかで石破氏がこの時代にあっているのではないか」「石破さんはこの3人のなかで一番いいのではないかと思っている」。
これを受けて私が「そういうこともあって世論調査で内閣支持率が上がっているのではないか。広島や長崎での心のこもった演説もあったので、そういうことを総合して『石破政権でもいいのではないか』と(国民は考えた)」と再質問をすると、佐藤氏から以下の回答が返ってきた。
「もう1つ、これは、あまり大きい声では気づいている人も言わないと思うけれども、彼はやはり天皇タブーに挑戦している。それは、長崎での発言です。永井隆博士のことを昭和天皇は非常に嫌っていた。朝日新聞の記事でも出たし、いろいろな研究者たちも論文も出している。石破首相は読書家だからそういうことを知っている。だけれども、『長崎を核兵器が使われる最後の地にする』というメッセージを総理大臣としてハッキリと出した。このへんもしっかりとした彼の歴史観があるからだろうし、そのときに永井隆博士という昭和天皇が嫌っていたことが明らかになっている人の言葉を引用する。そうしたら当然、党内右派から反発が出る。それを計算したうえで言っているのは、彼なりに腹があると思う。だから、それは(8月15日の戦没者)追悼式においておわび(反省の弁)はある意味では元に戻しただけだから、不正常だったことを正常にしただけの話だけども、長崎は踏み込んでいる。だから僕は、長崎のところで、この人は右派との関係においては相当踏み込んでいる。たとえ、天皇であっても、違うと思うことに関しては自分の政治家としての信念を語る」
長崎での石破首相発言をこのように解説した佐藤氏は、最後に「悪い総理大臣ではないと思う」と強調、私の問いへの回答を締めくくった。
石破首相続投を訴える鈴木参院議員に加えて、盟友の佐藤氏も同じ立場を鮮明にした。総裁選前倒しの意向調査は9月上旬から始まるが、都道府県連代表と国会議員の過半数以上の賛成が前倒しには必要。それまでに石破首相降ろしの気運がしぼむのか否かが注目される。
【ジャーナリスト/横田一】