紅葉が進む磐梯山、何かおかしい紅葉

福島自然環境研究室 千葉茂樹

 紅葉がまだらです。磐梯連峰では全体としては緑のところが多いのですが、一部では紅葉真っ盛り。おそらく、9月下旬までの猛暑とその後の気温急低下で、自然に異変が起きているのかと思います。私は、急に寒気が流入した影響で、寒気が直接ぶつかった山肌では紅葉の進みが早く、寒気の陰になった山肌ではまだ緑なのではないかと思います。

 私が登山した10月18日は、麓から見て「紅葉が始まったのかな」という程度でした。ところが実際に赤埴(あかはに)山に行くと、局地的に紅葉が真っ盛りでした。この原稿を書いている10月19~21日は、気温が日ごとに低下しています。麓の猪苗代から仰ぎ見る磐梯連峰も、日に日に紅葉が進んでいます。以下、順にお話していきます。

磐梯連峰とは

地図 地図を見てください。磐梯連峰は、最高峰の磐梯山(1,816m)・櫛ヶ峰(1,636m)・赤埴山(1,430m)から構成されます。この山は火山で、1888(明治21)年7月15日に、噴火により小磐梯山が山ごと吹っ飛び、岩なだれとなって北麓に流れ下りました。観光地で有名な裏磐梯は、この噴火でできました。

 今回、ご紹介する赤埴山は、連峰の南側にある山です。最高峰の磐梯山に登りますと、はるか遠くまで見通せます。しかし、私の経験では紅葉は赤埴山が一番美しいです。

紅葉の赤埴山

 10月18日、小春日和の暖かい日に磐梯連峰の赤埴山に行ってきました。赤埴林道を使うと、標高約1,200mまで車で登ることができます。林道終点から、登山道を歩き、鏡沼まで約20分、そこから赤埴山山頂まで約15分、そして会津テラス計画の会津スカイテラス予定地(後述)まで約10分。写真を撮りながら歩いて、往復約2時間でした。

 林道終点は日陰で少し涼しく感じましたが、歩き始めるとちょうどよい気温でした。夏の格好で登れる今年最後の日でした。なお、21日の夜は、猪苗代では外気温が10℃を切りました。自宅では、こたつとファンヒーターを使っています。

 山に関して危惧することを付け加えます。登山道では、葉が枯れて茶色になった樹木がいたるところにありました。今年の夏の猛暑で、植物も痛めつけられたようです。

赤埴山の北斜面からの風景

 写真1は、赤埴山の北斜面、山頂より約20m下から、北の方向を撮影したものです。赤埴山から鏡沼に掛けては、紅葉が進んでいます。中央の鏡沼を中心に広葉樹が黄色や紅色に色づいています。おそらくブナの木が大半かと思います。画面左には、磐梯山があります。磐梯山の山頂の下の部分は、まだ緑色です。中央の奥の窪みは沼ノ平、その奥は1888年爆裂火口です。88年の噴火前には、この付近に小磐梯山がありました。井上靖氏の小説『小磐梯』にその噴火の様子が書かれています。写真の右端に、櫛ヶ峰の稜線が写っています。なお、磐梯山から櫛ヶ峰の稜線付近は、緑色で紅葉が進んでいません。

 このように、鏡沼周辺は紅葉が進んでいますが、他の場所では緑が多いです。どんな理由で、鏡沼周辺だけ紅葉が進んでいるのでしょうか。実は、この付近は、晩秋から寒風が吹き荒れます。写真の左(西)から寒風が入り込み、鏡沼の上を通り、写真の右(東)の琵琶沢に流れ下ります。鏡沼周辺の紅葉がとくに進んでいる理由は、この寒風のためと思います。

写真1

神秘の沼「鏡沼」

 写真2は、鏡沼付近を望遠レンズで撮った写真です。沼は、赤や黄色に色づいた広葉樹に取り囲まれています。鏡沼の水面も、樹木の紅葉を鏡のように映しています。だから、鏡沼という名前になったのでしょう。

 よく見ると、沼の奥には水がなく、緑の草が生えています。実は、この沼は、1986年までは、水位が今より約2m高く、緑の部分も含めて水が満々とありました。このようになったのは86年です。この年は稀に見る猛暑で、沼の3分の2が干上がりました。

写真2

 話は戻って、この鏡沼は、馬の鞍のような地形の上にあり、周囲から水がそれほど流れ込みません。だから、猛暑で干上がりました。このときに野生動物が、干上がった沼の脇腹に巣穴を掘ったらしいのです。これ以降、その穴から水が漏れて、以前のように水が溜まらなくなり、今のようになっています。

 写真3は、鏡沼のほとりから撮ったものです。水面は、波もなく黒い鏡のように見えます。この日の鏡沼は、すべてのものを吸い込むように真っ黒でした。手前の草は深い緑色に輝き、水面には紅葉が映っています。何ともいえない神秘的な雰囲気でした。

写真3

 86年の夏、干上がった沼底に「すり鉢状の窪地」が数多く出現しました。1888年噴火の痕跡です。噴火で上空に舞い上がった石が落ちてできた穴でした。噴石落下孔と言います。2007年に学術論文を書きましたので、興味のある方はこちらをご覧ください。

リンク:磐梯火山 1888年噴火の噴石落下孔(PDF)

 なお、登山道周辺には、今でも噴石落下孔があります。あまり鮮明ではありませんが、写真4のような窪地が登山道脇にいくつも見られます。

写真4

赤埴山山頂の紅葉

 写真5は、赤埴山の山頂から南を見たものです。山頂部は、紅葉が真っ盛りです。写真に松の木が写っていますが幹は左(東)に傾き、枝も左に伸びています。この付近も冬場は寒風が吹き荒れる場所です。写真の奥には、「天の鏡」と称される猪苗代湖、右には会津盆地が見えます。写真左の樹木と猪苗代湖が重なっているところでは、葉っぱがなくなった木が写っています。このように、一部では落葉も始まっています。

写真5

紅葉真っ盛りの北西斜面

 写真6と7は、赤埴山の南西稜線から撮影したものです。

 写真6は、北方向を撮影した写真です。まず目につくのは、手前の赤埴山の北西斜面、赤色・黄色の紅葉が目立ちます。これに対し、写真の奥にある磐梯山の南東斜面は、まだ緑色が多いです。こちらは南東斜面で日当たりが良く、また北西の寒風も直接当たらないためかと思います。このように、紅葉はまだらに進んでいます。

写真6

 写真7は、櫛ヶ峰方向を見た望遠写真です。紅葉がきれいです。現状、磐梯連峰では、紅葉を楽しむには赤埴山の北西斜面が一番です。

写真7

登山道周辺の秋の実り、高山植物

 登山道を歩くと、いろいろな植物に出会います。今回は2つ紹介します。

 写真8は、鏡沼脇の登山道のヤマグミです。この付近の登山道の約20mに渡り分布しています。私が地質調査を始めた1979年にもすでにありました。この場所のヤマグミは、たくさん実を付けます。登山中に、このようなおいしそうな果実があると、つい食べたくなります。ただし、今の時期は「渋い」です。ヤマブドウも同じですが、山の果実は「霜に当たる」と渋みが消えて食べやすくなります。

写真8

 写真9は、高山植物「タカネマツムシソウ」です。背丈が低いので、一般的なマツムシソウではないと思います。ネット情報では「赤埴山の山頂にある」と書いてあります。しかし、写真の場所である「南西稜線上」のほうが、個体数は多いです。この場所は、後に出てくる「会津スカイテラス建設予定地」の近くです。ここは自然環境が厳しく、冬季は強風が吹き荒れる場所で、植物が育ちにくく「赤い小石の原っぱ」です。専門用語では、赤い小石を「スコリア」と言います。私は25歳の11月下旬にこの付近を歩きましたが、台風並みの強風で、吹き飛ばされそうになりました。そんな熾烈な環境のなかでも、高山植物は生き延びています。

写真9

 なお、赤埴山は磐梯連峰の他の峰と地質(岩石や土壌)が違い、独特の高山植物が生育しています。磐梯連峰では、固有の高山植物「バンダイクワガタ」が有名ですが、赤埴山には生育していません。地質が違うと、生育する植物も完全に変わります。

会津テラス計画

 2021年12月、赤埴山山頂に巨大な展望台「会津スカイテラス」、これと山麓を結ぶ大型ゴンドラリフト「会津スカイケーブル」が建設されるという「会津テラス計画」が発表されました。23年秋から工事が急ピッチで進んでいます。おそらく来年の秋には完成すると思われます。この「会津テラス計画」については、地元の情報誌『政経東北』から取材を受け、私の考えが掲載されました。

リンク:猪苗代スキー場「観光施設計画」の光と影【会津テラス計画】(政経東北)

 写真10は、その会津スカイテラスの予定地からの眺めです。極めて眺望は良く、猪苗代盆地を一望できます。

写真10

 ただ問題なのは、写真10からもわかるように「急傾斜地」であることです。紅葉の木の下方は、いきなり麓の猪苗代町中心部が見えます。それだけ急傾斜ということです。私の現地調査では、斜面傾斜が30~40度で最大45度もありました。私は調査の際に、斜面を何度か滑り落ちました。

 近年、日本各地で集中豪雨が多く発生し、土石流などの災害が頻発しています。こんな急傾斜の斜面が、今まで崩壊しなかったのは樹木があったためで、その樹木を切り倒したらどうなるのか、想像してください。山を開発すると「経済的に潤う」という利点もありますが、自然破壊による「災害発生」というリスクもともないます。「耳に心地よい話」ばかりを信じると、福島原発事故のような大問題になる場合があります。

最後に

 磐梯連峰の全体的な紅葉は、日々進んでいます。日々の冷え込みの状況から見て、磐梯連峰全体の紅葉の見ごろは、次の日曜日、26日あたりと考えられます。ただし、そのころには、この記事で紹介した赤埴山の南西斜面や鏡沼周辺は、「冬の装い」となっていることでしょう。また、裏磐梯、五色沼周辺の紅葉は、11月1日あたりがよさそうです。


<プロフィール>
千葉茂樹
(ちば・しげき)
千葉茂樹氏(福島自然環境研究室)福島自然環境研究室代表。1958年生まれ、岩手県一関市出身、福島県猪苗代町在住。専門は火山地質学。2011年の福島原発事故発生により放射性物質汚染の調査を開始。11年、原子力災害現地対策本部アドバイザー。23年、環境放射能除染学会功労賞。論文などは、京都大学名誉教授吉田英生氏のHPに掲載されている。
原発事故関係の論⽂
磐梯⼭関係の論⽂
ほか、「富士山、可視北端の福島県からの姿」など論文多数。

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