警察・経産官僚出身者が仕切る官邸政治の復権か~高市政権で「安倍一強」の再来なるか
高市早苗首相は、新政権発足に合わせ、首相官邸の幹部を一新した。警察と経済産業省出身者が官邸を仕切るのは安倍政権と共通するが、防衛官僚出身者を内閣危機管理監に充てるなど、より踏み込んだ人事も見える。安倍政治の復活となるのだろうか。
官邸主導での対外情報機関の強化
高市早苗首相は自民党総裁選に際し、旧安倍派など党内保守派や岩盤支持層と呼ばれる支持者の支持を得て勝利を得た。保守派が求める政策のなかにスパイ防止法がある。首相も岸田政権において経済安全保障担当大臣を務め、安保関連3文書改訂やスパイ防止法を推進させることを考えている。
自民党と日本維新の会が合意した12分野にはインテリジェンスに関する項目があり、「国家情報局」および「国家情報局長」の設置(内閣情報調査室の格上げ)、対外情報庁の創設などとともにスパイ防止関連法制の制定が挙げられている。
スパイ防止法は参政党や国民民主党も推進しており、国会内で推進派が多数派となっている。我が国における情報機関は、主に警察の公安警備部門や法務省の公安調査庁が担っているが、防衛省にも情報本部が置かれており、電波情報や友好国などから得た情報を官邸に報告する役割も担っている。
内閣情報調査室を国家情報局に格上げし、対外情報機関を設置するとなると、警察・公安調査庁・防衛の間で、どこが主導するのかをめぐって争うことになる。
公安畑から刑事畑への転換
安倍政権においては、経済安全保障の観点から公安警備部門出身の警察官僚が重用された。事務方の官房副長官として警察庁警備局長や同局外事課長などを歴任した杉田和博氏が務めたほか、警察庁警備局外事情報部長などを務め、安倍元首相の信頼が厚かった北村滋氏(現・(一社)読売調査研究機構理事長)は、内閣情報官、国家安全保障局長を務めた。
今回の高市政権においても、警察官僚出身の露木康浩元警察庁長官が官房副長官に任命された点は安倍政権と共通する。
ただ露木氏は警察庁刑事局長など刑事畑を歩んでおり、政治とは距離があるとみられていた。安倍晋三元首相の銃撃事件時は、警察庁次長を務め、長官在任中、要人警護の強化に取り組んでいる。
首相秘書官を務める谷滋行氏は、露木氏と同じ警察庁刑事局長の経歴をもち、2020年に山口県警本部長を務めている。特筆するのは外務省アジア局(現・アジア大洋州局)に出向経験があり、00年から01年まで北東アジア課課長補佐を務めた。北東アジア課は中国や北朝鮮・韓国を担当している。
露木氏も谷氏も外事警察を担う公安出身ではないものの、インテリジェンス分野について高市首相と気脈を通じるといわれる。
官房副長官は、事務方のトップである。かつて竹下政権から非自民の村山政権まで旧自治省事務次官を務めた石原信雄氏、村山政権から小泉政権まで元厚生事務次官の古川貞二郎氏が務め辣腕を振るった。
首相秘書官は、首相のスケジュール管理、政策立案、各省庁との連絡役など実務を担う。
官邸を取り仕切るポストに警察出身者を据えるのは慣例となっているが、今回の人事を見ると情報収集や危機管理を高市氏が重視している表れだろう。
内閣危機管理監は元防衛事務次官の増田和夫氏が就任した。同ポストは1998年の設置以来、警察庁出身者が務めてきた。
異例の国家安全保障局長の交代
今回、外交・安全保障政策の司令塔である国家安全保障局長がわずか9カ月で交代したことも話題となっている。局長・岡野正敬氏(元外務事務次官)が退任し、後任に前官房副長官補の市川恵一氏が就任した。安倍政権時代、「自由で開かれたインド太平洋」戦略の策定に携わっている。インドネシア大使とする閣議決定を覆しての局長就任で、石破政権の方針・政策を一変させる強い意志が感じられる。
ちなみに岡野氏の前任の国家安全保障局長・秋葉剛男氏は内閣特別顧問として再任されている。秋葉氏は菅義偉元首相に強い信頼を得ていたといわれる。
高市政権は、安倍元首相の手法・人事を復活させたが、安倍氏の首相秘書官を務めた今井尚哉氏を内閣官房参与に任命した。経済産業省出身の今井氏は、安倍政権下で「官邸官僚」と呼ばれ強い影響力をもった。
今回の「高市人事」は、岸田・石破両政権でのリベラル政策を転換し、党から実権を取り戻し「安倍一強」と称された官邸主導による政治が進むことになるのか。
【近藤将勝】