(株)DAIEIアーキテクツ
代表取締役 宇留嶋栄治 氏

大英産業(株)(福証)のグループ会社・(株)DAIEIアーキテクツが、木造非住宅(中大規模木造建築物)の建設のほか、北九州市産の木材の活用、さらには「早成桐」の植樹や活用などを通じ、脱炭素・持続可能な社会の実現に向けて取り組もうとしている。設立からまもなく1年。代表取締役の宇留嶋栄治氏に、同社の現状と将来像について話を聞いた。
設計・建築・建築監理の「一気通貫」が強み
──まず、新会社の設立目的、事業の特徴などについて教えてくたさい。
宇留嶋 大英産業グループは九州・山口において、分譲マンションや分譲住宅、不動産流通、まちづくりといった事業を展開しています。(株)DAIEIアーキテクツは、大英産業(株)の各事業の建築・設計部門のメンバーで構成され、そのメンバーが習得したノウハウを生かし、各展開エリアの地元企業(事業主)への設計・建築・建築監理などを一気通貫で提供することにより、新たな事業領域の拡大を図ることを目的に、2024年11月に設立されました。とくに注力するのが、木造系建築物の一気通貫。その取り組みを通じて、脱炭素社会へ向けた貢献を図る考えです。
非住宅分野はこれまで、木造に限らず設計と施工が分離発注されることが多く、その結果、引き渡し後に責任の所在が不明確になってしまい、そのことがメンテナンスやリノベーションを実施する際のハードルとなっていました。我々は、設計建築する建物について一気通貫で責任持てることが強みになると考えています。
──近年は木造非住宅への社会的認知度が高まり、法制度の整備も進んできました。現状や今後について、どのように認識されていますか。
宇留嶋 木造においては、住宅では「4号特例の見直し」をはじめとされる法制度の厳格化が行われていますが、その一方で、非住宅においては木造に関する要件が緩和され、さまざまな用途への活用の余地が広がりつつあります。たとえば、低層(3階建程度まで)建築物では、耐火や大空間を計画する際がそうで、木造の技術進化も相まって提案の自由度が広がってきたと認識しています。脱炭素の流れや、資材価格の高騰、不安定化もあり、国産材を軸にした木造へのシフトは不可避で、施工コストの部分で優位性も見込まれます。木造は国産材、地域材の活用が進むことで、相対的に安定するものとも見られます。また、木は循環資源であり、人体・環境への負荷が少ない素材でもあり、こうした潮流は今後、しっかりと定着するものと見ています。
社内の関係者が木造について理解を深められるように、
構造模型をパーテーション代わりに設置している
地域の協力会社との共生関係構築も視野
──人材と施工面については、いかがでしょうか。
宇留嶋 木造非住宅で当社が主にターゲットとしているのは、事務所や店舗などの低層建築物ですが、木造の戸建住宅の建築に関わってきた人材が施工でき、新たに特別な技能を習得した人材を必要としない点も、普及にあたってのメリットです。現状、建て方大工に不足感はありませんが、収まりを理解して現場で即座に対応できる造作大工の熟練工が減っているように感じており、そのことに懸念を感じています。そこで私は、各展開エリアの協力会社に対して、協同組合のような連携体制の構築を提案しています。
具体的には、造作大工や左官、瓦、建具などの施工について、各エリアで協力会社と常時連携し、住宅と非住宅の施工現場を通年で回す体制です。元請・下請という関係ではなく、かつての棟梁と職人のような、相互が融通を利かせる親密な関係を構築したうえで、受注量と価格、品質を安定させ、それぞれがWin-Winになれる共生関係をイメージしています。いずれにせよ、木造非住宅への取り組みを始めている事業者はまだ少なく、それは北九州市でも同様ですから、先行して人材と施工の面でも確立していければと考えています。
──現在、資材価格や人件費が上昇しています。改めて木造と他の構造のコスト見通しについては、どのようにお考えでしょうか。
宇留嶋 鉄骨・セメントは外的要因の影響が強く、今後もそれらの価格は値上がり、あるいは高止まりする可能性が高いと見ています。木材は林業政策の内製化(外国産材から国産材へのシフト)や地域循環が進めば、相対的に安定するはずです。人件費は構造体の如何に関わらず上がり続けることを前提としており、このため生産性をどう上げるかが勝負となります。設計から施工管理、メンテナンスまでの一気通貫の体制と施工の平準化、そして各地域の協力会社との協同組合のような親密な関係で生産性を向上させ、よりコストパフォーマンスの高い供給体制づくりを進めていく考えです。
DAIEIアーキテクトでは北九州市産木材の活用も行われる
──会社創設から1年近くが経過しますが、実績はいかがですか。
宇留嶋 会社発足後、免許取得まで3カ月要しており、大英産業から人事異動等を行い、体制がようやく整いましたので、実績はまだまだです。ただ、木造建築について設計から施工管理まで行えるということが少しずつ福岡・北九州で認知され、また、協力会社からの紹介などで、木造非住宅の老健施設や店舗、3・4階建の集合住宅などの問い合わせ、見積依頼などはかなりいただいております。
ギラヴァンツ北九州のクラブハウス建設へ
──プロサッカークラブ・ギラヴァンツ北九州のクラブハウス建設協定を結ばれたそうですね。
宇留嶋 現在、新門司マリーナをクラブハウスとして使用しているギラヴァンツ北九州さまは、北九州のにぎわいづくりやスポーツ振興に寄与し、誰もがスポーツに親しめる環境づくりや市民と選手が触れ合える場の提供など、地域のシンボルクラブを目指し、新たなクラブハウス建設を計画されております。私ども、大英産業グループでは、「元気な街、心豊かなくらし」を理念にもち、ギラヴァンツ北九州さまとは理念との共感性があるのと同時に、ギラヴァンツ北九州さまも脱炭素社会を強く意識されておりましたので、北九州で木造分譲住宅を多く提供させていただいた大英産業へご用命いただいた次第です。
大英産業代表の一ノ瀬にご用命があったときは、当社はできたてホヤホヤの会社でしたし、また、木造非住宅の経験もほぼない状況でしたが、「今やらずにいつやるのか」と、千載一遇のチャンスと捉え、今回のお話をお受けいたしました。我々もプロサッカークラブハウス建設は未経験のため、数名で検討チームをつくり、鹿児島や四国のチームのクラブハウスを見学に行きました。北九州の会社が北九州のクラブハウスをつくるので、北九州産材を盛り込みながら、北九州市における木造非住宅の代表作といわれるような設計・建築をしたいと考えております。
写真は社内に掲げられたユニフォーム
──北九州産材「KITAQ WOOD」を取り組んでいらっしゃると聞きましたが。
宇留嶋 北九州市産材の利用拡大、林業・木材産業の活性、脱炭素の実現、地域産木材のトレーサビリティの確保と炭素貯蔵量の見える化、などを目的とした木材利用促進プロジェクトです。北九州市、北九州市森林組合と大英産業などの5者で協定を結び取り組んでいます。親会社・大英産業の分譲住宅では、一部「KITAQ WOOD」を使った住宅が建築されており、我々も木造非住宅も含め、北九州での木造建築では条件が許す限り「KITAQ WOOD」を利用したいと考えております。
植樹から関わる「早成桐」事業を開始
──「早成桐」の植栽事業にも取り組まれているそうですね。
宇留嶋 早成桐とは、通常の桐は建材などとして利用できる成木となるのに約15年かかるのに対し、約5年で成木化し、CO2吸収力に優れ、伐採後も再生を繰り返す桐の品種です。24年10月に、九州地方における放棄農地の有効活用による産業創生や環境保全型産業の創出を図ること、そして循環型木造社会の構築を目的として、早成桐の知的財産・育成ノウハウを保有する(一社)クール・アース(東京都台東区)と業務提携契約を締結しました。25年9月には八幡西区内で134本植樹をいたしました。脱炭素社会の実現を図るうえでは、木造建築物を建設、普及するだけではなく、川上から川下まで全体を見通すこと、そして建築や内装、家具として活用する出口戦略を描き実行することがとくに大切で、それを実現しようとしているわけです。
桐は軽いことから、耐震性の向上にも寄与し得る素材です。合板技術がさらに進めば、構造用途の可能性も広がります。このほか、桐は花粉飛散が少なく、人体への影響報告も現時点では限定的です。
この事業は、いろいろな業種と連携していきたいと考えております。学校との連携では、子どもたちに木材に対する教育として、植樹から成木・製品化を5年で体験できるという利点があるため、先日中間市の中間北中学校1年生の生徒さんと一緒に植樹しました。企業・自治体との連携は、空き地や耕作放棄地の活用、農地の相続・転用といった課題の緩和にも寄与し、地域課題の解決策になり得るのではないかと考えています。このように、DAIEIアーキテクツでは、植樹から関わることで脱炭素社会の実現や地域課題の解決を目指しながら、北九州市を中心とした市場で木造非住宅の普及を進め、リードする存在になるべく事業展開を進めてまいります。

【田中直輝】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:宇留嶋栄治
所在地:北九州市八幡西区町上津役西1-1-24
設 立:2024年11月
資本金:1,000万円
TEL:093-613-5702
URL:https://www.architects-d.jp/

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