中国の新疆ウイグル自治区に眠る日中ビジネスチャンス

 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
 今回は、12月19日付の記事を紹介する。

 高市首相の「台湾有事」発言がきっかけで、日中関係がギクシャクしています。実は、高市氏は科学技術政策担当大臣だった頃から「中国は科学的根拠に基づかない発言を繰り返している」と批判していました。

 その上で、高市氏は首相就任前から重視する人権問題に関連し、香港や新疆ウイグル自治区の状況に深刻な懸念を表明。とはいえ、これらの地域を直接、訪問した経験もないまま、中国への批判的な発言を繰り出すのは外交上の配慮に欠けるものと言わざるを得ないのですが。

 しかも、外務省の答弁案を無視して、先の国会答弁において「台湾有事は日本の存立危機事態にあたるため、自衛隊が米軍と共に戦う事態も想定される」と発言。案の定、中国からの猛反発を招いてしまいました。従来の「曖昧戦略」から踏み込んだので、肝心のアメリカからも「突っ込み過ぎ」とクレームが出る始末です。

 高市首相はトランプ大統領の懐に飛び込み、「日米関係の黄金時代を築く」と大はしゃぎをしていましたが、アメリカ政府は資源大国の中国との関係をより重視しており、高市政権とは明らかに距離を置いているのが現状です。

 幸い、先の日中首脳会談では「第3国市場での経済協力を進めることでも一致した」とする合意内容が確認されています。これは中国の進める「一帯一路」構想の中で、中央アジアなどでの日中協力案件の促進を想定したもの。

 カザフスタンやタジキスタンでは中国や日本製の商品への需要が急拡大中のため、この分野での日中相互支援ビジネスの可能性は有望なのです。例えば、日本の「百均ショップ」や通信インフラ整備は既に交渉が始まっています。しかしながら、高市発言の影響で、日中関係は厳しい状況に陥ってしまいました。

 いずれにしても、大事なのは、自らの五感を研ぎ澄ませ、未知の世界を理解しようとする「飽くなき好奇心」ではないでしょうか。その意味では、人権問題で批判を受けている新疆ウイグル自治区ですが、現地を定点観測すれば、日々これ変化を遂げていることに疑いの余地はありません。

新疆ウイグル自治区 イメージ    偏見は相互理解の天敵と言えます。日中間に限らず、国際交流や相互理解の要は「人と人との出会い」ですから。日中の相互不信という現状を克服するためにも、日本とすれば中国が積極的に推進する新疆ウイグル経済特区への関与を模索する必要がありそうです。

 何しろ、新疆ウイグル自治区には石油やレアアースなど自然界の恵みに加え、AI時代の「新たな石油」と目されるコンピューティング・パワーが漲っているからです。

 日本のメディアはアメリカの軍幹部が発した「2027年に中国が台湾に軍事侵攻を行う」という発言を繰り返し報道し、危機感を煽っています。高市発言も、そうした米国発の台湾有事説に則ったものと思われます。

 しかし、米軍は既に見方を変えているのです。そもそもトランプ大統領自らが「習近平主席や彼の周辺からは“私の在任中には台湾に向けて何もしない“と直接聞いている」との発言を繰り返しています。

 シンガポールのローレンス・ウォン首相も「予見できる将来、台湾海峡で戦争が発生する可能性は低い。台湾が一方的な独立宣言するなどレッドラインを超えることがない限り、中国が一方的、あるいは理由もない行動を取ることはない」と発言しているほどです。

 にもかかわらず、日本では相変わらず「台湾有事」の可能性がまことしやかに話題となっています。自民党の佐藤正久議員は自衛隊の幹部出身ですが、「中国は2025年中の台湾侵攻を想定し、武力行使を準備している」と危機感を煽っていました。

 そもそも、中国に最大の投資を行っているのは台湾企業です。そんな台湾に対して軍事力を行使して統一することは選択肢としてはあり得ない話と思われます。更に言えば、アメリカが本年11月に公表した「国家安全保障戦略」(NSS)においても、トランプ政権は対中戦略の大転換を明示しているほど。

 要は、アメリカは中国とは正面切って対峙しないというわけです。「台湾防衛」に関しては、「日本に任せる」という路線転換に他なりません。そのため、沖縄に駐留する米海兵隊9,000人と駐韓米軍4,500人をグアムやハワイに移転させる計画であるとまで「中国との対決姿勢を緩める」戦略を打ち出しています。

 日本とすれば、それだけアメリカが対中戦略を急速に転換させつつあることに注目し、逆にアメリカの上を行くくらいのスピードで新疆ウイグル自治区や周辺の中央アジアへの関係強化に動く好機到来と受け止めるべきではないでしょうか。


著者:浜田和幸
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