福岡再開発動向2026 終盤戦を迎えた天神ビッグバン(前)

10年間で74棟竣工

 2015年2月に始動した再開発プロジェクト「天神ビッグバン」は、開始からすでに10年以上が経過。現在、まさに佳境といった様相だ。

 天神ビッグバンについては、これまでに本誌でも再三取り上げてきたが、高さ制限と容積率という2つの規制緩和や天神ビッグバンボーナス(以下、天神BBB)を含めた優遇制度により、更新期を迎えたビルを耐震性の高い先進的なビルへと建て替えることを誘導していくことを目的としたもの。当初は、24年度(25年3月末)までに30棟の民間ビルの建替えを誘導して延床面積を1.7倍に拡大するとともに、雇用を2.4倍に拡大して、約2,900億円の建設投資効果と、建替え完了後からは新たに毎年約8,500億円の経済波及効果を見込むとしていた。

 だが、コロナ禍を経たことで、福岡市は20年8月にビルの「換気」「非接触」「身体的距離の確保」「通信環境の充実」などの感染症対策などを盛り込んだ取り組みを誘導する方向性を新たに策定。福岡市を世界に先駆けた「感染症対応シティ」へと変貌させていくべく、感染症対策などの取り組みを実施するビル計画には、市独自の容積率緩和制度を拡充することで容積率が最大50%上乗せされるとした。また、コロナ禍による経済活動の停滞を受けて、当初24年度(25年3月末)までだった天神BBBの竣工期限を、26年12月末まで延長。こうして天神ビッグバンのプロジェクト期間は、当初の10年間から約2年間延長されて、12年間となった。

 プロジェクト開始からちょうど10年が経過した25年3月末時点で、エリア内における建築確認申請数は93棟(15年2月~25年3月末)、竣工棟数は74棟。当初予定の30棟の民間ビルの建替え目標は、現時点で悠々とクリアしているかたちだ。

25年は4棟開業

 天神ビッグバンにおける大規模プロジェクトとしては、24年までに「天神ビジネスセンター」(21年9月竣工)、「福岡大名ガーデンシティ」(22年12月竣工)の2棟のビルが完成・開業。そして25年には、4棟のビルが新たに開業した。

 まず1月には、ヒューリック(株)による複合商業ビル「ヒューリックスクエア福岡天神」が開業した。同ビルは明治通りと新天町に挟まれて立地していたオフィスビル「ヒューリック福岡ビル」を建て替えたもので、建物コンセプトは「THE GATE」。地上19階・地下3階建、延床面積2万682.92m2の同ビルには、低層階に商業施設、中層階にオフィスが入るほか、高層階にはヒューリックホテルマネジメント(株)が運営するホテル「ザ・ゲートホテル福岡 by HULIC」(171室)が入っている。

「ヒューリックスクエア福岡天神」「ONE FUKUOKA BLDG.」

 4月には、天神交差点の一角で西日本鉄道(株)による「ONE FUKUOKA BLDG.」(略称:ワンビル)が開業を迎えた。ワンビルは「福岡ビル」「天神ビブレ」「天神コア」の3棟のビルを建替え、街区全体を1棟の大型複合ビルとして一体開発する「福ビル街区建替プロジェクト」としてスタートしたもの。開発コンセプトとして「創造交差点~meets different ideas~」を掲げ、福岡市が推進する天神ビッグバンに寄与するとともに、商業・ビジネス・ホテル・カンファレンスなど多様な機能を網羅する、九州屈指の規模を誇る大型複合ビルだ。敷地面積約8,600m2に建つ地上19階・地下4階・塔屋1階建、延床面積約14.7万m2の同ビルは、地下および低層階が商業フロア、中層階がオフィスフロアとなっているほか、高層階はホテルフロアとなっており、ホテル「ONE FUKUOKA HOTEL」(全41室)が入っている。

 同じく4月には、日本生命保険相互会社(以下、日本生命)と積水ハウス(株)が共同で開発を進めた「天神ブリッククロス」が竣工を迎えた。天神ブリッククロスは、昭和通り沿いにあった「福岡三栄ビル」(所有:積水ハウス)と、その南側に隣接する明治通り沿いの「日本生命福岡ビル」(所有:日本生命)の2棟のビルを解体して一体開発を行ったもので、北棟(地上18階・地下2階・塔屋1階建)と南棟(地上13階・地下2階・塔屋2階建)の2棟で構成される。北棟の地上2~18階(2階がオフィスロビー)と、南棟の地上3~13階(3階がオフィスロビー)はオフィスフロアで、各棟の地下1階~地上2階にかけて商業店舗なども入っている。地上部分では明治通りから昭和通りをつなぐ新たな都市計画道路天神通線と⼀体となった幅員8mのゆとりあるプロムナード(歩行者空間)を形成するほか、地上から地下までつながる壁面緑化を配置。緑と相性の良いレンガ積の列柱やプロムナードに面したカフェ、ベンチの配置などにより、来街者やオフィスワーカーが憩い、楽しめる空間を創出している。

「天神ブリッククロス」「天神住友生命FJビジネスセンター」

 そして6月末には、明治通りの天神西交差点に面した天神2丁目南ブロックで、住友生命保険相互会社(以下、住友生命)と福岡地所(株)による「天神住友生命FJビジネスセンター」が竣工した。同ビルは、住友生命福岡ビル(所有:住友生命)と天神西通りビジネスセンター(所有:福岡地所)の2棟を建て替えて一体開発したもので、地上24階・地下2階・塔屋2階建、延床面積約4万2,000m2。ビルの地上部には明治通りに沿って帯状に緑を設け、歩行者に潤いを提供。福岡市地下鉄・天神駅とも接続しており、地下鉄からの玄関口となる敷地の東側には大きなピロティ空間が設けられ、敷地の西側にも大きなひさしのある広場空間を確保している。

26年は2棟竣工予定

 天神BBBの竣工期限が目前に迫る26年は、新たに2棟の竣工が予定されている。

 まず天神1丁目のイムズ跡地では、三菱地所(株)による「(仮称)天神1-7計画」が進んでいる。

 天神1-7計画は、地上21階・地下4階建の複合ビルを開発していくもので、低層部および地下に商業施設を設けるほか、中層部はオフィス、高層部はホテルとして活用する。地下2階~地上2階にかけての商業施設ゾーンでは、約1,100坪のなかにさまざまなタイプのショップ&レストランを展開。地上3~5・7~15階(6階は機械室)は、総面積約8,000坪、基準階面積約790坪の無柱空間のオフィスフロアとなる計画で、最小区画30坪台からの利用が可能。レイアウト効率が高くさまざまな働き方に対応でき、約3,000人の就業者数を想定している。地上1~3階および16~20階のホテルフロアには、アジア地域において2施設目かつ九州初進出となるアメリカ・シアトル発のホテルブランド「エースホテル」が入る。高層部の全192室の客室のほか、1~2階のラウンジ、カフェバー、レストラン、ギャラリー、3階のMICE対応が可能なファンクションルーム・ミーティングルーム、19~20階のルーフトップバーなどを備える。

 建物外観の特徴として、都市と自然が調和した都市空間の形成を目指し、建物外装には九州産材のCLT(直交集成板)のパネルと植栽を有機的に配置するほか、渡辺通りに面する敷地南西側の建物低層部にはV字柱と吹き抜け空間を整備することで、シンボリックかつランドマーク性の高いデザインを実現する。また、建物外周部ではFukuoka Art Nextの推進に寄与するパブリックアートやベンチなどの休憩施設を設置することに加え、公共空間を美装化し、豊かで潤いのある空間を形成。駐車場車路はワンビルと共用することで、地上部の車両混雑に配慮するとともに、福博であい通りにおいて歩車分離された安全な歩行空間を確保するなど、周辺施設とも連携することで、来街者が行き交い、天神エリアの回遊性向上や一体感の創出を目指していく。同ビルは24年5月に着工し、天神BBBの期限である26年12月末の竣工を予定している。

(仮称)天神1-7計画(イムズ跡地)
(仮称)天神1-7計画(イムズ跡地)

(仮称)天神1-7計画
事業主 :三菱地所(株)
敷地面積:4,640m2
延床面積:7万3,960m2
規 模 :地上21階・地下4階建
用 途 :オフィス、ホテル、店舗、駐車場
建物高さ:約91m
竣 工 :2026年12月末(予定)

 天神ビッグバンの第1号となった「天神ビジネスセンター」の隣接地では現在、天神一丁目761プロジェクト合同会社(福岡地所、九州電力(株)、(株)九電工で構成される特定目的会社)および福岡地所による「(仮称)天神ビジネスセンター2期計画」(以下、天神BC2)の開発が進んでいる。

 同計画はもともと「市役所北別館」の跡地活用事業として、21年7月に優先交渉権者となった福岡地所を代表企業とするグループ(構成企業:九州電力、九電工、前田建設工業(株)、(株)俊設計、(株)旭工務店、(株)サン・ライフ)によって進められようとしていたもの。だが、その後に市役所北別館に加えて隣接する大型ビル「メディアモール天神(MMT)」と「第2明星ビル」の計3棟を一体再開発するかたちで、22年12月に事業計画の変更を発表。この計画変更によって、敷地面積および延床面積は当初計画の約2.7倍に拡大した。

 天神BC2は、地上18階・地下2階・塔屋2階建の高さ約88.2mのビルとなる計画で、隣接する天神ビジネスセンター(地上19階・地下2階・塔屋2階建、高さ89.56m)に比べると1階分低くなっている。建物外観は、天神ビジネスセンターのデザイン・監修を担当した建築家・重松象平氏(OMAパートナーおよびニューヨーク事務所代表)がデザイン監修を行い、双子のような2棟のビルが立ち並ぶことで、街区全体の統一感と求心力を高めていく。

(仮称)天神ビジネスセンター2期計画
(仮称)天神ビジネスセンター2期計画

    大きな特徴としては、建物内部に地下広場からつながる7層におよぶ吹抜け空間「アクセラリウム」が整備されていることが挙げられる。このアクセラリウムに面した各フロアで、さまざまなワーカーサポート機能やアクティビティが発生する場を配置し、賑わいの創出に欠かせない集客・交流・創造の活性化へとつなげたい考え。また、市が進める「都心の森1万本プロジェクト」や「Fukuoka Art Next」「感染症対応シティ」などの取り組みにも対応している。天神BC2の竣工は26年6月を予定している。

(仮称)天神ビジネスセンター2期計画
事業主 :天神一丁目761プロジェクト合同会社/福岡地所(株)
敷地面積:4,085m2
延床面積:6万2,932m2
規 模 :地上18階・地下2階・塔屋2階建
用 途 :オフィス、店舗、駐車場
建物高さ:約88.2m
竣 工 :2026年6月(予定)

【坂田憲治】

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