国際未来科学研究所
代表 浜田和幸
巨額損失とEV事業の誤算
──現場に走った歪み
不適切会計問題で揺れるニデックですが25年11月14日、2025年4~9月期連結決算で877億円もの大型損失を計上したと発表。同期間は売上高こそ前年同期比で微増の1兆3,023億円となっていましたが、営業利益は82.5%減の211億円に落ち込んでいました。大型損失の原因は、車載関連事業でこれまでの同社にはないような「ミス」が出たためと見られています。
877億円もの損失ですが、理由の1つ目は契約損失引当金(364億7,100万円)です。これは、自動車のコントロールユニットなどを製造するニデックエレシス(現・ニデックモビリティ)が、開発が確実に実行できるか確定しないうちに受注。その案件の生産が困難になる見通しとなったため損失の引き当てをしたと見られています。
損失の2つ目は316億7,400万円の減損損失。これは、電気自動車(EV)市場の需要が想定ほど伸びず、生産設備などの価値を引き下げたためです。
そして3つ目は欧州自動車大手ステランティスとの合弁会社で、EVの基幹部品のイーアクスルの部材を納めるサプライヤーとの間で発注をめぐるトラブルが発生し、相手側から補償を求められる求償問題が発生したことによるもの。その和解にともなう債務として194億9,500万円を計上したようです。
減損はともかく、他の2つは損失に至る過程や金額的にニデックとしては珍しい例と見なされています。業績拡大に向けて走る現場の緊張感が強かったことをうかがわせるものです。
第三者委員会の迷走と
「永守イズム」からの脱却の行方
ニデックを取り巻く環境は厳しさを増すばかりと言っても過言ではありません。不適切会計問題についても、岸田光哉社長は決算発表の席上、調査のため25年9月初めに設置された第三者委員会の報告書提出が26年にずれ込むことも公表しています。結果的に、同社をめぐる不透明感はさらに強まり、株価は11月21日に1,921円と9年ぶりの低水準にまで下落しました。
しかも、「来年(2026年)1月末でも厳しいかもしれない」と、決算発表で岸田社長が第三者委員会の報告書が年内には出ないことを明らかにしたとき、アナリストらの間に驚きが広がったものです。報告書は通常、設置から3~4カ月で出されることが多く、提出は年内と見られていたからです。それが外れたうえに調査範囲が広がる可能性や、世界356社に広がるグループ企業への調べなどに膨大な手間がかかるとの説明がありました。
調査報告書が出ない影響はとても大きくなっています。すでに述べたように、監査法人のPwCジャパンは、25年4~9月期などの財務諸表について「監査意見を不表明」としたほどです。それ自体が極めて異例といわれるうえに、9月に25年3月期の有価証券報告書(有報)を提出したときに続く2回目の意見不表明となってしまいました。
理由についてPwCジャパンは「(適正と認めるのに)必要な証拠を入手できていない」ことなどを説明。意見不表明とする監査法人のスタンスは、「第三者委員会の調査が終わり、報告書が出るまで変わらないのでは」(大手監査法人幹部)との見方が一般的です。仮に第三者委員会の報告書提出が26年2月中旬以降にずれ込むことがあれば、ニデックの25年10~12月期決算は、3回目の意見不表明となる恐れさえ出てきます。同期の財務諸表はルール上、26年2月14日までに提出する必要があるからです。
さらに東京証券取引所は昨年10月28日付で、ニデックを「特別注意銘柄」に指定しました。特別注意銘柄は、有報に虚偽記載をしたり、監査法人が意見不表明としたりした上場企業について投資家に注意喚起し、取引所が監視をするという制度に他なりません。関係者の間では「第三者委員会の結果公表前に特別注意銘柄に指定するのは珍しいケース」との受け止め方が主流です。
特別注意銘柄に指定されると、企業は、原則3カ月以内に内部管理体制の改善計画書を、それを含めて1年後に内部管理体制確認書をJPX(日本取引所グループ)に提出し審査を受けることになっています。そこで改善が認められなければ上場廃止です。岸田社長は、特別注意銘柄指定から3カ月になる26年1月下旬までに改善計画書を出す考えも明らかにしました。
もし、第三者委員会の報告書提出がそれより遅れ、内容が厳しいものとなれば、いったん出した改善計画書の見直しも必要になる可能性があり、それでも急がざるを得ないほどニデックは追い込まれているわけです。こうした不適切会計の一因が、常に高い成長と利益を必達目標として、全社でひた走る企業風土にあった可能性は否定できません。
こうした深刻な企業風土の課題について岸田社長は「短期的な収益を重視し過ぎる運営プロセスが中身の多くを占めている」と語っています。今後の焦点は、業績の立て直しを図りながら、「永守カラー」でもあった独特の企業風土をどう改革していけるかでしょう。
ニデックでは、グループ各社の幹部・管理職が毎日、売上高や受注、コスト削減など複数の項目の動向をチェックし、未達な問題が起こると、即座に集まって対策を練り、実行する「日足会議」がありました。同社の強みをかたちづくる仕組みの1つですが、今はこれを停止しているとのこと。「超短期の数値報告や予測などもやめた」とも言われ、不適切会計問題の背景にあると見られる超短期志向の利益追求には歯止めがかかり始めたようではあります。
岸田社長は、不適切会計問題が表面化する前、25年3月期からモーターを核にしたEVの動力機構で、永守代表が成長の柱にしようとしていたイーアクスルの供給をステランティスと中国の広州汽車向けなどに絞り、それ以外の顧客には、イーアクスルの部品やほかの車載部品販売だけに変えるという改革にも取り組んでいました。永守氏は、岸田社長に「今までできなかったことをやってくれ」と話しているとも言われ、社内の空気は徐々に変わりつつあるとも言われています。とはいえ、同社の時価総額は21年に8兆円を超えるピークを迎えたものの、足元では2兆円ほどに急落。積み上がった難題は依然として大きく、「永守イズム」からの脱却は簡単とは思えません。
(了)
浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。








