AI時代の基盤産業としての原子力 革新軽水炉と浮体式原発が切り開く新時代

エネルギーサイエンティスト
(元東工大)
澤田哲生 氏エネルギーサイエンティスト(元東工大) 澤田哲生 氏

 私たちは今AIのプレッシャーのもとにある。数多くの職種がAIに取って代わられようとしている。その一方で、AIなしの日常はもはやありえない。スマホをいじれば、すぐさまAIさまがご登場なさる。もう後戻りはできない。私たちはAIの圧力を日々時々刻々感じて、その“AI圧”に押されて前に進んでいくほかない。その果てしないAI圧が原子力をドライビングフォースとして求めている。圧力のあるところには革新がある。そのAI圧は宇宙の深奥からやってきている。宇宙のテクノロジーは、放射線を始原として、物質そして情報と変遷しながら今に至っている。AIを取り巻く指数関数的な伸延を支えうる原動力、それに唯一対応可能なのは指数関数的な本質から発源する核分裂エネルギーをおいてほかにない──そう私は考えている。ではこのAI圧に応じるために一体どれほどの核分裂エネルギーが必要なのであろうか? 我が日本においては、それは過小に見積もったとしても、電気出力100万kW級の大型原子力発電所100基の新設が欠かせなくなってくる。その時限は2040年代である。そのためには、原子力規制体制はいうまでもなく、原子力の開発・運営体制にも根底的な改革が必要になる。

AIが拡大をけん引する
データセンター市場

 日本のデータセンター市場は、ここ数年急速な伸びを示している。2023年の売上高の実績は2兆7,361億円であり、24年は4兆180億円だった。この背景には、AI需要の急拡大やメガクラウドベンダー(GAFAM)による投資が成長のドライビングフォースとなったことがある。また、データセンターの立地が東京圏などの大都市への集中から地方へ分散拡大するとともに大規模化する傾向もある。

 総務省とIDCJapanの予測によれば、28年には5兆円を超えるというが、今後AIがさらに急速に発展することを考慮すれば、この予測は過少気味であると私は思う。なお日本のデータセンター市場規模は世界の約7%を占めている。これは日本のGDPの世界シェアにほぼ等しい。

原発再稼働は南北から
シリコンアイランド九州

 まず、足元の原子力発電所の状況を見てみよう。

 25年12月、北海道では泊原子力発電所の再稼働が地元知事の了解を取り付けて、一歩前進した。その背景には、北海道地域に安定して安価な電源が求められているという事情がある。つまりAIデータセンターを駆動するのである。

 AIデータセンターの特徴は、1)高性能な計算能力、2)大容量のデータ処理、3)高い信頼性とセキュリティなどが挙げられる。また、AIデータセンターに特化したハードウエアは大量の熱を排出するが、夏でも比較的涼しい北海道は有利な環境にある。計算能力の要は高性能な半導体であるGPU(Graphical Processing Unit)が欠かせない。経産省が後押しするラピダスの工場が千歳で進んでいるし、さらに経産省は29年をメドに先端半導体の施策拠点を道内で稼働させるとしている。

 そして、原子力発電所の再稼働が最も早く緒についたのは、15年8月、鹿児島県にある川内原子力発電所1号機であった。これによって九州では、原子力発電の安価な電力供給が日本国内でいち早く進んだ。そして、21年11月、豊富で安価かつ安定した電力を求めて台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県への進出を決定し、九州は「シリコンアイランドの復活」として注目を集めた。25年10月にはTSMCの熊本第2工場の建設が開始された。投資額は一説によると139億ドル(約2兆1,000億円)にのぼるとされ、シリコンアイランドとして半導体産業のさらなる集積が期待されている。

 また、九州電力の川内原発が立地する薩摩川内地区では、国内最大級の分散型AIデータセンターの建設が本格化しようとしている。(株)イオレとダイナミックデジタル(株)は、入来工業団地地区に分散型AIデータセンター九州リージョンの構築を本格化させて行くとしている。

DCが求める安定インフラ
再エネと蓄電の弱点

 AIデータセンター(DC)が求める社会インフラで最も重要なものはいうまでもなく電力である。AIデータセンターは電気仕掛けだからだ。しかもその電気仕掛けは、24時間365日にわたってまったく変動しないフラットで安定した電力供給を要求する。許容される年間の変動幅はわずか1%程度といわれている。

 また、これまで首都圏や京阪神など大都市にデータセンターが立地されてきたが、昨今は地方分散型の立地に移行する傾向が強まっている。その主な理由は3つある。

 ①コスト:都市部では地価や電気料金が高騰しやすい傾向がある。②インフラリスク:データセンターは大容量の電力を常時必要とするが、それらが都市に集中すると、電力需要のピーク時の電力逼迫状況が深刻化し、最悪停電を招きかねない。③災害リスク:都市部への集中立地によって、地震、台風、水害などの災害時にシステムが停止するリスクが高まる。

 これはデータセンターに限らないことであるが、社会的に重要なインフラでありながらも分散立地が可能なものはできるだけ分散させたほうがリスクヘッジおよびセキュリティの観点からは非常に望ましい。その観点からは、データセンターもそれを支える電力(電源)もともに分散立地が可能である。

 18年9月6日に発生した北海道胆振東部地震は大規模停電を引き起こしたが、その際再エネが停電防止や停電からの復旧になんの役にも立たなかったことは記憶に新しい。また太陽光は夜間はまったく発電しないので、その電源に頼るならば大規模蓄電設備を併設しなければならない。蓄電池そのものがいまだにべらぼうに高価なので、結果高コストになる。しかも、大規模蓄電装置そのものが深刻な災害源となる(参考:『系統用蓄電池の問題点とはなにか?』)。

 これらのことを考えれば、地方の原子力発電所に近接して大型データセンターを立地するかたちでの“ワット・ビット連携”が、すべての面から非常に合理的でありビジネス的な魅力も高い。再稼働が成った原子力発電所やこれから新造される原子力発電所の災害および事故対策は万全の体制であり、再エネにみられるような脆弱性はない。

動き出した原子炉新設

 いま新型原子炉の新設に向かって動きが活発化している。22年8月24日、当時の岸田文雄総理大臣は原発再稼働の迅速化および次世代炉の開発・建設の検討を指示するなど、原子力の最大活用に向けて一歩踏み出した。

 あれから3年、25年7月22日に関西電力は福井県の美浜原子力発電所敷地内に、原発の新設に向けた自主的な現地調査を再開すると発表した。

 関電の原発新設の計画は15年ごろからあったが、金銭スキャンダルで一時首を引っ込めていた。関電に続くと見られているのは、九州および北海道だ。その他、その筋から聞こえてきた情報によれば、青森県東通地域、浜岡、敦賀などに新設への動きがあるとされている。東通には広大な敷地がすでに確保されており、東京電力ホールディングスと東北電力が所有している。

東通原子力発電所 完成予想図 出所:TEPCO
東通原子力発電所 完成予想図 出所:TEPCO

 ここには運転停止中の沸騰水型大型原発(BWR)1基(110万kW、東北電力)と11年1月に着工したが建設が中断したままのもの1基(改良型BWR138.5万kW、東電)がある。この広大な敷地にはそもそも大型原発が10基以上建造される計画であった。

 浜岡には東海道地域に唯一原発が立地しており、東海工業地域の最中にある。しかも、首都圏からも中京圏からも遠からず近からずの位置にあり、分散型でありつつもワット・ビット連携(電力インフラとデータセンターインフラを密に連携させて開発する方式)には好都合だと見て良い。

 浜岡は南海トラフ巨大地震が最大の懸念であるが、中部電力は巨大地震と海底地すべりが連続して起こった際に発生する津波の高さを25.2mと予測し、原子力規制委員会が了承した(24年10月)。なお、11年当時の津波高さは10mと予測されていた。今後、25.2mの津波に備えるべく防波壁が嵩上げされる(現在は海抜22m)。そうすれば、来たるべき南海トラフ地震・津波にも耐性を備えた敷地が確保されることになる。

浜岡原子力発電所の防潮堤(高さ14~16m、頂上部は海抜22m)
浜岡原子力発電所の防潮堤(高さ14~16m、頂上部は海抜22m)

次世代革新軽水炉(iBR)
その革新的安全性

 ではそこに建造される次世代の革新的な大型軽水炉とは一体どのようなものになるのだろうか。

 日本の原子力発電所の開発設計は、主に三菱重工、日立GE、東芝が担っている。それぞれが、SZR-1200、HI‐ABWR、iBRという次世代のフラッグシップである大型原子炉の設計を用意している。担当者の言によれば、発注さえあればすぐにでも建設に取りかかれるという。

 ここではiBRを例として、その革新たるゆえんの核心を見ていきたい。

 iBRのベースになっているのは、改良型BWR(ABWR)であり、東京電力の柏崎・刈羽原子力発電所の6、7号機がそれに該当する。つまり建造実績と運転実績がある。そのABWRに対して、3.11の重大事故の教訓を反映して、安全面で大幅な改良が組み込まれている。

 安全性の向上は次の4点にある。

①重大事故時でも外部支援なしで最大7日間のグレースピリオド(運転員操作不要期間)
②炉心溶融事故時でも水素や放射性物質を閉じ込める二重円筒格納容器
③溶けた燃料やデブリを受け止めるコアキャッチャー
④航空機の外部飛来物の衝突/攻撃などにも耐えるよう格納容器構造の頑強化

 この結果、重大事故の発生確率とその際の放射性物質の環境への放出量は、ともに従来のABWRに比べて100分の1以下に低減されるという(参考:『革新軽水炉「iBR」は東芝起死回生の一打となるのか』)。

東芝の革新軽水炉「iBR」の主な特徴

DX・GXに原発100基新設必要
原子力規制の政策転換も必要

 国際原子力機関(IAEA)などの予測によれば、DXやGXをやり遂げるには、50年目処に原子力発電は現状の3倍になるとしている。このことを日本に当てはめると、今後大型原子力発電所を100基以上の新設ということになる。上記の8基ではとても足りない。仮にいますぐに新設の動きを立ち上げたとしても、営業運転するのは、早くても30年代になる見通しだ。

 現状を考えるとこの100基という数字はなかなか大きい。原子炉の建造自体は最短で5年程度で完遂する。しかし、その他の大きな遅延要因が2つある。1つは原子力規制システムの足かせ。そして、もう1つは立地である。

 現下の原子力規制のもとでは再稼働さえも10年かかっている。そこには原子力規制委員会設置法に潜む根本的な問題があり、結果的に規制の専横を許してきている。独裁といっても良い。設置法に立ち返っての根本的な改革が必要であり、原子力規制という政策の大転換が必要だ。それは政治の責任の手中にある。

 原子力発電所が立地されているサイトは今現在全国に17カ所ある。泊、大間、東通、女川、柏崎・刈羽、福島第1/第2、浜岡、志賀、敦賀、美浜、大飯、高浜、伊方、島根、玄海、川内と、いずれも“海岸立地”だ。しかし、東通を除けば各立地はすでに余地が乏しく、たとえあってもせいぜい1〜2基程度が新設できる用地しかない。

 しかし、そのような用地問題にも解決策がある──オフショアである。つまり浮体式の洋上大型原子力発電所である。

浮体原子力発電 原子力は海洋立地へ

 浮体原子力発電は、陸上の既存原子力発電が抱える地震や津波のリスクを洋上に浮かべることで低減し、さらに電源を必要とする動的システムではなく周囲の海水を有効に活用してより確実性の高い受動的システムでシビアアクシデント時に原子炉を冷却できる設計となっている。また、搭載する炉型は海上での冷却に親和性が高く運転実績も豊富な軽水炉を中心に、発電出力は300MWの小型炉から1,300MW級の大型炉までを視野に入れている。

 石油掘削リグにも似たイメージであり、沖合に浮揚設置する。その離岸距離は30kmを超える。そうすれば、事故時の避難問題は事実上なくなる。このようにして、地上立地の原子力発電所の3大宿痾である地震・津波問題、立地問題、そして避難問題から解放される。洋上原子力こそが、原子力を従来のしがらみから解放する開発および運営体制と一体化してあるのだ。

 この動きは世界規模で勃興しており、日本ではAdvanced Float社を率いる姉川尚史氏が現在精力的かつ献身的にその概念の流布とファンディングを行っている。

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浮体式原子力発電所のイメージ ©MIT
浮体式原子力発電所のイメージ ©MIT

    50年に向けてAI圧のもとにある我が日本…そのAI圧がドライブするのがとどのつまり浮体式原子力発電だ。浮体式大型原子力発電所1基のコストは約1兆円であり、100基新設には100兆円規模のビジネスチャンスが口を開けているということになる。マーケットや投資家はこのポテンシャルにもっと注目して良いのではないか。

 原子力は海岸立地から“海洋立地”にシフトする。浮体式原子力発電にこそ海洋国家日本の未来があり、日本がその分野で世界を牽引する──そのように私は確信している。


<PROFILE>
澤田哲生
(さわだ・てつお)
1957年、兵庫県生まれ。エネルギーサイエンティスト。京都大学理学部物理学科卒業後、三菱総合研究所に入社。ドイツ・カールスルーエ原子力研究所客員研究員をへて、東京工業大学ゼロカーボンエネルギー研究所助教(2022年3月まで)。専門は原子核工学。近著に『やってはいけない原発ゼロ』(エネルギーフォーラム)。

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