ついにきたメディアの断末魔(前)

『週刊現代』元編集長 元木昌彦 氏

 ニューヨーク・タイムズと並ぶアメリカのクオリティペーパーであるワシントン・ポストが大々的なリストラを行った。デジタル化への遅れがあるようだが、実態は権力者にすり寄る経営者の姿勢に読者が離れたことが大きい。この国の新聞は生き残れるのか?

超円安が突きつけた「国力の現実」

 1月の20日から2週間ハワイに行ってきた。

 物価高のアメリカのなかでも群を抜いて高いといわれる観光地で、イヤというほど日本の国力の低下を味わった。

 超円安の最初の実感は3万円の両替時だった。手数料を入れて1ドル=167円。返ってきたのは180ドル。価値が半減してしまったというのが実感。

 着いた朝のハワイは「冬季」と曇天のためだろう気温は24度。日が陰るとやや肌寒い。腹が減ったのでリゾート内のミニ・スーパーで早速、ホットドッグを買う。一昨年秋は日本円で約1,200円だったが、今回は12ドル(約1,920円)。ま、値上がりは仕方ないと思って包装紙を開けると、前より2、3割がた小さくなったパンに、これもやせ細ったウインナーが挟まれているだけ。実質的な大幅値上げである。ドトールのジャーマンドッグは320円だぞ!

 今回は「異常な円安」に打ち勝とうと、終戦直後の“担ぎ屋”よろしく、コメ、ソーメン、パスタ、紙パックの1.8リットル芋焼酎、タバスコ、ソースなどを詰め込んできた。

 私は「ハワイにうまいものなし」だと思っているが、ステーキはハワイだけではなく、アメリカはおいしい。NYのマイケル・ジョーダンのステーキハウスは安くてうまかった。

 ハワイへ行くとスーパーでステーキ肉を買ってきて、リゾッチャ内のBBQ施設で焼いたステーキと、厚切りジャガイモこんがり焼きがあれば、毎日同じでもいいと思っている。それにマイタイがあれば、ここは“天国に一番近い島”になる。

 2回、バスに揺られてスーパーに買い出しに出かけた。野菜は日本と同じか、安いものもある。イチゴ1パック約1,200円。国産ナパバレーの安ワインが約2,500円。

 ニューヨークステーキ2枚、1kg弱が約6,500円。3人分はたっぷりある。これに赤ワインとうまいパンがあればサイコーなのだが、ハワイ全島にいえると思うが、うまいパン屋はほとんどない。

 浜辺で「人間こんがり焼き」になっていると、ハワイのカクテル・マイタイが無性に飲みたい。だが高い。3日目の夕暮れ、真っ赤な夕日が海に燃えて落ちるのを見ながら、プレスリーの「ブルーハワイ」を聴いていると、無性に飲みたくなった。禁を破って同行者分も含めて3杯テイクアウトした。「愛しのマイタイ!」と感激の対面をしたが、いっぱい22ドル×3=約1万500円(店で飲めばこれにチップ20%が加わる)。

 1度ゴルフをした。カポレイゴルフクラブ。平日で220ドル(約3万5,000円)。

 帰国した次の日に牛丼屋へ行った。うまい安い、感動した。

権力にひるまぬ新聞の栄光と転落

新聞 イメージ    さて、本題に入ろう。

 映画『大統領の陰謀』や『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』でも有名なワシントン・ポストはニューヨーク・タイムズと並ぶアメリカが誇るクオリティペーパーである。

 『ペンタゴン・ペーパーズ』でメリル・ストリープが演じるのはポストの女性社主・キャサリン・グラハム。

 ポスト編集部は、国防総省の最高機密であるペンタゴン・ペーパーをニューヨーク・タイムズに続いてスクープした。だが、ニクソン大統領から最高裁へ差し止め訴訟を起こされ窮地に立たされてしまう。

 このとき、ニクソンがよりどころにしたのが、高市首相が早期に成立を目指す「スパイ防止法」であった。

 もし負ければ、自分や編集幹部も逮捕されるかもしれない。ポストが潰れ、社員が路頭に迷うかもしれない。

 だが、最後にキャサリンは、新聞の使命は真実を報道することだと決断する。彼女は「権力にひるまない新聞経営者」として有名になり、ポストはニューヨーク・タイムズと並び立つアメリカを代表する新聞になったのだ。

 そのポストが、約3割の社員を削減する大規模なリストラに踏み切ったというのである。

 背景には、メディアを取り巻く環境の厳しさに加え、ワシントン・ポストを所有する世界有数の富豪でアマゾン創業者のジェフ・ベゾスの存在があると、朝日新聞デジタル(2月13日 17時00分)は報じている。

《さらなる苦境のきっかけは、トランプ氏の大統領への返り咲きだった。米国の新聞社は選挙を前に、社説で候補を推薦する伝統がある。WPも長年にわたって同様に対応してきたが、24年は大統領選の11日前に「今後は推薦を取りやめる」と発表。「中立性を保つため」とされたが、民主党のハリス副大統領(当時)を推薦する社説を準備しながら、ベゾス氏の判断で取りやめられたことが明らかになった。

「反トランプ」を期待したリベラル層から猛烈な抗議が起き、有料会員の約1割にあたる25万人が解約。さらに、トランプ氏就任後の25年2月、ベゾス氏はオピニオン欄について「個人の自由」と「自由市場」を擁護する記事しか載せないと表明し、右派的な立場を取ると受け止められた。オピニオン編集長らが辞任し、有料会員がさらに減少する事態となった。》

 権力にひるまないことを旗印にしてきたポストが、トランプ大統領にひれ伏したのでは、志をもっている記者が離れ、読者からも見放されるのは当然である。

 だが、あのポストが……と思うと一抹の寂しさを感じる。

日本でも進む既存メディアの衰退とSNS戦略

 一方、日本の新聞に目を転じれば、こちらも厳しさは同じようだ。
ABCが発表した今年2月現在の発行部数は、以下のようである。

[減少率/過去1年間]
読売新聞 ▲  8.5%(-44.5万部)約525万部
朝日新聞 ▲  4.9%(-15.3万部)約315万部
毎日新聞 ▲19.7%(-22.2万部)約112万部
産経新聞 ▲  5.2% (-4.08万部)約78万部
日経新聞 ▲  6.7% (-84.0万部)125万部

 往時、1,000万部を誇った読売新聞は半減しているが、それでも500万部を維持しているのはすごいことだとは思う。

 だが、影響力という点で見てみると、半減どころではないと思わざるをえない。

 先の「サナエ身勝手解散&総選挙」でも、影響力をもったのは新聞・テレビではなくSNSだったといわれる。

 高齢者は別にして、その下の層は、テレビを参考にはしているが、SNSや動画サイトを「参考にした」人は42.7% で、朝日新聞の調査では、政治情報をSNSで重視する層は、自民党への比例投票が36%で最多 という結果が出ているのだ。

 高市自民党は、高市を各党が集まって議論する場には出さないという戦略をとった。終盤のNHK党首討論会をドタキャンしたのは、手のケガではなく、議論が苦手の高市が「台湾有事発言」のような失言をすることを、側近たちが恐れたからであった。

 それに代わって湯水のようにカネを注ぎ込んだのはSNSを使った広報戦略だった。

 週刊新潮(2月19日号)は「再生数1・6億回 高市動画の『影響力』と3億円『広告費』」という特集を組んでいる。

 新潮によれば、YouTubeにのった高市のメッセージは約1億6,000万回再生されたという。

 他党と比較しても、この数字は突出しており、3,000万回再生の参政党以下を大きく引き離した。大敗した中道改革連合はわずか330万回。自民党はネット空間でも他党を圧倒したといえよう。

 『近年の国政選挙では、ネットの利用に長けた国民民主党や参政党が躍進しました。今回自民党は、高市首相のメッセージ動画を積極的に投稿する戦略が功を奏したといえます』とは、ネット選挙に詳しい選挙プランナーの渕之上和良氏だ。
『党本部からの情報発信も充実していました。高市首相の応援演説をリアルタイムで編集・配信していた点は高く評価できます。各選挙区の候補者たちは、それらの動画を自身のSNSで活用して、有権者に顔や名前を効果的に浸透させることができたのです』(同)

 選挙中に自民の広告が大量に流れたことに、一部から『法的に問題はないのか』との声が上がったが、
『公選法は特定の候補者の当選を目指して投票を呼びかける“選挙運動”のためのネットでの有料広告を禁じています。ただし、政党が“政治活動”として有料広告を出すことへの規制はありません。問題の動画は特定の候補への投票は呼びかけておらず、“選挙運動”にはあたりません』(政治部デスク)」(新潮)

 では、いくら広告費を費やしたのだろうか?

 企業のYouTube運営を手がける「(株)動画屋」の木村健人代表がこう話す。
「YouTube広告というのは、Google広告の一部です。Googleで検索すると、検索結果の一番上に『スポンサー』と表示される広告がありますよね。あれがGoogle広告のウェブ版。その動画版がYouTube広告だと考えると分かりやすいと思います。サービスの一番の強みは、誰に届けるかを非常に細かく設定できるところでしょう」

 具体的には広告の配信エリアを市区町村単位で指定できるだけでなく、配信の時間帯もピンポイントで設定可能だというのである。また、「セグメント設定」という機能でターゲットの選別も可能だともいう。
「広告を掲載する際、特定のトピックに関心をもつユーザーに配信先を絞ることができます。これにより、たとえばドライブの動画を検索すると、自動車メーカーの広告動画が流れるわけです」

 私にはさっぱりわからないが、特徴的なのは広告の出稿が「オークション形式」であるということだそうである。先の木村代表がこう話す。
「入札制なので“1回10円で出します”という広告主と“100円出します”という広告主がいたら、100円を提示した広告主の広告が優先的に表示されます。ただし、Googleは競りの計算を自動でやる。広告主は細かい入札の代わりに、1日の広告予算額を設定します」

 “1日1万円まで”と上限を決めると、1万円の範囲内でGoogleが自動的に広告の枠に入札するのだという。

 このような特殊な仕組みを前提に、件の動画の広告費を木村が試算するとこうなるという。
「YouTube広告の単価は配信の仕方にもよりますが、例の自民党の広告は1視聴あたりだいたい1.5円から高くても2円程度が目安だと考えられます。1.6億回、すべて広告として再生された場合、仮に1視聴1.5円で計算すると2.4億円、2円で計算すると3.2億円。なので、2億~3億円くらいが現実的なラインだと思います。1日当たりの上限予算を2,000万円程度に設定して、ターゲットなどを定めずに広告を配信したものとみられます」

 今年の自民の政党交付金は約125億円。企業・団体献金の収入も多く、少数政党に比べれば格段に懐事情は温かいから3億円の出費など痛くも痒くもないのだろう。

 こうした広報戦略はいったいどのように生まれたのだろうか?

(つづく)


<プロフィール>
元木昌彦
(もとき・まさひこ)
『週刊現代』元編集長 元木昌彦 氏『週刊現代』元編集長。1945年生まれ。早稲田大学商学部卒。70年に講談社に入社。講談社で『フライデー』『週刊現代』『ウェブ現代』の編集長を歴任。2006年に退社後、市民メディア「オーマイニュース」に編集長・社長として携わるほか、上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。日本インターネット報道協会代表理事。主な著書に『編集者の学校』(講談社)、『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)、『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、『現代の“見えざる手”』(人間の科学新社)、『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)など。

関連キーワード

関連記事