ホワイトかブルーか 道具箱か教科書か(後)

道具箱をとるか、教科書か。 筆者イメージ
道具箱をとるか、教科書か。 筆者イメージ

 インドのことわざに、このような教えがある。「許しなさい。あなたも許されてきたのだから」…デスクの下で人知れず拳を囲い、爪が肉に食い込むほど握りしめたことは数えきれない。「若いときの苦労は買ってでもしろ」というように、この時期に多くの失敗を重ね、悩み、苦しみ、それを課してくる誰かの負荷のもとに、成長が果たされていく。では、どのように苦労は買っていけばいいのか、2つのアプローチから考えてみたい。

韓国でも同様の流れ

若者の認識が変わってきている pixabay
若者の認識が変わってきている pixabay

    韓国社会でも、同様の動きがある。これまでブルーカラー職(すなわち製造業や建設業などの肉体労働系職業)は、軽視される傾向にあった。東アジア文化圏特有の儒教的価値観に根差している韓国では、大学を卒業してホワイトカラー職に就くことが「成功」とされる社会が、根強く残っていた。急速な経済成長と教育過熱により、やがて韓国は世界でも有数の大学進学率を誇る“超”学歴社会となり、社会全体に深く浸透した。ブルーカラー職は「学歴がない人の仕事」として見下される風潮が長らく背景にあったのだ。

 しかし最近は、若者の間でその認識に変化が見られるようだ。若者たちの間でブルーカラー職に就く意志がある、もしくはポジティブに捉えている流れが大きくなってきているという。その理由としては、「労働に見合った高収入」や「技術習得による雇用の安定性」「組織ストレスの少なさ」など。また「参入障壁の低さ」「AIによる代替リスクの低さ」「人としての人間力の高さ」も、支持を後押ししているという。

韓国社会から見える若者の意向

① かつて学歴に基づく職業ヒエラルキーが支配していた。AI社会への移行により、学歴よりも“スキルや適性”が重視される傾向が強まり、多様な成功モデルが登場している。

② AIによる代替リスクの低さが魅力。一般に、単純事務作業などホワイトカラー職のほうがAIによる代替が進みやすいとされる一方で、ブルーカラー職のなかには人間の判断力や身体能力、対人スキルを要する業務が多く、これらは技術による代替が困難である。経験を積むほど価値が高まる職種であり、熟練技能者としての地位も確立されやすい。

③ かつての単純作業中心のイメージから、現在ではICTを活用した設備管理や電気自動車整備など、技術と知識を兼ね備えた現場技術者へと再定義されている。これにより、単なる肉体労働ではなく、高度技術職としての認知が広がっている。

④ 若者の価値観とブルーカラー職の特性が合致している。業務の開始・終了が明確で、労働に応じた報酬が得られ、上下関係のストレスが少ない。公正さやワークライフバランスを重視し、実利を優先する今の時代の若者に受け入れられやすい。

⑤ 若年層の雇用環境の悪化が背景にある。ホワイトカラー職への就職が困難で、代替的かつ実利的な選択肢として、ブルーカラー職が注目されている。

 ガテン系が魅力に映るのもわかるが、実際やってみて身体がついていくかどうかは、重要な視点だ。実際、想像以上に身体を酷使し、心の面でも厳しい世界だ。前述の通り、経験や行動を通じて成功も失敗も重ねていく。その過程では、怒号が飛び交うことだってある。そうやって鍛えられる職場が、「ストリートスマート」だということも覚悟しなければならない。

将来の仕事を憂う

 小中学生向けに実施されたアンケート「10年後になくなりそうな職業」を聞いた設問では、「翻訳家」「電車・バスの運転手」「アナウンサー・テレビキャスター」の3つが上位を占めた(ニフティ(株)運営「ニフティキッズ」調べ/2025年)。今後、どのような仕事が生まれ、かたやなくなってしまうのだろうか。少なくとも7割の子どもたちが今、10年後になくなってしまう職業があるだろうと感じている。

将来の仕事を憂う PRTIMESより引用
将来の仕事を憂う PRTIMESより引用

 学校のテストは、主に「暗記力」を測定するもので、ほとんどの問題に「正しい答え」と「まちがった答え」がある。一方で、社会での学習はたいていの場合、「1+1=2」というものでもなく、「これが正しい答え」や「絶対に通用する方程式」というものも当てはまらない場合もある。そのコミュニティのなかでの正解や慣習など、何とも理不尽で不条理なことも多い。社会人になって、デスクの下で人知れず拳を囲い、爪が肉に食い込むほど握りしめたことは数えきれない。「若いときの苦労は買ってでもしろ」というように、この時期に多くの失敗を重ね、悩み、苦しみ、それを課してくる誰かの負荷のもとに、成長が果たされていく。インドのことわざに、このような教えがある。「許しなさい。あなたも許されてきたのだから」──そう、結果的にはそれを許してくれる誰かの恩情の下に、成長は見守られていく。

 Z世代の若者たちが次々と学業を終えて、社会に出始めている。彼ら(彼女ら)が持つ価値観は、X世代やミレニアル世代の人たちとは大きく異なっている。多様な教育やキャリアの道がより広く求められていくなか、道具をもって現場に出るか、教科書を開いてデスクの前に座るか、多種多様な仕事が生まれてきているなかで、今はどちらに向いて流れているのか、社会の時流を見定める必要がありそうだ。

 「苦労」も含めた「経験」をどこで買うか…。ホワイトかブルーか、どちらか一方だけでなく、両方やってみればいい。ブックスマート、ストリートスマート両者のアプローチがそれぞれ必要だろう。筆者にも年頃の子どもがいるが、私ならそう伝えたい。そのくらい今の一生は、長丁場になっている。

(了)


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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