米・イスラエルとイラン戦争(40日目)―高市氏の「ホルムズ海峡は国際公共財」論を支えよ(前)

 日本ビジネスインテリジェンス協会(BIS、中川十郎理事長)より、(有)エナジー・ジオポリティクス代表・澁谷祐氏による「米米・イスラエルとイラン戦争(40日目)―高市氏の『ホルムズ海峡は国際公共財』論を支えよ」と題する記事を提供していただいたので共有する。

米・イランが
「2週間の停戦に条件付きで合意」

 7日(米東部時間)、トランプ米大統領は、自身のSNSで、イランとの間で2週間の停戦に合意したと発表した。投稿によると、パキスタンの仲介を受け、イランがホルムズ海峡を「完全かつ即時、安全に開放」することを条件に、米国は対イラン攻撃を一時停止するという。停戦は「双方によるもの」と位置付けている。

 トランプ氏は併せて、「イランから受け取った10項目の提案は、交渉のための実行可能な基盤だ」とし、これからの2週間は、長期的な和平合意を最終化するための期間としている。

 これに対し、イラン側も条件付きで応じる姿勢を示した。アラグチ外相は8日に自身のXで、国家安全保障最高評議会を代表する声明を公表し、「イランに対する攻撃が停止されれば、わが武装部隊は防衛作戦を停止する」と表明し、そのうえで「2週間に限り、イランの武装部隊との調整の下でホルムズ海峡の安全な通航を認める」と述べた。米国提案に比べてイラン提案は、とくにホルムズ海峡に対するドミナンス(支配管理)論に傾斜しているのは興味深い。

 ジェトロ情報(8日付)などによると、イランが示した10項目の提案は、(1)恒久的な戦争終結、(2)イランへの将来の再攻撃を防ぐ安全保証、(3)地域全体での敵対行為の終結、(4)対イラン制裁の解除、(5)ホルムズ海峡の運航再開、(6)安全航行ルールの確立、(7)通航料制度(1隻約200万ドル)の導入、(8)通航収入をオマーンと分配、(9)通航収入のインフラ復旧への充当、(10)合意履行を担保する協議・監視枠組みの設置との内容。

 ホルムズ海峡の再開の事案について、重視する姿勢が特徴になっている。

パキスタンが仲介、
イスラエル/レバノン問題で難航も

 パキスタンのシャリフ首相の仲介による、間接方式による和平協議が首都イスラマバードで11日(現地時間)に開催されるはこびである。米国代表団はバンス副大統領が率い、一方イラン側からはガリバフ国会議長らが出席する。

 ところが、開催直前、早くも双方の立場の違いが鮮明になっている。イランのペゼシュキアン大統領は、「ホルムズ海峡の航行の安全は米国とイスラエルの完全な攻撃停止次第で、これにはレバノンのヒズボラを含む全戦線での停戦を含む」と述べた。一方、これに対して米国とイスラエルは「(レバノンは)停戦合意には含まれていない」と反対し真っ向から対立している。

日本・イラン首脳電話会談のポイント

 8日午後4時(日本時間)から約25分間、高市首相は、イランのペゼシュキアン大統領と電話した。外務省の発表によれば、高市首相は、次の通り述べた。

▲最も重要なことは今後、ホルムズ海峡の航行の安全確保を含む事態の沈静化が実際に図られるということである
▲ホルムズ海峡は世界の物流の要衝であり、そして国際公共財である
▲日本関係船舶を含むすべての国の船舶の航行の安全確保を早期に、迅速に行うよう求める
▲両首脳は、引き続き意思疎通を継続していくことで一致した

「ホルムズ海峡は国際公共財」の
法的根拠

 高市首相が、ホルムズ海峡を「国際公共財」(an international public good)と位置づけ発言した。その含意には、特定の国が軍事的に封鎖し、独自の通航料を徴収することは認められないというイランに対する牽制であろう。同時にトランプ氏らの側近にも投射されるフレーズであることを期待したい。海洋立国の我が国は、シーレーンが生命線である。いまホルムズ海峡がその試練にさらされている。安倍政権下における次の討議資料が参考になると思う。

参考:ホルムズ海峡は「国際公共財」

安倍政権当時の私的諮問グループ(有識者)による「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」の報告書(2014年5月15日)から抜粋。ペルシャ湾・ホルムズ海峡における機雷除去をケーススタディに掲げて検討した際、海上輸送路(シーレーン)にかかわる紛争との関連で、「シーレーンは国際公共財であるので、国際法上、集団的自衛権行使の法的根拠になる」と結論づけた。

「テヘランの料金所」で通行料を徴収

 海運専門メディアの英ロイズリストなどによると、ララク島とゲシュム島の間に「安全回廊」と呼ぶ独自の航路を設けた。

 3月16日以降、すでに航路の通航料を課しているといわれている。「VLCC」(超大型石油タンカー)の少なくとも1隻が、200万ドル(約3億2,000万円)を人民元で支払ったという。英ロイズリストのアナリストは2島を「テヘランの料金所」と名付けた。

前掲・ジェトロ情報の通り、イランは、▲ホルムズ海峡の運航再開 ▲安全航行ルールの確立 ▲通航料制度の導入 ▲通航収入をオマーンと分配 ▲通航収入のインフラ復旧への充当について発表した。

 イランの国家安全保障委員会は、ホルムズ海峡に通行料を課す法案を承認したと、準国営通信社ファルス通信が報じた。

 海運業界や政府関係者などからの取材で、イラン革命防衛隊(IRGC)はすでに通過船舶から通行料を徴収し、友好国とみなす国の船舶には優遇措置を与え、侵略国とみなす国の船舶には拒否をちらつかせている(米ブルームバーグ)。

 その徴収メカニズムはつぎの通り。

 ホルムズ海峡を利用する船舶運航者は、IRGC系のある仲介会社に連絡を取り、船舶の所有者、船籍、貨物積荷目録、目的地、乗組員名簿、および船舶が位置情報を記録・送信するために使用する自動識別システム(AIS)のデータ類に関する情報を提供する。

 仲介者は、当該船舶がイスラエルや米国、あるいはイランが敵対国とみなすその他の国々と関係がないことを確認するため、海峡の積出港ごとにIRGC海軍ホルモズガン州司令部に書類を送付する。

 次に、船舶が基準を満たせば、通行料に関する協議が始まる。関係者によると、イランは各国を1から5までのランク付けシステムで評価しており、友好国と見なされる国の船舶はより有利な条件を得られる可能性が高い。

 石油タンカーの場合、交渉がまとまれば通常、原油1バレルあたり約1ドルで、人民元またはステーブルコイン(ハードカレンシーの価値に連動した仮想通貨)で支払われる。

 通行料が支払われると、IRGCは許可コードと航路指示を発行する。当該船舶は、通行協定を締結した国の国旗を掲揚し、場合によってはその国の公式登録に変更することが求められる。

 ホルムズ海峡に近づくと、船舶は超高周波無線でパスコードを発信し、巡視艇に護衛されて前掲「テヘランの料金所」と呼ばれる島々の間の海岸線近くを通る。

「イランは自衛権を発動」、
国際法違反論に対抗

 イランが通行料を課す法的根拠は明確ではない。各国は通常、海岸線から12海里(約14マイル、または22km)の範囲に領海を設定しており、その範囲内では船舶の検査が認められている(英ロイズリストなど)。

 イランは今月、世界の海運監視機関である国際海事機関(IMO)宛ての書簡で、非敵対国に関連する船舶はホルムズ海峡を安全に通過できると述べた。また、敵対国とみなす船舶については航行を制限していると付け加えた。

 「海峡に面する沿岸国であるイラン・イスラム共和国は、確立された国際法の原則と規則に完全に準拠し、侵略者に属する、または侵略者と関係のある船舶の航行を制限した」と書簡には記されている。

 「イラン側の正当化の根拠は、これは自衛権の行使であり、そのため船舶の検査が必要だというもの。これらの船舶を検査するには手数料を支払う必要がある」「しかし、ほとんどの国際法専門家の見解では、これは合法ではない」(ロンドン市立大学の商法・海事法教授であるジェイソン・チュア氏)。

 船舶所有者や運航者は、通行料を支払うべきかどうか、米国やイランからどのような規則、制裁、条約が適用される可能性があるか、そして保険で何が補償されるかといった、難しい法的問題に直面している。

 「イランとの戦争は国際法にとって多くの課題と疑問を提起したと思う。おそらくその理由の1つは、双方が国際法や確立された規則の下で、控えめに言っても非常に物議を醸すような活動に従事していたことにある」(同上・チュア氏)。

参考:ホルムズ海峡は国際海峡

 ホルムズ海峡はイランとオマーンの間に位置し、ペルシャ湾(アラビア湾)とアラビア海を繋ぐ袋状の半閉鎖海域である。ホルムズ海峡は、オマーン湾の公海又は排他的経済水域とペルシャ湾の公海又は排他的経済水域を結ぶ国際航行に使用される海峡であり、最狭部は沿岸国であるオマーン(飛び地のムサンダム半島)の領海とイランの領海に覆われ、両国とも国内法で等距離中間線を境界線とする旨を規定している。

 当該海峡の最も狭い部分は幅33.8km、最浅部の水深は73m。国際海峡(国連海洋法条約第34条)で、世界主要航路の最大チョークポイント(隘路)である。

 最狭部は、分離通航方式が採用されている。航路帯はそれぞれ2海里(1海里=1,852m)の幅があり、かつ2海里以上の緩衝帯が設定。同海峡にはIMO(国際海事機関)により採択された分離通航帯が設定されているが、同通航帯は中間線よりオマーン側に位置する(平時の場合の地図=米国際戦略研究所=IISS)。

 さて、イラン戦争前に日量2,000万バレルの石油タンカーが海峡を通過し、世界中で取引された石油のほぼ20%(海上輸送分合計の約40%)が通過し、その積荷の80-90%はアジア市場(日本、インド、韓国、中国など)向けである。石油・LNG・LPGタンカーに加え、コンテナ船、自動車運搬船や貨物船の航行も輻輳している。

 戦時体制下の3月、IRGCは「危険エリア」を宣言して、海峡航路帯として「テヘランの料金所」と呼ばれるララク島とゲシュム島沖を設定している。

(つづく)


<プロフィール>
澁谷祐
(しぶたに・ゆう)
コンサルティング・ディレクター、エナジー・ジオポリティクス。主な職歴:早稲田大学資源戦略研究所・主任研究員、同大学アジア太平洋研究センター・特別研究員、外務省・在中東大使館の書記官・オイルアタッシェ、ジェトロ・ロンドンセンター・資源部長、北極石油(株)調査役など。慶応義塾大学卒。専門分野:エネルギー地政学。主な著書(共著):「日中印の真価を問う」「アジア経済発展のアキレス腱」。1942年生まれ。趣味:週末テニス。

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