福岡市の景観計画 6つのゾーンで形成方針

福岡市景観計画の策定

都市景観形成地区
都市景観形成地区

 福岡市では、豊かな自然と歴史に育まれた都市景観を守る目的で、1987年に「福岡市都市景観条例」を、続く88年に「福岡市景観形成基本計画」を策定。大規模建築物等の届出制度(都市の景観や街並みに大きな影響を与える一定規模以上の建築物などの新築・増築、外観変更の際に、事前に計画を自治体へ届け出る制度)も活用しながら、これまで景観誘導を図ってきた。

 一方で、人々の価値観・ライフスタイルの変化や、デジタルサイネージ(LEDビジョンなどの電子看板)に代表される公共空間における広告媒体の多様化も進むなか、時勢に応じた景観形成の在り方が求められることから、今年2月、市は新たな「福岡市景観計画」(以下、景観計画)を策定した。計画期間は2025年度から34年度までの10年間で、風格ある美しいまちづくりと市民文化の向上に努める。これに合わせて、24年に開催された「第30回都市景観賞記念シンポジウム」で実施されたアンケート調査の概要も公表されており、景観づくりを進めるうえでの市民の声(課題や希望)も共有された。

景観に関する市民アンケート
景観に関する市民アンケート
景観形成の目標像
景観形成の目標像

    景観計画の理念と目標像を設定するにあたり、上位計画である「福岡市総合計画」などの内容も取り入れられた。市の海や山に囲まれた地形的な特徴、都心部を中心としたコンパクトな市街地の形成、都市的魅力と豊かな自然環境の調和、そして何より、安全・安心な暮らしを市民が日常的に享受できることが重要視されている。これらを踏まえたうえで示された4つの理念は、以下の通りだ。

①都市景観は、市民の共有財産である
①都市景観は、市民の共有財産である    良好な景観は、市民の暮らしに安らぎや潤いを与えるとともに、都市の魅力を発信し観光客などを呼び込む資源となる「市民の共有財産」です。
 1つひとつの建築物等は、1人ひとりの所有物であると同時に、市民の共有財産である景観を形成する重要な要素であることを理解し、継続的に景観形成に取り組むことが必要です。

②市民参加による都市景観の形成
②市民参加による都市景観の形成    まちづくりは、市民、事業者、行政などの多様な担い手により進められるため、それぞれが景観に対しての共通認識をもち、共働して取り組んでいくことが重要です。
 また、多様な景観が形成されるなかで、とくに景観の形成を重点的に図る必要がある地域などは、市民参加による良好な景観形成に向けたルールづくりを行うなど、街並み全体の調和を図るための取り組みを進めていく必要があります。

③長期的な視点をもつ
③長期的な視点をもつ    建築物等は、つくられてから50~100年の長い間、市民の目に触れ、景観を形成するものです。そのため、短期的な目的や流行に左右されることなく、50年後、100年後のまちの姿を想像しながら、長期的な視点で計画することが必要です。
 また、福岡市の魅力の1つである歴史景観は、古くから守り育てられ、その姿を残しています。このため、新たにつくられる建築物等については、既存の景観を損ねることのないよう、慎重に検討する必要があります。

④地域性、個性を生かす
④地域性、個性を生かす    天神・博多などの都心部では、高層ビルやきらびやかな照明によりまちの賑わいが形成されていますが、青い海が広がる地域や、田園風景の広がる地域に、高層ビルや巨大な広告物が設置されると、豊かな自然景観が阻害されてしまいます。
 場所によってふさわしいデザインは違うため、その場所に応じた計画を行い、地域性やまちの個性を最大限に生かす景観形成を行っていく必要があります。

魅力ある景観を活用

 景観を市民の共有財産と位置づけることで、市民・事業者・行政が長期的な視点で都市・福岡の価値向上に資するまちづくりに取り組む。そのための指標の1つでもある景観計画は、景観の在り方を単なる美観の問題にとどめず、都市ブランドや暮らしの質、観光資源としての街並みにまでつなげようとするものだ。

 良好な景観は、日々の暮らしに安らぎや潤いをもたらすだけでなく、都市の魅力を発信し、来訪者を引きつける資源にもなる。だからこそ、景観形成は行政だけが担うのではなく、市民・事業者とも共通認識をもって進めるべきだという考え方だ。また、建築物は数十年にわたって都市景観をかたちづくる要素となるため、そのデザインには短期的な流行ではなく、将来世代を見据えた意匠が求められる。魅力ある景観形成は容易ではないが、市は場所によってふさわしい景観は異なるとの考えのもと、各地域の個性を生かすことを提案している。景観計画区域自体は福岡市全域だが、地域特性に応じて大きく6つのゾーンに区分けし、ゾーンごとに景観形成方針を定めている。

景観計画区域のゾーン区分
景観計画区域のゾーン区分

1 都心ゾーン
都心主軸を構成するメインストリート(大博通り、昭和通り、明治通り、渡辺通り、住吉通り、国体道路)や那珂川、博多川が流れ、天神・博多駅周辺において、交流を支える交通環境を備えるほか、東西に御供所地区と福岡城址(舞鶴公園)という市を代表する歴史的環境地区が存在する、「都心ゾーン」。

2 一般市街地ゾーン
東部(香椎・千早)、南部(大橋)、西部(西新・藤崎・シーサイドももち)の交通結節機能の高さを生かし、都市活力を担いつつ、行政区や市域を超えた広範な生活圏域の中心として、商業・業務機能や市民サービス機能など諸機能が集積。姪浜(西区)や箱崎(東区)など、古くからの街道として栄え、伝統ある寺社や町家など歴史的な雰囲気を内包した地域もある、「一般市街地ゾーン」。

3 山の辺・田園ゾーン
福岡市西部に広がる市内最大の近郊農業地帯で、伸びやかな田園景観が広がるほか、城南区のシンボルでもあり、市民の森としても親しまれている油山や、飯盛山や脊振山、立花山などの山並みが一体的なみどりとなって市街地からの背景を構成する「山の辺・田園ゾーン」。

4 海浜ゾーン
海の中道、志賀島、玄界島、糸島半島、生の松原、能古島などのみどりが大陸との交流の歴史の源となる博多湾を囲み、水面と一体となって福岡らしい景観を形成するほか、生の松原から糸島半島、また、志賀島から海の中道にかけては、自然海岸が残り、さまざまな海辺レジャーによって市民が海を肌で感じることができる貴重な海岸線となっている「海浜ゾーン」。

5 港湾ゾーン
ウォーターフロント地区(中央ふ頭・博多ふ頭)には国際航路などの旅客ターミナルやコンベンション施設が集積し、国内外の人々が交流する海の玄関口としての交流拠点となっているほか、須崎ふ頭、東浜ふ頭、箱崎ふ頭は、穀物・建設資材をはじめ多様な貨物を取り扱い、物流倉庫などが集積。最新鋭の港湾施設を備えるアイランドシティも含め、湾岸景観を構成する「港湾ゾーン」。

6 歴史・伝統ゾーン
中世より続く古刹である聖福寺・承天寺あるいは博多部の町家など、歴史的な街並みを残す御供所地区(博多区)に加えて、住吉造という古い建築形式の佇まいを現代に残す住吉神社や、舞鶴・大濠両公園の一体的な活用を図るセントラルパーク構想による、一体感のある緑地空間づくり、重層的な歴史資源を生かした空間づくりなども進む「歴史・伝統ゾーン」。

 市街地の近くに海・川・山・緑地がそろうことで、都市と自然が近接した風景が生まれている福岡市。ここに、歴史のなかで生み出されてきた地域文化(屋台や山笠なども含む)が合わさることで、単なるデザイン調整ではない、都市の魅力発信と結びついた景観形成重視のまちづくりへの可能性を感じることができる。6つのゾーニングによって、「どこをどのように育てるのか」が地名とともに明確化されたことで、都市の多様な魅力が可視化されると同時に、市民・事業者・行政が将来像を共有しやすくなることが期待される。

新たなまちづくり基盤

都市空間構想図
都市空間構想図

 景観計画は開発規制の仕組みとして捉えることもできるが、見方を変えれば民間投資を誘発する基盤にもなり得る。区域ごとの方針や景観の方向性が明確になることで、民間事業者にとっては開発の前提条件や地域が求める価値が把握しやすくなり、投資判断の予見可能性が高まるからだ。たとえば天神や博多駅周辺では、景観の質が担保されることでオフィス、商業、宿泊機能の立地価値を高めやすい。御供所や筥崎宮周辺のように歴史性を生かせる地域では、観光、文化、宿泊関連の民間投資を呼び込みやすくなる可能性がある。さらに志賀島や海の中道、中央ふ頭、アイランドシティのようなエリアでは、良好な景観形成が交流機能や回遊性の向上と結びつけば、観光・レクリエーション・サービス分野への投資を後押しし得る。質の高い景観は都市のブランド価値を押し上げ、そのことが結果として民間投資を引き寄せる可能性がある。

 景観形成を支える政策の柱として、福岡市は4つの基本方向を示している。①「九州・アジアの交流拠点にふさわしい魅力ある景観づくり」、②「みどりを守り、創り、生かした景観づくり」、③「計画的なまちづくりにあわせた賑わいと活気のある景観づくり」、④「歴史と文化を守り生かす、刻の厚みを感じられる景観づくり」──の4つだ。これらは別々の施策ではなく、都市の成長、自然の継承、地域の個性、歴史文化の活用を横断的に結びつける方針群として機能している。市主導の景観形成施策は、都市の魅力向上だけでなく、生活の質、地域の誇り、観光価値、さらには民間投資の呼び水まで含めた、新たなまちづくり基盤として機能するのか、動向が注目される。

【代源太朗】

※画像などは市公表「福岡市景観計画」より

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