半導体後工程の最大手
台湾・ASEの進出は?
そうした物流構想および産業戦略の試金石の1つといえるのが、本誌vol.75(24年8月末発刊)でも取り上げた台湾半導体大手ASEグループの北九州進出検討である。
24年7月、半導体製造における後工程受託(OSAT)の最大手である台湾のASE(日月光投資控股)の日本法人であるASEジャパン(株)(山形県高畠町、鍾智孝代表)が、北九州市と市有地の取得に関する仮契約を結んだ。約34億円で「北九州学術研究都市」(若松区)の市有地約16haの取得を検討しているといい、後工程の生産能力拡充に向けた工場建設を視野に入れているとしている。
数多くの製造工程を経てつくられる半導体だが、大きくは「前工程」「後工程」の2つに分けられ、分業化が進んでいる。熊本県菊陽町に進出したTSMC(台湾積体電路製造)は前工程である半導体のプロセス開発や製造をメインに行う「ファウンドリ」なのに対し、ASEは半導体の組立やテストなどの後工程を担う「OSAT(Outsourced Semiconductor Assembly and Test)」である。両社はいわばライバルではなく協業関係にあり、今回のASEの進出検討は、TSMCとの連携を視野に入れてのものだと推察される。
ASE側が北九州進出の理由として挙げたのは、水資源の豊富さ、物流インフラの充実、理工系人材の存在である。まさに北九州市が売り込んできた強みそのものである。武内和久・北九州市長が「シリコンシティ北九州の構築に向けた動きが飛躍的に加速する」と語ったのは、この案件が単独の工場誘致以上の意味をもつからだ。後工程拠点の北九州進出が実現すれば、部材、装置、物流、保守、研究、人材育成といった周辺機能の集積が進んでいくことも期待される。
九州ではTSMCの熊本進出が前工程の象徴的案件となったが、北九州市が狙うべきは同じ土俵での大型工場競争ではない。物流と親和性の高い後工程や周辺サービス、研究開発、人材供給の結節点としての存在感を、独自に高めていくことにある。人口減少都市の産業政策として重要なのは、量的拡大よりも、自都市の強みと整合する機能を選び取ることだ。ASE案件は、北九州市がその現実路線を歩み始めていることを示している。
なお、24年7月の仮契約から、まもなく2年になろうとしている。25年7月には、ASEが本社を置く台湾・高雄市と北九州市が、都市間の連携強化に関する協定を締結。今年1月には、武内市長がASEの主力工場を初訪問するなど、北九州市側が関係構築に努めている様子がうかがえるが、まだASEとの本契約には至っていない模様だ。今後、ASEとの本契約に漕ぎ着け、北九州市で半導体後工程を中心とした産業集積が実現できるかどうか、引き続き動向が注目される。
関門の新動脈「下関北九州道路」
前述のように物流都市を志向する以上、「下関北九州道路」の早期実現は、喫緊の最重要課題の1つだ。
関門海峡を挟んで九州と本州の結節点となる北九州市と下関市はこれまで、人やモノが行き交う要衝として一体的に発展してきた経緯がある。しかし、両市を結ぶ交通網は現状、関門橋(高速道路)、関門国道トンネル(国道2号)、関門鉄道トンネル(山陽本線)、新関門トンネル(山陽新幹線)という2本の道路と2本の鉄軌道のみで、異常気象や不測の事態の際のリダンダンシーの確保が以前より問題視されていた。下関北九州道路は、そうした現状の既存道路ネットワークの課題を解消するとともに、関門橋・関門トンネルの代替機能を確保し、さらには循環型ネットワークを形成することにより、北九州・下関の両地域の発展に大きく寄与するものだと期待されている。
(西港町から対岸の彦島を臨む)
これまで下関北九州道路の実現に向けては、国および関係自治体(山口県、福岡県、下関市、北九州市)が連携して、都市計画および環境影響評価の手続きを進めてきた。そして25年12月23日に、都市計画決定が告示された。これにより、ルートや構造などの基本計画が法的に確定した段階にあるが、現時点では具体的な着工時期や完成時期については示されていない。
そして都市計画決定後の次の段階は、事業化だ。国や自治体が正式に事業として採択し、予算を措置したうえで整備を進める段階に移行することで、初めて具体的なスケジュールが動き出していくことになる。すると、詳細設計と並行して用地取得が進められ、用地の確保が進んだ区間から順次工事に着手する流れとなる。ただし、下関北九州道路は関門海峡をまたぐ大規模な橋梁を含むことから、技術的な検討や施工準備に相応の期間を要することが見込まれる。
関門地域は2つの都市圏が近接しながら、依然として交通ボトルネックを抱えている。既存の関門橋や関門トンネルへの依存が高く、事故や災害時の代替性は十分とはいえない。物流・通勤・観光のいずれを考えても、新たな動脈の整備は、単に時間短縮の問題ではなく、都市圏の耐久性を高める投資であるといえよう。下関北九州道路の実現は、港湾や空港、高速道路、貨物駅を束ねる広域ネットワークの弱点を補う案件であり、今後の北九州市の物流都市実現のための最重要事項といえるだろう。
人口はすでに90万人割?
縮小時代の都市政策とは
今年5月、北九州商工会議所と北九州中小企業経営者協会、北九州活性化協議会、福岡経済同友会北九州地域委員会の市内4つの団体は、産学官民が一体で都市経営を担う新組織「北九州地域戦略推進協議会(KDC)」の設立を北九州市に提言した。北九州市が再成長の分岐点に立つなかで、投資拡大や人口転入超過の好機を“構造転換”へとつなげるため、従来の行政主導から脱却して戦略と実行を一体化し、意思決定の高速化や社会実装の加速により、都市の競争力を抜本的に引き上げることを目指して活動していくとしている。提言した4団体は今後、学校や大手企業にも連携を呼びかけ、年度内に組織を立ち上げていく意向だ。
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今回取り上げてきた、北九州市内の各地で進む再開発動向──市場再生、都心制度改革、商店街対策、Park-PFI活用、モノレール沿線再編、駅周辺整備、車両基地移転、物流構想、半導体産業誘致、道路インフラ整備―は、一見するとそれぞれ性格が異なる。だが、それらはすべて、北九州市が人口減少を前提として都市の密度と生産性を高めようとしている点では、つながっているといえよう。都心では高度利用と回遊性を高め、交通結節点では暮らしの基盤を再設計し、産業面では物流で外需を取り込む。その全体像は、縮小時代の都市経営そのものである。
もちろん課題は小さくないが、それでも北九州市の方向性は明確である。人口が減るから再開発をやめるのではない。人口が減るからこそ、どこを残し、どこを強くし、何で稼ぐのかを厳しく選び抜くのである。全国の地方都市が同様の問いに直面するなか、北九州市の挑戦は先行事例として注目を集める。縮小時代の都市政策とは、縮むことを悲観する政策ではない。縮みながらなお、都市の質を磨き、稼ぐ力を更新する政策である。北九州市が目指すべきは、再び「大きい都市」になることではなく、選ばれる拠点都市として、都市の骨格そのものを強くしていくことであるといえよう。
かつて「百万都市」と謳われ、福岡市より先んじて政令市となった北九州市だが、市の推計人口は、25年9月1日現在の90万494人を最後に、公表が停止されている。その後は推計人口異動状況のみの更新が続いているが、人口増減の推移を見る限りは、北九州市の人口は、すでに90万人を割り込んでいると見て間違いなさそうだ。
歯止めのかからぬ人口減が続く北九州市においては今後、限られた人口と財政、そして民間資金を、どこへ集め、どの機能を残し、何によって外部需要を取り込むのか、その戦略性が問われてくることになる。その北九州市では、早くからコンパクトシティを都市政策の基調に据えてきた。24年改定の立地適正化計画でも、居住誘導区域と都市機能誘導区域を定め、人口減少と高齢化の下でも都市サービスを維持するため、公共交通と生活機能を拠点へ集約する方向性を改めて鮮明にしている。北九州市における再開発は、もはや拡大型都市経営の象徴ではなく、縮小社会において都市の骨格を組み替える手段であるのだ。
人口減でも駅チカは根強い人気
市内マンション開発動向
人口減少下にある北九州市ではあるが、それでも約90万人の人口を抱える九州第2位の都市であることに変わりはない。人口規模に見合うだけの相応の居住ニーズはあり、市内7区それぞれの開発動向に濃淡はあるが、鉄道やモノレール沿線などの利便性が高い場所を中心に分譲マンションの開発が相次いでいる。
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JR小倉駅から徒歩4分の小倉北区京町3丁目では、東宝住宅(株)による「THE HOUSE 小倉駅」の開発が進んでいる。RC造・地上19階建で、総戸数は67戸。設計・監理は山下雄弘建築設計事務所が、施工は福屋建設(株)がそれぞれ担当し、27年9月の竣工を予定しているが、竣工を待たず、すでに全戸完売している。
JR西小倉駅から徒歩2分の小倉北区室町2丁目では、第一交通産業(株)による「グランドパレス小倉城下 ザ・マークス」の開発が進んでいる。RC造・地上18階建で、総戸数は77戸。設計・監理は(株)久保建築設計が、施工は(株)赤尾組がそれぞれ担当し、28年2月の竣工を予定している。同物件も今年2月から販売開始されたばかりだが、すでに全戸完売となった。
JR南小倉駅から徒歩1分の小倉北区木町3丁目では、(株)九州三共による「リヴィエール南小倉駅前パークシティ」の開発が進んでいる。RC造・地上14階建で、総戸数は48戸。設計・監理は(株)彩創建築設計が、施工は福屋建設がそれぞれ担当し、27年7月の竣工を予定している。
北九州モノレール・守恒駅から徒歩5分の小倉南区守恒2丁目では、大英産業(株)よる「ザ・サンパーク守恒」の開発が進んでいる。RC造・地上16階建で、総戸数は53戸。設計・監理は(株)ATOM建築設計室が、施工は福屋建設がそれぞれ担当し、27年7月の竣工を予定している。
JR朽網駅から徒歩5分の小倉南区朽網東2丁目では、(株)タイヘイによる「サンライフ朽網ファーストクラス」の開発が進んでいる。RC造・地上12階建で、総戸数は42戸。設計・監理は久保建築設計が、施工は(株)大島組 北九州支店がそれぞれ担当し、27年7月の竣工を予定している。
JR黒崎駅から徒歩4分の八幡西区黒崎3丁目では、(株)なかやしきによる「アーティックス黒崎駅ヘリテイジ」の開発が進んでいる。RC造・地上19階建で、総戸数は105戸。設計・監理は(株)スズキ設計が、施工は福屋建設がそれぞれ担当。27年10月の竣工を予定している。
同じく八幡西区黒崎3丁目の浜田病院などの跡地では、第一交通産業による「(仮称)グランドパレス黒崎4 新築工事」の開発が計画されている。RC造・地上19階建で、総戸数は126戸。今年8月の着工予定で、竣工は29年2月を予定している。
JRスペースワールド駅から徒歩13分の八幡東区中央2丁目では、九州三共による「リヴィエール八幡中央ガーデンテラス」の開発が進んでいる。RC造・地上12階建で、総戸数は44戸。設計・監理は彩創建築設計が、施工は福屋建設がそれぞれ担当し、27年9月の竣工を予定している。
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北九州市内でも、駅チカの利便性の高い都心部の物件では、竣工前に全戸完売するケースも珍しくないようだ。とくに小倉都心部では販売価格1億円を超える“億ション”もあるといい、そうした物件でも売れ行きは悪くないという。しかし一方で、駅などから少し離れた場所の物件では、竣工からしばらく経過していても、いまだ売れ残っているケースも散見される。北九州市内においても、やはり分譲マンションの売れ行きを左右するのは、立地条件が大きなウェイトを占めているようだ。
(了)
【坂田憲治】

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