わらび座ミュージカル「ジパング青春記」特設ページ
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
2016年05月23日 07:01

20年前に「パナマ文書」の世界を予見!(4)

立教大学 経済学部 教授 櫻井 公人 氏

リアリストが「国益」という場合は、中味を問いません

 ――少し話を転じます。「パナマ文書」問題もそうですが、最近起こる一連の問題(「集団的自衛権」(安全保障)、「TPP」など)は、多くの国民が考える利益(「幸福」とか、輝かしい「未来」)とは、遊離している場合も少なくないように思えます。先生は「国益」について、どのようにお考えですか。

 櫻井 ストレンジも言及していますが、「国益とは何か」というのは難しい問題です。
 今日、私たちの生活がますます国民政府の手を離れつつあるのは事実です。そのため、政府の考える「国益」概念と国民の多くが考える「国益」概念には、違いが出てくるのは当然かもしれません。

 まず、「国益」と言う言葉は、ある立場の人たち、リアリスト(現実主義者)、が好んで使う言葉であることを理解する必要があります。リアリストは「国家の退場」とまったく正反対の考え方をします。すなわち、国家はいつでも完璧であるという立場です。
 そして、その場合の「国益」については中味を問いません。国益の最大目標は軍事上の「安全保障」であると決まっているからです。それ以外の、国民個々の「幸福」や輝かしい「未来」などは、2番目、3番目で、それも、ものすごく小さな位置づけになっています。
 一方、リアリスト以外の人たち、たとえばリベラリスト、自由主義者、マルキストなどは別のかたちで中味を問うことがあります。すなわち、それは「庶民の利益ですか」「労働者の利益ですか」「金融資本家の利益ですか」など、と考えます。

人びとの生活に根ざした脅威のほうに重点を置くべきでは

kokki 最近の議論では、軍事に偏りすぎる「安全保障」は定義し直される傾向にあります。仮に外国から攻撃を受けていなくても、国民が貧困であるとか高等教育を受けることができないという状況で、「安全保障」ができているとは言えないという議論です。

 この「人間の安全保障」という概念は、インドの経済学者、アマルティア・セン(ノーベル経済学賞受賞)によって提唱されました。従来、安全保障という概念は、国家間の紛争から国民と領土を守る意味合いで使われていました。そこでは、国家による軍事力の増強と国家間の武力均衡が求められており、各国は多くの予算を軍事費に割り当てていました。
 しかし、冷戦後の社会においては、国家間の政治対立に基づいた武力に対する脅威よりも、貧困や健康、環境問題といった、人びとの生活に根ざした脅威のほうに重点を置くべきであることを指摘しています。そして、冷戦終結にともない削減傾向にあった軍事予算を、貧困の撲滅やあらゆる差別・格差を是正するための支援に振り向けるために、「人間の安全保障」という概念を提起したのです。

多くは、実は政治的、人為的に決定されているのです

 ――時間がなくなってきました。本日は、「パナマ文書」問題を始め、さまざまな「国家の退場」についてお聞きしてきました。ストレンジが『国家の退場』で予見したことが、20年の時を経て、今現実になりつつあります。そのなかでも、ストレンジは読者に何を一番伝えたかったのでしょうか。

 櫻井 ストレンジの独自性は「経済問題解決に対する政治的な決定」という発想です。それは、「我々が今無意識に、経済学的に、市場論理的になどと、思い込んでいるものの多くが、実は政治的に決定されている」ということだと思います。
 具体的に言いますと、為替の問題や金融の問題は人為が絡みにくいので、あたかもマーケット(市場)が決めていると我々は思い込まされています。しかし、これこそ、政治的に、人為的に決定された事柄、あるいは構造的パワーの影響を受けている最たるものだ、ということです。

 グローバル経済においては、国民国家の権威は明らかに衰退し、他方で非国家的な権威が拡大しています。ストレンジは、この政治的に圧力をかける非国家的な権威として、超国家企業(多国籍企業)、金融取引業者、巨大監査法人、保険ビジネス、国際カルテル、テレコム連合体、国際官僚からマフィアなどの裏のグローバル化の実態も描き出しました。
 具体的に言えば、私たちは、外交は国が専権的に扱うべきものと思っています。しかし、現在では、国と国との外交の他都市間の外交や、国と多国籍企業の外交、多国籍企業と多国籍企業の外交は、当たり前の現実になっています。

倫理的にはともかく「違法としないことにしよう」と

 ストレンジは、今までお話してきたことを、淡々と国際政治経済学者として語っていただけのように思われがちですが、私は、彼女にはもう少し熱いもの(ジャーナリスト魂みたいなもの)があったように感じています。ものすごく簡単に言えば、「タックスヘイブン」とは、道徳・倫理的にはやってはいけないことはわかっているが、「違法としないことにしよう」と、各国首脳が決めたにことに過ぎません。そこを鋭く批判しています。
 さらに、ストレンジは別の書物では、金融規制を専門家にやらせることを、「密猟者たちに見張りをさせる」「狐に鶏小屋の見張りをさせる」ことと同じであるという厳しい表現を使っています。

 これから「伊勢志摩サミットG7」が始まります。来日する各国首脳とは官僚、議員、政治家などのことです。また彼らには、多くの企業家が同行してきます。ストレンジは冷戦終結以降、「タックスヘイブン」の例を出すまでもなく、そのような場での議論が、ごく少数の彼らおよび近親者や関係者だけに、利益誘導がスムーズに起こるように進められていくことを危惧していたのかもしれません。

 ――本日はありがとうございました。

(了)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
sakurai_pr櫻井 公人(さくらい・きみひと)
立教大学経済研究所長、立教大学経済学部経済政策学科教授
静岡県生まれ。81年京都大学経済学部卒業、87年同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。阪南大学教授を経て現職。主な論文・著書に「P.クルグマンの戦略的貿易政策批判」(『阪南論集 社会科学編』第30巻第3号)、『グローバル化の政治経済学』(共編著、晃洋書房)、『現代世界経済を捉えるver.5』(共編著、東洋経済新報社)、『現代国際金融 第3版』(共編著、法律文化社)、訳書として、『マッドマネー』(共訳書、岩波書店)、『国家の退場』(共訳著、岩波書店)、『新版グローバリゼ―ション』(共訳著、岩波書店)などがある。

 
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

     

トップニュース

2020年01月19日 07:30

博多の食文化を次代に伝える役割を担い魚の熟成で新たな調理法の確立に挑む

 福岡の食文化に多大な貢献をはたしてきた「日本料理 てら岡」の会長・寺岡直彦氏が博多で創業したのは1976年9月、43年前のことである。わずか27坪で始めた店は、玄界...

2020年01月19日 07:00

顧客の要望に応え続けて事業領域を拡大 自律型社員を育成し、さらなる成長を目指す

 ソリューションは2000年2月、社名のごとく「お客さまの課題や問題の解決をすること」を事業目的に掲げ創業、来年で20周年を迎える。当初は、ビジネスフォンや複合機、電...

2020年01月19日 07:00

地域活性化を支える企画力と実行力

 志水建設は、北九州市を中心に、福岡県全域と山口県を営業エリアとして活動を展開している総合建設業者だ。拠点を北九州市の中心区である小倉北区と、福岡市屈指の商業地域であ...

2020年01月18日 07:00

理念と価値観を共感する仲間とともに 「街と人が輝く社会」を目指す

 一般電気工事から交通信号機設置工事、空調設備工事、電気通信工事まで幅広い事業を手がける第一電建(株)は2020年に50期目を迎える。同社は1971年6月に住宅、ビル...

2020年01月18日 07:00

地場で一番きれいな工事現場で地域活性化に貢献する

 スエナガは、2015年1月に設立された総合建設会社である。同社の代表取締役・出口洋一氏は、34年間、地場建設業の(株)末永工務店に勤務。一貫して技術畑を歩み、常務取...

2020年01月18日 07:00

TRGほか新サービスで解決目指す プレイヤーだからわかる業界の不便

 トリビュートは創業以来、「不動産再生」に主眼を置いてきた。不動産再生とは、「空室が目立つ」「用途が立地に合っていない」「土地が狭小、不整形地」などの課題を解決するこ...

2020年01月17日 15:00

厚生労働省公表の「ブラック企業」1月16日発表 福岡労働局分

 厚生労働省は17年5月から、労働基準関係法令に違反し書類送検された企業の一覧表をホームページに掲載している。

2020年01月17日 12:59

デラックス得丼お試し価格19日まで Hotto Motto(ほっともっと)

 プレナス(本社:福岡市博多区、塩井辰男社長)は10日、同社が展開する持ち帰り弁当店「Hotto Motto(ほっともっと)」の全店舗で「デラックス得丼」を発売した。

2020年01月17日 12:59

原点回帰で収益改善を急ぐほっともっと 20年2月期第3四半期

 持ち帰り弁当店「Hotto Motto(ほっともっと)」を展開する(株)プレナス(本社:福岡市博多区、塩井辰男社長)が14日に発表した20年2月期第3四半期の決算短...

2020年01月17日 12:35

OCHIホールディングス(株)創業の礎を守り進化させる胆力

 2010年10月1日に越智産業(株)の単独株式移転により、持株会社として設立されたOCHIホールディングス(株)。直近の2019年3月期で1,000億円の売上高を突...

pagetop