2024年04月25日( 木 )

「期待を超える感動を」小口工事の積み重ねで生き残る地方企業(中)

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島根電工(株)

 公共事業から一般家庭の小口工事へ。島根No.1の島根電工(株)は、小泉政権下の公共工事削減の方針に素早く対応し、業態変更に取り組んだ。一般家庭の電気工事など、小口でもニーズに応える「住まいのおたすけ隊」を手がけてバブル期の2倍の売上を上げるまでになった。どのような発想で有為転変の時代に立ち向かうのか、荒木恭司代表取締役社長に話を聞いた。

(聞き手:データ・マックス顧問 浜崎裕司)

大激動の時代問われる経営者の資質

 ――大手も含めて、さまざまな企業が新しいことにチャレンジしなければいけない時代です。

島根電工(株) 荒木 恭司 代表取締役社長

 荒木 日本の仕事の仕組みがガタガタに崩れて、新しくなっていくところでしょうね。「自分さえよければいい」という、欧米流の考え方がまだ残っているから。しかもそういう経営者はたいていは雇われ社長ですからね。自分の任期の時だけ何とかしようという考え方になります。昔ながらの、松下幸之助さんのような考え方ができる人がどんどん減っていますね。これからもまだまだ世の中は変わっていきます。それを今から予測しようとしても、それは難しいでしょう。資材の製造・販売・工事と流れる建設業の流れも、変わっていくかもしれませんね。前からあった商売のルールは崩れていくでしょう。

 ――なにしろ上流にいたはずのメーカーが、下流まで降りてくるわけですから。

 荒木 経営者は、それに対応して必死に生き残らなければいけません。東芝が今回増資する、といったら大騒ぎになっています。増資すれば企業の価値が下がって、「モノをいう株主」が現れます。お金にものをいわせようとする人たちがいるから、企業もできることの選択肢が狭まるんですね。東芝がおかしくなったのは、「モノをいう株主」がいるから。それに対応しようとしてダメになったんですね。自分が社長のときには売上を落としたくない、だから売れてもないものを売れたといったりする。これは「モノを言いすぎる株主」のせいですね。株主は会社を育てて大きくする気持ちであってほしいですね。株の配当をもらえばいい、という考え方はおかしいでしょう。

誰にも予測できない変貌を続ける時代へ

 ――今後、どのようなビジネスに取り組んでいきたいと考えておられますか。

 荒木 この世の中、何が起きるかわからないですからね。だからこそお客さまを感動させる商売をやり続けなければいけない。これまでやってきたこととまったく関係ない事業はできませんから、「住まいの快適環境を提供する」というこれまでの事業に関連すること。そして、電気工事や水道工事などで、お客さまがわくわくする気持ちで過ごせることをやっていきます。そこで成功する確率が何%か、と考えると、すでに誰かがやっていることでしかない。40%から50%の確率のことに挑戦して、うまくいかなければ撤退してもいい。「おたすけ隊」も、そういう考え方でスタートしましたから。

 ――住環境は、どう変わっていくでしょうか。

 荒木 自分たちでは想像できないような変化が起きていくでしょう。想像できる範囲でも、大きな変化が考えられます。たとえば、いずれは配線工事というものはなくなっていくと思います。あらゆる場面でコードレス化が進んでいく。家庭の照明も、スマートフォンで操作できますね。このように、無線通信を使うことが増えてくると思います。そういう世の中に備えて、社員が無線を使った仕事をできるようにしておきたい。

 家電メーカーも、すでに「湯沸かしポットが稼働しているかどうかで、遠くに住んでいる年老いた両親が元気にしているかどうかわかる」というサービスを始めています。さらに、電気の使用量で「家庭内のどの部屋で主に生活しているか」ということもわかるようになっています。このような新しい仕組みのなかで利用されるようになる周辺機器をつくるメーカーと手を組んで、新しい事業を行うこともできるでしょう。

 時代はどんどん変わっていくでしょうね。たとえば、弊社の本社建物の照明はすべてLEDです。数年前までは、「LEDなんてクリスマスの電飾にしかならないだろう」と言われていましたが、あっという間にすべての灯火を代替できるようになりました。蛍光灯はだんだんつくられなくなるし、白熱電球は完全に姿を消すでしょう。新しい科学技術がどんどん発展していくわけですから、それを利用しながら快適な環境を提供していく。それが我々の仕事だと思います。

 ――企業側としても、さまざまな新しい仕事を見つけられるということですね。そしてそれをお客さまに提供し、新しい提案をしていくことができる。

 荒木 繰り返して言いますが、私は数年後どうなるかということはわからないんです。取材を受けると「御社のヴィジョンを教えてください」とよく言われますが、「わかりません」と返事をする(笑)。それが事実ですよ。製造業が建設業と一緒になっていく未来もあるでしょう。たとえば「三井住友VISAカード」というCMをよく見かけますが、そもそも「三井」と「住友」と「VISA」が一緒になっているなんて、ほんの20年前では想像もできないことですよね。生き残るためには、中国にでも台湾にでも会社を売却する。そういう時代ですよ。

地方企業は地元で頑張る

 ――先が見えない時代ですが、島根電工はこれからどういうかたちで生き残りを考えていくのでしょうか。

 荒木 島根のような地方の企業は、地元から逃げるわけにはいかないですから。地元にいる会社が元気になるためにはどうすればいいかというと、我々がいい会社にならなければいけない。そうしないと若い人は入ってきませんね。

 企業側は手近にある「腐った肉」に飛びつかずに、きちんと利益が取れる仕事をしていかなければいけない。お客さまに原価まで切ってサービスを提供することが、価格破壊で正義だという考え方では、存続できないですよね。適切な価格で受注をすること。受注したら社員にきちんと給与、賞与を払うこと。そして社員がそのお金をつかって世の中で無駄遣いをしてくれれば、景気が潤っていきます。元気な会社づくりをすることが一番ですね。

(つづく)
【文・構成:深水 央】

<COMPANY INFORMATION>
代 表:荒木 恭司
所在地:島根県松江市東本町5-63
設 立:1956年4月
資本金:2億6,000万円
売上高:(17/6)165億円(島根電工グループ)

<プロフィール>
荒木 恭司 氏
島根電工(株) 代表取締役社長
1949年島根県生まれ。72年島根電工(株)入社。 米子営業所営業課長、出雲営業所所長を経て96年常務取締役。専務取締役、副社長を経て、2012年代表取締役社長に就任。 公共事業受注主体から「おたすけ隊」による小口工事の受注拡大に成功。右肩上がり成長を続け、バブル期よりも売上、利益を1.8倍に伸ばす。 また、業界活性化を目的とし全国フランチャイズ展開を開始、 同業者35社以上の経営支援を行う。島根電工(株)を中心として、いずれも同社100%出資のシンセイ技研(株)、岡田電工(株)、協和通信工業(株)から構成される島根電工グループのトップも務める。16年6月には『「不思議な会社」に不思議なんてない』(あさ出版)を出版。

 
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