2024年05月03日( 金 )

【再録】積水ハウスの興亡史(3)

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 「地面師詐欺」の余波を受け、会長と社長が解任動議を突きつけ合う泥沼の抗争劇を繰り広げる積水ハウス。かつてNet-IB NEWSでは、野口孫子氏の手になる同社の興亡を描いた連載記事を掲載した。積水ハウスへの注目が改めて集まっている今、2007年に掲載された記事を再録する(文中の人物、企業の業績などについてはすべて連載当時のもの)。

 営業体制、施工体制も整えた。しかし、骨組みの鉄骨は、当初、デイッピング塗装を施してはいたものの、錆びの原因となるピンホール現象が起こる弱点があった。住宅は50年、60年持たさねばという課題があった。そこで、当時、本田技研のモータバイクの塗装に導入されていた、電着塗装方式が取りいれられた。鉄骨の電着塗装を採用したのは業界で初めてであった。

 こうして、部材の品質向上も着実に成果を上げていき、営業、施工、工場がうまくかみ合い始め、売り上げも順調に伸びていった。時は1965年(1965)11月~1969年(1969)7月まで57カ月間続いた「いざなぎ景気」の最中だった。3Cといわれたように、カー、クーラー、カラーテレビの普及が進み、消費の大型化、高級化が進み、日本の経済力の発展は著しく、国民生活全体が底上げされていった時期だ。

 1968年(1968)、日本は西ドイツを抜き、世界第二位の経済大国になったのだ。正に、昭和元禄であった。営業は土、日、祭日もなく、事務所の灯りは深夜まで消えることないのが積水ハウスと評判になったもので、猛烈社員のお手本みたいなものだった。

 これまで、賞与は6月、12月の年2回の固定であった。それを、上期、下期の決算の業績に応じて、9月、3月に追加賞与を出す制度が確立された。これ以来、年、4回の賞与支給が慣例化したのである。

 この考えは、田鍋がいつも言っていた、我が社には労使はない、労、労だということを実践したのである。皆で働き、頑張ったのだから、会社に利益が出れば、分け合い、社員にも還元する制度を作ったのである。社員の士気が上がるのは当然のこと。社員は率先し、使命感に燃え、頑張ったのである。

 1970年8月(1970)、ついに、東京、大阪の第二部に上場をはたす。創立10周年を迎え、売上高180億円、利益7億7千万円に達していた。初値は900円だった。田鍋が積水化学を追われるさまに来て以来、赤字の積水ハウスがここまできたか!苦労が報われた一瞬だった。着任7年目だった。大半の社員も株を保有していたから、社員は大いに喜び士気も一段と高まった。
 翌年、1970年(1971)には東京、大阪第一部に昇格するのである。

 田鍋は次のようなことは常に、幹部の集まりで語っていた。「この積水ハウスという会社の船に乗った以上、皆、仲間である。たまたま、役割として、社長、役員、部長、所長となっているのに、長なりの役職に就いたら、何か自分が偉くなったかのごとく、勘違いする輩がいる。絶対、威張るなよ!幹部が部下に求めなくてはならないのは、服従ではなく仕事の遂行である。皆が働いてくれるから自分がある。ありがたい、という感謝の気持ちがなくてはならない。人間だから、好き嫌いはある。その感情をそのまま出してはならない。上司に対し甘言を弄する者が多いが、そんな人間にはむしろ、警戒すべきだ。苦言を呈し、問題を提起する人間を重用しなければならない」

 田鍋の「運命共同体」「この会社には労使はない、労労だ」だと言っていたのは、幹部が横暴にならぬことを実践するよう要求し続けていたのだ。

 一流会社の社長なら秘書同行が当たり前なのだが、田鍋は出張の時も秘書を連れず、生涯、1人で出かけていた。出張に行き、現地の幹部が気を利かせ、スイートの部屋を予約しておいたら、こんな部屋は要らん!と叱りながら、支払いは自分で払い、次の朝「これから、こんな高いのをとるなよ」と、そっとその幹部に注意をしたことをある幹部が述懐していた。

 各地区の協力工事店との懇親ゴルフでも、気を利かせ、幹部がプレー費を支払っておけば、叱られる。必ず自分のお金で支払う人だった。

 日露戦争の第3軍司令官の乃木将軍の弁当は梅干1つの簡素なものだった。このことが日の丸弁当として、全国に広まった。また汽車はいつも三など車だった。

 国鉄の民営化に辣腕を振るった、東芝の土光氏も、めざしの土光、とも呼ばれ、質素な生活を送っていたのは有名で、会社への通勤は電車であった。東芝に再建に乗り込んだ時の挨拶は「社員諸君はこれから3倍働いてもらう。役員は10倍働け、俺はそれ以上に働く」と次年には黒字にしてしまうのである。

 共通しているのは、仕事の業績が大きいにもかかわらず、謹厳実直な人柄、行動力、偉ぶらない態度、質素な生活態度であろう。このことが今でも、万人が敬意と賞賛を惜しまない理由だ。

 現在の積水ハウスの社長を始めとした幹部たちは、田鍋の築いた、すばらしい、この伝統を 忘れたのだろうか?現代の何でも権力、金、という風潮に染まってはいないですか!

(文中敬称略)
【野口 孫子】

 
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