2024年05月05日( 日 )

佐川氏証人喚問でわかった、国会議員の法的無知(前)

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青沼隆郎の法律講座 第2回

政治責任と刑事責任の混同

 国会の証人喚問手続は誰かの刑事責任を追及する場ではない。仮に公文書改ざんの刑事責任を佐川宣寿前国税庁長官が一手に引き受けたところで、公務員による公文書改ざんの刑事責任が解決するに過ぎず、当該公務員を指揮監督した上位者である政治家の政治責任はまったく問われないことになる。

 自民党の丸川珠代議員は、証人喚問における質問の終わりに、「本件公文書改ざんに総理大臣・財務大臣らの関与がなかったことが立証された」として成果を誇ったが、まったく的外れである。

 安倍晋三首相や麻生太郎財務大臣が刑事責任(教唆や共同正犯)を問われないことと、管理監督責任の有無とは無関係なのである。この責任の峻別がされないということも法的無知・論理的無知の結果である。

 ちなみに、公文書改ざんという犯罪行為が客観的にみて間違いない本件では、検察の捜査は佐川氏の証人喚問とは無関係に進められる。佐川氏がしかるべき時期に検察から事情聴取をうけることは不可避であり、野党議員は検察が国家権力の行使(具体的には法務大臣の指揮監督下にある刑事司法権の行使)として、業務を遂行した以上、国政調査権に基づく、国会議員の権利義務に基づいた質問権を行使できる。

 従来までの政府答弁では「個別の事例については説明できない」との常套句で野党は撃退されてきたが、この世に存在するのはすべて「個別の事例」であって、それ以外のものは存在しない。このような馬鹿げた論理と答弁がまかり通るのも、野党の論理的無知無能の証左である。

 野党議員は公文書改ざんという犯罪の捜査は司法官憲に任せ、与党の政治責任を明確に指摘し、追及しなければならない。もし、誰も公文書改ざんの犯罪責任を問われなければ、日本は無法国家であることになり、野党議員の存在理由はまったくないということになる。

森友事件とは何か、そして加計学園問題も~刑事犯罪と政治犯罪の複合体

 政治犯罪を刑事犯罪と同様に厳格な証拠に基づいて立証するのは基本的に不可能である。 政治家も官僚も、基本的に客観的な犯罪や、違法行為の証拠を残さないのが特徴であり、それが政治犯罪の政治犯罪たるゆえんである。

 森友事件は官僚による国家に対する背任罪と、それを誘導指揮した政治家の政治犯罪が融合し、一体化したものである。官僚は背任罪を実行しても直接の利益はない。あるのは自己の官僚としての栄達と、それにともなう将来の経済的利得(天下り利権)への期待である。

 動機のない犯罪は存在しない。本件の公文書改ざん犯罪は、これら公務員の犯罪と政治家の政治犯罪を隠蔽する動機目的で実行された。 

 1つの嘘を隠すため次から次に嘘がつかれるように、1つの犯罪を隠蔽するために次から次に犯罪が行われたに過ぎない。

(つづく)
【青沼 隆郎】

<プロフィール>
青沼 隆郎 (あおぬま・たかお)
福岡県大牟田市出身。東京大学法学士。長年、医療機関で法務責任者を務め、数多くの医療訴訟を経験。医療関連の法務業務を受託する小六研究所の代表を務める。

 
(後)

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