2024年03月29日( 金 )

シシリー島便り・日本人ガイド、神島えり奈氏の現地レポート~シシリーの果物(後)

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 シシリーでドライフルーツの王様といえば、やはりア-モンドだろう。この島には100種類近くのアーモンドがあるともいわれている。寒い冬の季節、だいたい2月頃(年によって差はあるが)、アーモンドの木に日本の桜によく似た美しい花が咲き始める。アーモンドの生産地で有名なのはアグリジェント県、またアヴォラ、ノートなどの街である。
 ギリシャ神殿跡のアグリジェントの遺跡の中に一面広がるア-モンド畑は敷地内に30種類もの木が植えられているので、開花時期や花の色がそれぞれ異なる。アーモンドの実には、ビタミンE、食物繊維が豊富に含まれ、心臓病、糖尿病、がん予防に効果があると言われている。
 生やローストした実をそのまま食べてもおいしい。空気にふれて酸化してくるので、保存には瓶や缶など密封できる容器がおすすめだ。昔は、アーモンドの殻を粉々にして粉末状になったそれを洗濯の際に染み抜きに使っていたそうだ。とても効果があったらしい。

 シシリー土産にアーモンドは外せない。ビスケットや、はちみつでからめたクッキ-などのお菓子、アーモンドミルク、アーモンド石鹸、アーモンドぺースト、と幅広い商品が売られている。タオルミーナのさらに丘のうえに位置するカステルモーラという美しい小さな村百選に登録されている村は、シシリー初のアーモンドワインが生まれた場所である。
 甘いリキュ-ルなので、甘いシシリーのデザート、カンノーロ、カッサータなどに合う。またアーモンドを使ったお菓子でマルトラーナというお菓子がある。このお菓子にまつわる物語がパレルモにあるサンタマリアデッリアミライオ教会にある。この教会は1143年、トルコ出身のゲオルギウスが建てた聖母マリアにささげた教会で、教会のすぐ脇には、修道院があったとされているが、その建物の姿を今はもう見ることができない。
 その修道院長の名前が、エロイ・ザマルトラーナという高貴な女性であった。そこから教会も別名マルトラーナ教会と呼ばれるようになったのだ。1500年代夏、司教がこの教会を訪問することになるが、教会の庭には何もなく、これでは恥だと修道女たちが、せっせとア-モンドの練り粉をつかい、庭の木に飾ってお迎えしたという。そこからお菓子はマルトラーナという名前が付けられるようになったのだ。

 シシリーでは毎年11月2日、日本のお盆に似た、先祖を忍ぶ日がある。その時期には店頭にマルトラーナがたくさん並ぶ。ひと昔前まで、シシリーでは、11月2日はクリスマスよりも豪華なプレゼントが子どもたちに与えられていた。このプレゼントは亡くなった先祖代々からの贈り物とのことで、子どもたちにとって1年のなかで最も持ち遠しい日だったという。
 また、勉強しない子や、いたずらっ子たちは、夜寝ている際に先祖たちがチーズすり器で足を削られてしまうという言い伝えがあり、怯えてその前の晩、ベッドに入る前にチーズすり器を隠す子どもたちも多かったとか。アーモンドはシシリーの食習慣、歴史から切り離せないものなのだ。

 最後はチェドロと呼ばれるシトラスを紹介しよう。チェドロはレモンより大きな20cmほどの楕円形の果物だ。70%以上が皮で、実となる部分は小さく25%ほどだ。現地の人は皮の部分を切って塩をつけて食べる。コレステロールを抑える効果があるという。また血圧を安定させ、胃腸を整える作用もあるそうだ。皮の部分を砂糖付けにしたものや、ジャム、あるいはサラダとして、オリーブオイル、リンゴ酢などをかけて食べる。
 最近では海外から輸入される南国フルーツ、たとえばキウイ、パパイヤ、マンゴーなど“新しい”フル-ツに押され、昔ながらの伝統的な果物が、市場やスーパーから姿を消しつつある状況である。伝統を根強く守るこの島でも時代とともに食習慣、食生活の変化が少しずつ見られ、外国人の私から見ても何となく心寂しくなる。

(了)

<プロフィール>
神島 えり奈(かみしま・えりな)
2000年上智大学外国語学部ポルトガル語学科を卒業後、東京の旅行会社に就職。約2年半勤めたのち同社を退職、単身イタリアへ。2003年7月、シシリー島パレルモの旅行会社に就職、現在に至る。

 
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