2024年04月25日( 木 )

西日本フィナンシャルホールディングス、久保田勇夫会長新春経済講演会(14)

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欧州は「異常な金融政策」縮小ヘ

 ユーロ圏のほうですが、ユーロはQEという異常な金融政策をまだ続けております。続けていますが、しかし2016年12月に縮小して延長し、17年10月にまた延長しましたが、これも縮小延長です。ECBの今のコミットメントは今年9月まではやると。9月が終わってからどうするかが問題で、今のところECBの理事の間でも議論があっているようであります。あと金利のほうはマイナス金利です。これはマイナス金利といっても、欧州中央銀行に預けている銀行の預金にマイナス金利が付くということでありまして、一般の人の預金にマイナス金利が付くわけではありません。ただしよく見ますと、大企業の一部には銀行からマイナス金利を付けられているところがあるようであります。いずれにしても、欧州中央銀行の場合は少なくともQE、異常な金融政策を止める方向に入っていますし、現在の景気はかなり強いですから、この9月末で止めることになる可能性が高いのではないかという気がしますが、これはよくわかりません。

 そして、ユーロの欧州中央銀行も総裁交代があります。なぜ、この交代を取り上げるかと申しますと、現在のドラギ総裁はイタリアの人で、次期総裁の有力候補はドイツの人であります。ドイツは基本的に早く金利を上げたい。従ってマイナス金利を止めたいのです。これは政治的な話ですが、ドイツの人としては、総裁を取るためには、あの人はいい人だと皆から思われなければいけないと。ところが、今のフランスやイタリアの人はどちらかというと金融はまだ緩いほうが良いのではないかという感じを持っているわけです。そういう意味で、金融を引き締めるべきだと主張しているドイツですが、そのドイツの人が総裁になるためには、フランス、イタリアの支持を得るためにドイツがあまり強い主張はしないほうが良いのではないか。従ってQEの終了は9月末ではないのではないかという回りまわった認識ですね。だから欧州の金融政策は総裁交代にも関連があるということであります。

目立ち始めた日本の超緩和政策の弊害

 次は日本についてであります。日本はご承知のように、2013年4月に量的・質的金融緩和を導入し、16年2月にマイナス金利付き量的・質的金融緩和、さらに16年9月に長短金利操作付き量的・質的金融緩和を導入いたしました。はっきり言われておりませんが、この金利という面に着目しますと、16年9月の長短金利操作付き量的・質的金融緩和では、これで金利が少し上昇し、イールドカーブが少し立ったのです。ちょっと細かい話ですが、少し金利水準が上がりノーマル化したわけです。日本銀行は長短金利操作付き量的・質的金融緩和を導入した1、2カ月後の総裁の記者会見で「良い方向に変わった」と述べています。良い方向というからには、金利が上がったのは良かったということですね。そういう意味で、金利の状況についての認識が少し変わりつつあったのかなという気がするわけであります。

 ただ、問題はこのイールドカーブ・コントロールという話です。昨年はこの場でこれを「神を恐れぬ思想だ」と申し上げました。マーケットが決めるべきイールドカーブを自分でコントロールするという大変な思想を連ねていますし、16年9月のもう1つの行動規範であるオーバーシュート型コミットメントに至っては、消費者物価指数2%達成が目標だけれども、2%に達成してもなおかつそれが定着したと認められるまでこれを続けると言っているのです。これはなかなか物価上昇が思うように行かない現状では大変な話であります。おそらくこのオーバーシュート型コミットメントは実行するには至らないのではないかと思っています。見方としてそういう感じがするわけです。

 それからレジュメには、「目立ち始めた弊害」と書いてきました。これも事実であります。まず、金融機関の収益が下がります。これは当たり前でして、経済学の教科書には銀行がなぜ成り立つかというと、期間の短い低い金利で借りて、期間が長く高い金利で貸して、その差額で銀行経営が成り立つのだと書いています。そしてそれがなぜ正当かというと、銀行はこれによって流動性リスクと金利変動のリスクを取っているからだと説明されています。今の政策はそういう意味では、銀行の収益を減らす政策であり、このことは明らかであります。銀行の人間だからそういうことをいうのだろうと思われるかもしれませんが、これは経済学の教科書に従えば当たり前の話であります。そういうことで、金融機関、とくに銀行の収益には悪影響がある。

 それからもう1つは、銀行以上に、おそらくこれは推測ですけれども、長期の金融資産をつくる金融機関にとってはマイナスになるはずです。これを避けようとすれば、金融資産の保有者にマイナスが行きます。そういう意味では、保険会社その他には打撃が大きい。3つ目に欧州のドイツ、フランス、オランダで議論しているのは、これは年金制度にマイナスだということです。これも当たり前の話でして、長期の年金の計算をするときには金融資産に一定の利回りがあることを前提としています。この利回りを低くしようとしているわけですから、長く続けると、年金の設計を壊すことになる。社会保障制度の根幹を揺るがすことになるといえるのです。今日配っているかと思いますが、そういう認識を私は1年以上前からずっと申し上げてきました。ようやくこの理解が世間でも進みつつあるように思います。

 それで、「リバース・レート」ということを黒田総裁がおっしゃったという話をしていますが、リバース・レートというのは金利も下げ過ぎると経済の活性化に悪影響があるということです。なんてことはない、今の低金利政策にも弊害があるということを言っているのではないかと思います。その立場からして決してそうだとはいえないでしょうけれども、そういう意味がその言葉の中にあるのではないでしょうか。

(つづく)

 
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