2024年05月01日( 水 )

完全復旧まで5年の道のり~住民に寄り添い、朝倉を取り戻す(前)

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朝倉市長 林 裕二氏

 2017年7月5日から7日にかけて、福岡県から大分県にまたがる九州北部一帯で、400~800mmの記録的な降雨が発生した。朝倉市杷木地区などで大量の土砂や木が流出。平野部まで溢れ出た土砂水は、周囲の道路橋梁などのインフラに大きな被害をもたらした。発災から間もなく1年が経とうとしている現在、朝倉市を始め国や県は、被災現地に出先機関を設置。連携の下で復旧作業を進めているが、その被害の大きさなどから、完全復旧には5年以上を要する見通しだ。未曾有の豪雨被害は、地域にどのような傷跡を残したのか。復旧はどのように進められているのか。被害から得られた教訓は何か―。林裕二朝倉市長へのインタビューを始め、行政、地元建設業者の対応などについて、まとめた。

 ――4月に市長に就任されました。抱負をお聞かせください。

林 裕二 朝倉市長

 林 最優先課題として、2017年7月5日に発生した九州北部豪雨災害からの1日も早い復旧・復興の実現に向けて、頑張っていきます。市長である私にとって、復旧・復興は、絶対の責任です。市役所一丸となって、市民、議会、経済団体、農業団体一体となり、「オール朝倉」で復旧・復興を着実に進めていきます。復旧・復興なくして、朝倉市の将来はありません。災害により、市の財政は厳しい状況にありますが、産業、経済、雇用、安全安心のまちづくりなど、避けて通れないさまざまな課題があります。

 私は、(1)あさくら復興(災害対策を加速する)、(2)健全あさくら(健全財政を守り抜く)、(3)あさくら創生(地方創生で切り拓く)、(4)ふるさと朝倉(人を育み、まちを育む)―という4つの基本的な視点を掲げ、市長選挙を戦いました。この視点に立って市政運営を進めていきます。

 ――災害復旧の課題は?

 林 災害により、大量の土砂、流木などが流出し、その撤去が大きな課題になっています。現在は、工事で発生した土砂を市内3カ所にある仮置場に集積し、後に2カ所ある最終処分場に運んでいますが、どれぐらいの量を撤去するのか、まだはっきりわかっておらず、1,000万m3とも言われています。前例のない規模の災害なんです。土砂の復旧は、すべての復旧工事の前提になります。二次災害防止の工事も含め、土砂を撤去しないことには、何も始まりません。当面の大きな課題は、土砂の撤去ですね。

 ――国などの支援は不可欠ですね。

 林 現場は道路、農地や河川、住宅などが一緒に土砂に覆われていますが、補助を所管する省庁は異なり、別々の復旧事業になります。省庁ごとにきちんとした手続きを踏む必要があります。一方で市民に対しては、市の窓口を一本化するなど、さまざまな工夫が必要になります。

 ――復旧事業のなかでの優先順位は?

 林 今年3月に復興計画をつくっており、これを基本に進めています。現在、約1,000名の住民が仮設住宅暮らしですが、できるだけ早く住み慣れた場所に戻れるようにすることです。住民の生活再建、地域コミュニティの再生を最優先にしています。国、県、関係機関と緊密な連携をとりながら、ハード事業を着実に進めていきます。すばらしい自然環境をもった「朝倉市を取り戻す!」を目指していきます。地域経済を取り戻すことも、極めて大事です。地元企業の経営者、農業従事者、大学などの知恵を借りながら、経済振興策を練り上げていきます。

 ――被災した方々などへのヒアリングは?

復興まちづくり協議会の模様(朝倉市提供)

 林 被害の大きかった8つのコミュニティごとに、復興まちづくり協議会を設置しました。5月30日から6月8日にかけて、私を始め、市幹部職員が参加し、住民との対話を行っています。地区によって、被災状況、課題が異なるので、その辺の聞き取りなどを行っています。職員には常に「住民に寄り添う」ように言っています。

 ――住民からの要望は?

 林 災害発生から1年が経過し、被災者の方からは「早くうち(家)に帰りたい」という声が多く挙がっています。改良復旧となる河川の復旧などは、時間がかかるので、「スケジュール感を知りたい」「早く示してほしい」という要望が出ました。「安堵感がほしい」という思いが強く伝わってきました。柿は朝倉市の名産ですが、「柿山に入れない」「生業ができない」という焦りの声もありました。

 復旧復興は、被災した方々に安心してうち(家)に戻っていただき、元の生業を営んでいただくことが基本です。行政として、被災者1人ひとりにきめ細かく対応する必要があります。昨年12月に激甚災害に指定されました。市としては、個別の復旧工事を順次発注していますが、被害総額2,000億円とも試算される被害の復旧工事発注に必要な調査などは、非常に膨大な作業です。また、計画的なハードの復旧をいかに実施していくかは、極めて多難な作業です。被災したコミュニティの意見を取り入れ、優先順位をつけながら事業を進めていく必要があると考えています。

 20年度には、市内に3つ目のダムができます。1つの自治体内にダムが3つあるのは日本唯一のことです。市では、ダムを観光資源としても活用していくことにしています。市内には、水、環境、自然に関係する日本有数の企業もありますので、経営者の方々の知恵などもお借りしながら、朝倉というまちの魅力を積極的にPRしていきたいと考えています。

 ――応急復旧などに当たった、地元の建設業者に対しては?

 林 地元の建設業者の方々には、地元建設業協会などを通じて、発災直後の非常に危ない状況にもかかわらず、道路啓開などの応急復旧をしていただきました。これから先も、いろいろな工事の発注を予定しています。業者の方々にはご苦労をかけると思いますが、「オール朝倉」として、引き続き、復旧・復興に向けたご協力をお願いします。

(つづく)
【大石 恭正】

 
(後)

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