2024年05月01日( 水 )

完全復旧まで5年の道のり~住民に寄り添い、朝倉を取り戻す(後)

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全国初、国代行で河川復旧、市マンパワー確保に課題も

土砂で埋まった朝倉市内の様子(朝倉市提供)

 福岡県は2017年9月、朝倉県土整備事務所に災害事業センターを開所。九州地方整備局も18年4月、朝倉市役所杷木支所内に九州北部豪雨復興センター(復興出張所も新設)を設置し、災害復旧の現地対応に臨んでいる。

 国は、17年度に河川に堆積した流木などの撤去、河道拡幅などのほか、流木の捕捉のためのワイヤーネット設置などの応急復旧工事に着手。18年5月に赤谷川、大山川、乙石川での工事が完了している。河川法改正にともなう県管理河川の国代行制度の適用は、全国初。一連の作業で撤去した土砂は約6万m3、流木は約3万m3に上った。

 今後は、赤谷川などの川幅拡幅や線形緩和、流木などの貯留施設整備などの改良復旧工事を実施するほか、筑後川流域全体の土砂洪水氾濫の防止のため、5年間をメドに、砂防堰堤整備も行う。

 朝倉市の公共インフラの被害件数は、345件。内訳は河川関係85件、道路194件、橋梁66件。地域別では、杷木地区が141件と最も多く、ついで甘木地区108件、朝倉地区96件となっている。甘木地区での被害は主に山間部、朝倉地区の被害も甘木地区寄りの地域に集中しているという。

 河川の被害査定については、本来河川を掘り上げて被害状況を明らかにする必要があるが、「今回は時間がない」ことから、河川断面の5割以上が埋まっている場合、「崩壊しているものとみなす」などの特別措置がとられている。

 市の災害復旧関連工事の発注件数は、70件(5月時点)。内訳は河川30件、道路37件、橋梁3件。橋梁が少ないのは、土砂撤去など先行する工事があるためだ。工事発注に際しては、不調不落を避けるため、県に準じて、契約時の要件緩和を実施。通常2社以上の応札がない入札は無効だが、1社のみの応札でも契約できるなどの措置を講じている。「当初心配していたよりは、不調不落は少ない」としている。

 災害復旧工事などを手がける同市公共土木施設災害対策室には41名の職員が詰めているが、うち20名が県や他市町村からの応援職員。18年4月には、任期付職員として、建設コンサルタントOB4名も加わり、発注、工事監督業務などを行っている。応援職員は現在数カ月単位で交代しているが、今後、数年間継続する必要がある。

 朝倉市は18年3月、10年後を見据えた復興計画を策定。19年度までにインフラなどの復旧を完了させる方針を打ち出しているが、国では「復旧完了には5年間を要する」見通しであることなどから、計画通り復旧が進むかは不透明だ。市担当者は「国などと協議しながら、進めていく必要がある」と話している。

応急対応で災害情報が錯綜「情報一元化」が教訓

 「ここまで大きな被害になるとは思わなかった」―。福岡県土木組合(連)朝倉支部の平田立身支部長は当時を振り返る。7月5日昼ごろから朝倉市など九州北部一帯に降り出した雨は、朝倉市内各所で1時間100mm以上を記録。杷木地区など市東部で土砂災害などをもたらした。ところが、組合事務所のある甘木地区や筑前町では、とくに大きな被害が発生しておらず、実感がなかったためだ。

 支部に緊張感が走ったのは、5日夕方。福岡県朝倉県土整備事務所から「危ないかもしれない」という一報が入った。県からの要請を受け、支部では、会員に対し出動待機を連絡。翌6日、急を要する事態発生に、すべての会員が現地入り。土砂撤去などの作業を開始した。同事務所と支部会員は「風水災害時の緊急工事などに関する協定」を締結しており、これに基づく出動だった。

 今回の風水害でとくに被害が大きかったのは、杷木地区や東峰村などの市東部で、多くの会員が現地へ駆けつけた。支部では、協定に基づき、エリアごとに道路などの安全パトロールを行う会員をあらかじめ決めていたが、現地情報などから「想像以上に被害が甚大」だと判明。被災地区会員を始め、被害のなかったエリア担当の会員に対し、被災現場に応援に行くよう依頼した。

 平田支部長は、県土整備事務所から連絡のあった7月5日以降、組合事務所に常駐。「電話が鳴りっぱなし」のなか、情報収集や連絡など対応に当たるほか、いくつかの現場にも足を運び、状況把握に努めた。1カ月が経過し、心身ともに疲労が蓄積。盆休み3日間は休養したが、緊迫した日々は8月いっぱいまで続いた。

 夏の猛暑のなか、復旧作業に当たったのは42社(会員以外含む)、作業員数は延べ2,000名以上に上った。作業員のなかには、親戚が行方不明のままの状態で現場に入った者もいたという。そんな献身的な姿に心を打たれたのか、現場周辺住民から励ましの言葉をかけられることもあったという。

 今回の災害対応から得た教訓は、「災害情報の一元化」の重要性。発災直後のゴタゴタのなか、県や市などからの情報収集、連絡が錯綜。ある会員企業に対し、複数の自治体などから出動要請が入ったり、1つの現場の作業に対し、複数の自治体がそれぞれ別の企業に要請したりするなどの事態が生じた。

 平田支部長は、「非常時で仕方がなかった面はあるが、行政サイドの情報一元化が整備されていれば、もっと円滑な復旧作業ができたのではないか」と振り返る。  

(了)
【大石 恭正】

 
(前)

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