2024年04月30日( 火 )

震災から2年を経て~今なお深く残る爪痕(後)

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まだまだ復興途上の益城町の現状

木山仮設団地

 震度7を観測し、県内でもとくに被害の大きかった益城町。町全域に被害がおよび、600棟以上の家屋が倒壊したほか、町役場庁舎も深刻な被害を受け、現在は離れた場所に設置されたプレハブの仮設庁舎で業務が行われている。その仮設庁舎の道路を挟んで反対側に位置する「木山仮設団地」(整備戸数220戸)。ここに暮らす住民の多くは、もともとは旧益城町役場のあった木山地区に住んでいたという。

 「もう2年くらい住んでいますから、住み心地には慣れましたし、集会所などに皆で集まることができますので、それなりに楽しくは暮らしています。隣近所とのトラブルはありませんが、こう近いと、やはり気は遣いますね。早く自分の家に住みたいと、復興住宅を待ってはいるのですが、なかなか進まないようです」と、同団地に暮らす60代女性は語る。旧役場周辺の木山地区では現在、土地区画整理事業が進められている。その影響により、他地区に比べて復興住宅の再建が遅々として進まない現状があり、そのことについて住民は不満を抱えている模様。ほかにも、「行政には少なからず感謝していますが、『いつまでに、どのような計画を立てている』といった具体的な提示がなかったのが残念ですね」(30代男性)、「役場に質問を投げかけても、その場で答えずにたらい回し。また、内部で情報共有ができておらず、まさに“お役所仕事”といった印象を受けました」(70代女性)、「この団地でも、今年8月には約40人が退所を予定しています。一方で、公営住宅が19年末までの完成予定でしたが、工期が延び、仮設住宅の入居期限が20年8月まで延長されています。行政に対しての不満点は、『対応が遅い』こと。町としては、県への報告や判断を仰ぐにあたって、時間がかかるのはわかります。ですが、町にもある程度の裁量をもったうえで、対応していただきたいと思います」(60代男性)などの声が聞こえてきた。

 一方で、仮設団地以外に暮らす人々の意見はどうだろうか。旧庁舎周辺の木山地区では、多くの家屋が被災。現在、解体されて更地となっている場所や、新築住宅が建てられているところなど、モザイク模様の様相を呈している。同地区で自宅を再建して暮らしている住民の方々に話を聞いた。
 「全壊した自宅を再建して、やっと地元に戻ってはきましたが、このあたりも住民が減り、寂しくなりましたね。仮設住宅に住んでいる方は家賃がかからないそうですが、私たちみたいに自宅に住んでいると保障はなく、その点については、少し不平等感は感じざるを得ません。とはいえ、仮設住宅に暮らさざるを得ない方々のことを考えると、自分の家に住めているだけ幸せなのかもしれませんが…」(70代男性)。「被災後、半年以上は娘のところで世話になり、自宅が再建できたのでここに戻って来ました。この地区では、区画整理により道路が拡張されると聞いていますが、その影響で県道沿いに家が建ちません。皆さん様子見をされているようです」(70代女性)。「皆さん、区画整理の様子見で自宅の再建をためらっておられますが、私なんかはあまり待ちすぎると、その前にお迎えがきてしまいますからね(笑)。5月の初めに仮設団地からここに戻って来ましたが、仮設団地での近所付き合いが親密だった分、今は少し寂しく感じます。早く、また賑わいを取り戻してほしいですね」(80代女性)。

 「震災直後は『負けてなるものか』と頑張っていた事業者の方も、今年に入って悩んだ末に廃業を決断される方が出てきました。事業者の方からは、区画整理の影響で『移転しようにも場所が確保できない、決まらない』といったものから、人手不足に関するもの、あとは地域の住民の数が減りましたから、販売店や飲食店などからは『客足が遠のいた』といった声が寄せられています」とは、益城町商工会の関係者。また、町内のある事業者からは、「いくら道路を整備して建物が再建されても、人が戻らないことには、まちのにぎわいも、経済活動も生まれません。復旧だけで手いっぱいなのはわかりますが、行政側ももっと『益城町の明るい未来』を我々住民や事業者に示してほしいですね」との声も寄せられた。

 地元不動産会社の美智商事(株)の担当者は、「益城町では現在、解体工事はほぼ完了。新築住宅の着工が相次ぎ、いわば“特需”の状況になっています。ただし、とくに基礎や設備業者の手が足りていないことで、着工が1年待ちということもざらです。土地の売買に関してはあまり活発ではなく、被災したからといって他所に移らず、できれば地元に残りたいといった方が多いようです」とコメント。益城町では、震災からの復興がまだ現在進行形で進んでいる。

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 福岡のマンションデベロッパーは、「熊本では震災により買い替えニーズが高まっており、マンション販売は概ね好調です。ただし、災害復旧工事による人手不足で建築コストは高い」(A社)、「熊本市は転石、地下水の関係から杭を深く入れる必要があるため、基本的に建築コストが高い。また、災害復旧工事により人手不足も顕著。福岡と比べて10~20%くらい高い」(B社)という。震災直後に1階部分がつぶれたショッキングな光景が見られたマンション「第2京町台ハイツ」(熊本市西区)では、今年4月に公費解体が完了。現在、土地(敷地面積1,220m2)の売却先を探しているが、「いくつか打診はあるものの、まだ白紙。来年10月の被災マンション法の適用期限までには手続きを終えたい」(横田行政書士(元住人))という。震災からの復旧・復興や再開発など、建築・不動産業界では熊本は“復興特需”の様相を呈している。

 だが一方で、とある被災者からは、「行政側は、観光や経済振興などの対外的に目立つ政策ばかり打ち出しがちで、我々被災者にはあまり目が向いていません。『私たちのことを忘れないで』といいたい」との意見を頂戴した。現地では、まだまだ震災は終わっていない。そのことを、忘れてはなるまい。

(了)
【特別取材班】

 
(前)

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