2024年04月26日( 金 )

破産によらない被災者の債務整理

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 2017年7月の九州北部豪雨から1年が経ちます。大規模な自然災害により、貴重な人命が失われ、また命が助かっても、財産を失い、収入の道を断たれるなどの経済的被害も生じています。

 このような大規模災害により、住宅ローンや事業性ローンなどの返済ができなくなった場合、借金を整理するための手法としては、従来から「破産」や「民事再生」という法的手続がありました。しかし、法的手続をとった場合には、官報に名前が掲載されたり、個人信用情報に登録され(いわゆるブラックリスト)、生活や事業を再建するための新たな資金借入やクレジットカードがつくれないといった問題が生じます。そこで、被災者が一定の要件に該当する場合に、「破産」などの法的手続によらずに債務を整理する方法として、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」(以下、GL)による債務整理の方法があります。

 GLに従って債権者との合意に基づき債務整理を行うメリットは、(1)信用情報として登録されないため、今後の新たな借入に影響がおよばないこと、(2)国の補助により、弁護士などの「登録支援専門家」が無料で手続を支援してくれること、(3)財産の一部を「自由財産」として手元に残すことができること―などが挙げられます。

 このGLを利用できるのは、16年の熊本地震や17年の九州北部豪雨など、15年9月2日以降に災害救助法の適用を受けた自然災害の影響によって、住宅ローン・自動車ローン・事業性ローンなどを返すことができない、もしくは近い将来に返せなくなることが確実と見込まれる個人または個人事業者です。法人は利用できませんので、ご注意ください。

 それ以外にも、(1)災害が発生する以前に、対象債務について期限の利益喪失事由に該当する行為がなかったこと、(2)破産手続などの法的手続と同等額以上の回収を得られる見込みがあること、(3)事業の再建・継続を図ろうとする事業者の場合は、その事業に事業価値があり、債権者の支援により再建の可能性があること―などの要件を満たす必要があります。

 手続としては、ローンの免除や減額などの内容を盛り込んだ「調停条項案」を作成し、金融機関に説明して、同意を取り付けたうえで、裁判所の特定調停手続において調停条項を確定させるということが必要になります。専門的な知識が必要になりますが、ご自身ですべて対応するわけではなく、登録支援専門家の支援を受けることができますので、お困りの際は、とりあえず相談されることをお薦めします。

 なお、GLによる債務整理を希望する場合は、まずはローンの借入先の金融機関にお問い合わせください。

<プロフィール>
岡本 成史(おかもと・しげふみ)弁護士
岡本綜合法律事務所 代表
1971年生まれ。京都大学法学部卒。97年弁護士登録。大阪の法律事務所で弁護士活動をスタートさせ、2006年に岡本綜合法律事務所を開所。福岡県建築紛争審査会会長、経営革新等支援機関、(一社)相続診断協会パートナー事務所/宅地建物取引士。

 

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