2024年04月19日( 金 )

「何かがおかしい」地方創生4年目の真実(1)

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 国民に大きな衝撃をもたらした『成長を続ける21世紀のために「ストップ少子化・地方元気戦略」』(通称 増田レポート)が出たのは2014年5月8日のことである。このレポートは、日本の地方自治体のうち約半数にあたる896自治体が2040年までに消滅する可能性があるとしている。政府は増田レポート発表の4カ月後の9月3日に「まち・ひと・しごと創生本部」を設置、同年末には「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」「同総合戦略」など政策の方向性を示し、具体的な事業が始まり、現在に至っている。
 しかし、その直後には、有識者の多くから「何かがおかしい!」という声が聞こえ、約4年経った今、さらに多くの違和感が出てきている。最初は青森「人口政策」(人口減少問題の解決)に行くという話だったのに、いつの間にか、切符の行き先が東京「経済政策」(地方よ、もっと稼げ、生産性を上げよ!)に変更されてしまったからだ。それはなぜか。その解明に臨んだ、話題の書「『都市の正義』が地方を壊す」(PHP新書)の著者、山下祐介首都大学東京人文社会学部教授に聞いた。

首都大学東京 人文社会学部教授 山下 祐介 氏

本当のところ、何を目標にしたらよいのでしょうか?

 ――近刊『「都市の正義」が地方を壊す』(PHP新書)が評判です。執筆の動機から教えていただけますか。

▲首都大学東京 山下 祐介 人文社会学部教授

 山下祐介氏(以下、山下) 「成長を続ける21世紀のために『ストップ少子化・地方元気戦略』」(通称 増田レポート)が出たのは2014年5月8日のことです。それを受けて、政府の「地方創生(まち・ひと・しごと創生)」政策が2014年9月に始まり、約4年が経過しました。その間、多くの有識者からさまざまな批判が続出しました。その内容は、増田レポートに対する批判はもちろん、政府の地方創生戦略そのものがおかしいのではないか、というものでした。

 私も地方創生本部スタート直後の14年12月に『地方消滅の罠』(ちくま新書)を上梓、この政策について警鐘を鳴らしました。その後、この書がきっかけとなり、全国のさまざまな方とお話することができました。そのなかで、「地方創生とは、本当のところ、何を目標にしたらよいのでしょうか」と全国の少なくない行政職員の方から尋ねられました。
 というのも「人口減少問題の解決」(入口)で始まった地方創生ですが、いつの間にか、政府に仕事づくりを強要され、「仕事づくり~地方よ、稼げ~」(出口)に向かってしまっているからです。今、「稼ぐ地域をつくる・ローカルアベノミクス」実現のために、人口減少が止まるとはとても思えない政策が次から次へと出されています。

 私はこの4年間、彼らの疑問に応えるために、必死に各種の雑誌・新聞・ネットなどを中心に発言してきました。その集大成として本書を出版、多くの読者に、もう一度「人口減少問題」や「地方創生」のあり方にについて考えてほしいと思いました。

急速で、急激な人口減少を止める」ことが目標だった

 ――ここで、本論に入る前に、読者共通の認識として、増田レポートと政府の地方創生戦略の概要を、簡単に整理いただけますか。

 山下 簡単にいえば、増田レポートも政府の地方創生戦略も本来の目標は「これから始まる急速で、急激な人口減少を止める」ことにありました。

 増田レポートとは、最も出生率の低い、東京1極集中を阻止するために、「山間部を含めたすべての地域に人口抑制のエネルギーをつぎ込むのではなく、地方中核都市に資源を集中し、そこを砦にして再生を図る」というものです。「選択と集中」を謳い、人口20万超の地方中核都市に人口を集中させ、そこを防衛線にするとしました(人口ダム論)。最も出生率の低い東京に若者が集まり、そこで子育てをしようとしているので、若者を地方へ移し、集中し過ぎている東京の暮らしを緩和させなければいけないというものです。しかし、このことはよく考えると、そもそも「集中」が問題なのに、集中させて(ミニ「東京」をつくって)問題を解決するという大きな矛盾をおかしています。

 4年経った今、はっきりいえることは、地方創生を開始してから、それまで徐々に回復していた出生率が2016年、17年と2年連続して下がっている事実です。「人口減少問題の解決」という観点から見れば、政府の地方創生戦略は明らかに失敗しています。人口減少問題は“ショックドクトリン”として利用されたに過ぎず、増田レポート・地方創生戦略には、もっと何か裏の思惑があったのではないかとも言われています。たとえそうでなくても、この政策には、さまざまな思惑や欲望が織り込まれて、複雑怪奇なものに変貌してしまったことはたしかです。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
山下祐介(やました・ゆうすけ)

 首都大学東京人文社会学部教授。1969年生まれ。九州大学大学院文学研究科博士課程中退。弘前大学准教授などを経て現職。専攻は都市社会学、地域社会学、農村社会学、環境社会学。東北の地方都市と農村の研究を行い、津軽学・白神学にも参加。主な著書に、『限界集落の真実』、『東北発の震災論』、『地方消滅の罠』、『地方創生の正体(金井利之氏と共著』、『「都市の正義」が地方を壊す』(以上、ちくま新書)、『「復興」が奪う地域の未来』(岩波書店)、『リスク・コミュニティ論』(弘文堂)、『白神学1~3巻』(ブナの里白神公社)などがある。

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