2024年04月19日( 金 )

【斎藤貴男氏寄稿】「人でなし」のイデオロギー・新自由主義 蘇る、社会ダーウィニズムの悪夢(1)

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ジャーナリスト 斎藤 貴男 氏

新自由主義=市場原理主義

<おそらく、新自由主義というのは単に学術的に、あるいは論理として「正しい」ということで支持を集めたというよりも、一部の人々、はっきり言ってしまえばアメリカやヨーロッパのエリートたちにとって都合の良い思想であったから、これだけ力をもったのではないか>

 経済学者の中谷巌氏(76=現・三菱UFJリサーチ&コンサルティング理事長)が、自著『資本主義はなぜ自壊したのか』(集英社インターナショナル)でそう指摘したのは、2008年のことである。一橋大学の教授だった1990年代前半に細川護熙首相の諮問機関「経済改革研究会」(座長=平岩外四・経団連会長=当時)の委員に就任し、以来、まさにその新自由主義に基づく構造改革の旗を振り続けていた彼が、自らの言動が日本社会における階層間格差を拡大させ、人心を荒廃せしめた事実を反省した“懺悔の書”だと評された。

 新自由主義(ネオ・リベラリズム=ルビ)とは、たとえば<政府の規制を緩和・撤廃して民間の自由な活力に任せ成長を促そうとする経済政策>(『知恵蔵』07年度版)などと説明されてきた。国民が最大の公平と繁栄を享受するには経済システムを徹底した市場原理に委ねるほうが効率的だとする立場だ。時に「市場原理主義」と言い換えられる場合もある。

 中谷氏の“懺悔”から10年を経た今年1月。今度はオリックスの宮内義彦・シニアチェアマン(82)が、新聞のインタビューに応じて、次のように語った。彼もまた、長く新自由主義の教祖的存在だった人物だ。

<「公正な市場での活発な競争こそ、最も多くの富をつくり出すという私の考えの基本は変わっていない。だが米国などで広がった格差はあまりにも大きく、社会を不安定にしてしまった」
 ―今の格差は、市場原理を重視した資本主義の行き過ぎが招いたのでは。
 「資本主義との関係というよりも、政府による富の分配の失敗だ。(市場を支配するような)独占企業のCEO(最高経営責任者)が考えられない高額報酬を取り、金持ちが所得をタックスヘイブン(租税回避地)に移したりしているのはおかしい」>(『東京新聞』18年1月26日付朝刊)

 変われば変わるものである。宮内氏は小泉純一郎政権で総合規制改革会議の議長を務めていた06年には、やはり新聞のインタビューで格差の拡大について問われ、<私はパイが大きくなるのを止めるような平等はいけないと思う。「日本の社会にとって心地良い格差」をつくるべきだ>と答えていた(『朝日新聞』9月13日付朝刊)。構造改革で“負け組”になった者が高望みせず、下層にふさわしい暮らしで満足しておれば済む話だ、との趣旨だった。

 中谷氏もバリバリの新自由主義派だったころには、傲慢で差別的な物言いが目立っていた。大規模店舗法の規制緩和で倒産が必至の中小零細の商店主らが配慮を求めてきたのだが、<それでニュービジネスが出てくるから、パパママストアで倒産した人たちは、そのニュービジネスにトライもできるし、あるいはその(引用者注・大店法緩和で進出してくる)ウォールマートストアに雇ってもらうこともできるでしょう。(中略)少しは、これは恥ずかしいことを実は要求しているのですけどという顔つきをしていただきたいというのが本音です(笑)>と嘲笑さえしていたのだ(中谷・大田弘子『経済改革のビジョン』東洋経済新報社、94年)。

(つづく)

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