2024年04月20日( 土 )

宮川選手パワハラ騒動における人権問題と法律問題(前)

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青沼隆郎の法律講座 第10回

本質:公益財団法人の理事会・理事の業務執行の適法性認定と公法上の権利・利益者の保護手続

 本件事件の被害者(公法上の権利・利益を理事会・理事の違法業務執行により侵害されたと主張する登録選手と登録コーチ)は独立したものではなく、登録コーチへの処分手続の過程で登録選手への不法行為(パワハラ)があったと主張され、また、登録コーチへの処分により、登録選手の練習その他の選手活動が侵害されたというのであるから、両者の問題を切り離して論ずることはできない。従って、以下は主として登録コーチへの処分手続の時系列的分析と検討を行い、関連する限りで登録選手への不法行為の有無を論ずる。

処分本質論

(以下、登録コーチへの無期限資格剥奪処分を本件処分と記す。)
 本件処分の法的性質の法性決定は極めて重要である。営利私法人たる株式会社における従業員の懲戒処分が、労働契約・就業規則に基づいて決定され、その当否の最終的決定は民事紛争として通常裁判所の判決により決定確定される。処分権の源泉は当事者の合意に基づく。一方、公益財団法人の理事会の、登録コーチへの本件処分はその権限の源泉は公益財団法という公法に基づくもので権利利益も当事者の合意によって付与されたものではない。公金助成・納税免除・監督官庁による定款認証および、業務執行に対する立入調査権・是正命令権・役員罷免請求権・法人の設立認可の取消権など、公益法人としての存在は、ほぼ国や地方公共団体と等しい法的規制に従う。この公益財団法人の公益性と公共性の本質に鑑みれば、公益財団法人の本件処分は、行政手続法第二条第一項第二号にいう、「公権力の行使にあたる行為」というべきである。本件処分が行政手続法でいう「処分」にあたらないとしても、その処分の公共性・公益性からみて、行政手続法の規定の精神に準拠することは当然である。行政手続法の不利益処分に関する規定には、本件処分の適法性を考察するうえで極めて示唆に富む規定が多数存在する。本件処分の適法性を議論するまえに、それらを提示する。

(1)処分基準の事前開示・告知の必要
 如何なる事実・行為について如何なる処分が下されるかの具体的規定が事前に開示広告されていなければならない。(同法第12条)
 なお、本件処分は無期限の資格剥奪処分であるが、最も重い除名処分との差異は表現上の差以上のものはない。このような、実質的に最重責処分と同じ処分であることもその処分の適法性正当性に疑義を生じさせる。

(2)本件処分の場合には聴聞手続が必要である。(同法第13条)
 そして聴聞手続の具体的内容は同法第15条以下に詳細に規定されている。報道されている限り、理事会の業務執行は重要規定にはすべて違反していると思われるので、具体的に検討する。
 同法第15条第1項 以下の内容を相当の期間を定め、「書面」によって通知しなければならない。
 同項第一号 予定される不利益処分の内容及び根拠となる法令の条項
解説:不利益処分の内容は無期限資格剥奪であり、その根拠は処分基準規則であるが、いずれも書面で事前に通知されたとの証拠は示されていない。
 同項第二号 不利益処分の原因となる事実
解説:事実は当然具体的に特定されたものでなければならない。「数年前の暴行行為」という程度の特定では話にならない。特に、後述するが、告発者の主張が伝聞事実であるから、正確な事実の特定はそもそも不可能である。明らかに法令違反である。  
 同第2項 教示の必要
 通知書面には、理事会が保有する証拠の閲覧開示の請求ができることを教示しなければならない。処分を受けた登録コーチがそのような教示をうけ、閲覧権を行使した事実や記録は、報道される限り窺われない。
特に重大な法令違反は登録コーチの代理人選任権を奪ったことである。(同法第16条)
これは、協会側代理人弁護士同席のもと行われており、極めて悪質・重大な法令違反である。
 以下略

(つづく)

<プロフィール>
青沼 隆郎(あおぬま・たかお)

福岡県大牟田市出身。東京大学法学士。長年、医療機関で法務責任者を務め、数多くの医療訴訟を経験。医療関連の法務業務を受託する小六研究所の代表を務める。

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