2024年04月19日( 金 )

市町村の橋梁点検が危ない!?人手、予算不足に悩む自治体事情と支援態勢

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 国は2014年7月に道路法施行規則を改正し、長さ2m以上の橋梁について、道路管理者(自治体など)に5年に1度の「近接目視」による橋梁点検を義務付けており、今年度が5年サイクル点検の最終年度に当たる。福岡県と県内市町村が出捐する(公財)福岡県建設技術情報センター(福岡県篠栗町)では、点検義務化を機に、技術職員の少ない県内市町村(2政令市を除く)の橋梁点検支援として、点検システムの提供、点検代行、技術研修などを行っている。市町村の橋梁点検の最前線では何が起きているのか。センターではどのような支援を行っているのか。

福岡県派遣職員が自治体をサポート

橋梁点検実習施設「1958 木ノ下橋」

 「人がいない。予算もない」――。福岡県道路メンテナンス会議に参画している(公財)福岡県建設技術情報センターのある職員は、橋梁点検をめぐる県内市町村の状況をこう語る。

 福岡県建設技術情報センターは、建設技術に関する調査研究などを目的に、1995年に設立された三セクで、理事長は県職員OB、職員は県からの派遣や嘱託職員などで構成。県内の市町村が利用し、技術研修を始めとしたサポートを受けている。点検ノウハウのない市町村にとっては、欠かせない存在だ。

 政令市を除く福岡県内58の市町村が管理する橋梁数は、約1万9,000ある。橋梁点検は、原則的には各道路管理者である市町村が行う。点検には、ノウハウをもった職員を配置する必要があるが、それができる市町村はむしろ少ない。

建設コンサルに委託せざるを得ない自治体の内情

 規模の小さな自治体では、土木経験が浅い職員が橋梁の担当者というケースは珍しくなく、土木技術職員が1人もいない自治体もある。そういう自治体は、ほぼ「すべて建設コンサルタント委託」である。

 橋梁点検は、財政的な負担も大きい。点検に際し、国などから交付金は出るものの、一般的に補助率は55%で、残りは市町村の自己負担だ。点検後に異常が見つかると、修繕しなければならず、さらに財政的な負担が増す。国や県にさらなる支援をお願いするしかない。

 そもそも道路管理者である市町村では、市町村職員自らが橋梁管理するのが原則。実際のところ、コンサルにすべて委託するより、自前の職員で行う方が、トータルコスト的には安く収まる。だが、それができないのが現状である。

老朽化した橋梁を点検実習施設として移設

鉄筋がむき出しになった木下橋桁下部のコンクリートの状態
雨水の侵食により鉄筋の腐食が進行すると、こうなる

 センターが行う橋梁点検に関する支援には、点検システム「You点検(ようてんけん)」の提供がある。市町村管理の橋梁データをセンターのサーバーで一元管理することで、道路管理者が専用のタブレット端末をもって点検に行き、端末にデータを入力するだけで、点検できるというもの。それでも人員が不足するという自治体に対しては、センター職員が点検を代行している。これまでの実績は約3,400橋に上る。さらに点検結果に基づく、橋梁の長寿命化計画の策定などもサポートする。

 橋梁点検に必要な知識、ノウハウを学ぶ研修、講習会なども行っている。具体的には、点検時に注視すべき損傷や点検記録のまとめ方などを学ぶもので、当初は座学だけだったが、現地実習も行っている。

 今年5月には、老朽化により撤去された橋梁をセンター内に移設。点検実習施設「1958木ノ下(このした)橋」と命名し、教材として活用している。老朽化した橋梁の実物を見ながら学べるということで、受講者からは「わかりやすい」と好評を得ているそうだ。木ノ下橋は、宗像市村山田の県道に60年前に架設されたRC橋梁(橋長9.3m)。長さ4.9m分の桁、下部工を切り取り、再現設置している。

 木ノ下橋は非常に老朽化が進んでいる。たとえば、桁下部をのぞくと、コンクリートが腐食し、広く鉄筋がむき出しになっている。こういう状態の橋を実際に見て触る機会は、まずない。絶好の教材というわけだ。「研修参加者に、橋梁の腐食箇所などを写真で見せても、あまりピンときていなかった。実際の橋を使うことで、より伝わる、より効果的な研修ができている」(福岡県建設技術情報センター職員)と話している。

 研修に参加する自治体職員のうち、5人に1人は事務職。土木職であっても、70%は土木の実務経験が3年未満で、若い職員が多くを占める。市町村にとっては、「若い技術者の即戦力化が課題になっているようだ」(同)と指摘する。

国はなぜ近接目視にこだわるのか

 点検方法は「近接目視」が基本。国土交通省の「道路橋定期点検要領」にはこう書いてある。「近接目視とは、肉眼により部材の変状などの状態を把握し評価が行える距離まで接近して目視を行うことを想定している」。

 ただし、こうも書いている。「近接目視が物理的に困難な場合は、技術者が近接目視によって行う評価と同等の評価が行える方法によらなければならない」。

 この要領を読む限り、橋桁の裏とか、川の真ん中の橋脚とか、ドローンを飛ばして点検できそうなものだが、自治体の橋梁点検担当者に聞くと、「近接目視以外一切例外は認められない」かのような謎の運用がなされているという。現在、橋の真裏などは、橋梁点検車という人を乗せるクレーン車をリースするのが一般的だが、道路管理者にとって、コスト面で大きな負担になっている。

 国土交通省では、建設業の生産性向上の「i-Construction」を提唱しているが、こと橋梁の点検方法に関しては、かなりプリミティブだ。よもや、橋梁点検車のICT化を期待しているとは考えられない。実際、自治体担当者からは「国はなぜ、近接目視にこだわるのか」という声も上がっている。近接目視は方法であって、目的ではない。マンパワー、予算が足りない橋梁点検の現場では、近接目視にこだわらない柔軟な運用、規制緩和が求められている。

【大石 恭正】

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