2024年04月19日( 金 )

【検証レポート】北九州空港の方向性、あり方とは

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 24時間運用可能な海上空港として2006年3月に開港した北九州空港。現在、東京、名古屋など国内線を始め、中国の大連、韓国の釜山、仁川、務安、襄陽など国際線が就航している。今年10月以降、新たに台湾の台北便などが加わり、6月から深夜の貨物便も始まった。17年度の利用者数は過去最高となる164万人を超え、200万人超も視野に入ってきた。ただし、同じ福岡県内には、利用者数2,300万人超(17年度)の福岡空港がある。福岡空港の存在を無視して、北九州空港のあり方を考えることはできない。北九州空港の今後の方向性はどうなるか?検証してみる。

空港民間委託(PPP)は国策

北九州空港(写真提供:北九州市)

 国土交通省では近年、空港などの公共施設運営の民間委託(事業権譲渡)に力を入れている。高松空港、神戸空港は今年4月に民間委託がスタート。2019年4月には福岡空港、静岡空港の民間委託が始まる。この背景には、規制・制度改革を目指した「日本再興戦略2016」がある。再興戦略では、22年度までに「PPP/PFIの事業規模を21兆円に拡大する。このうち、公共施設等運営権方式を活用したPFI 事業については、7兆円を目標とする」と明記されている。

 国はなぜ、「空港経営の一体化」を進めたいのか。従来の空港運営方式では、施設ごとに管理会社などがバラバラなので、経営の効率化の妨げになっており、空港全体の価値を毀損していると考えているからだ。空港を管理する国としても、施設ごとに異なる複数の会社を相手にするより、1つの会社を相手にする方が都合の良いことは、想像に難くない。

「空港民営化」は事実誤認

 北九州空港の運営をめぐっては、今年8月中旬、「北九州空港 民営化調査」などの見出しが、一部新聞紙上に踊った。北九州市が北九州空港の「民営化の是非」を検討する基礎調査に入ったとする記事だった。

 今回の報道を含め、一連の空港の民間委託について、一般のメディアでは「空港民営化」と表現されることが多い。実際は、空港土地などは国が所有したまま、民間に運営権を設定し、空港系事業と非空港系事業を一体経営するもので、「公設民営」の民間委託に該当する。国が運営権を設定しているからだ。本来の民営化は「民設民営」に限られる。同市担当者は「我々が行う調査も、民間委託の調査であって、民営化ではない。表現の問題ではなく、事実誤認なので、抗議したが、聞き入れられなかった」と頭を抱える。

北九州、福岡両空港の「マルチエアポート」構想

 今回の基礎調査では、「福岡空港との一元的運営」「北九州空港単独での運営」「現状維持」の3つのケースについて、それぞれメリットとデメリットを検証する考えだ。同市担当者は「調査内容は今のところ白紙。調査の結果、民間委託見送りの可能性もある」と予防線を張るが、国家プロジェクトとして進める空港民活プロジェクトの流れのなかで、「北九州空港だけ国管理」となるとは考えにくい。

 福岡県庁サイドなどには、北九州空港と福岡空港を本格的に「マルチエアポート」化し、北九州空港の利用促進を図りたい考えがある。マルチエアポートとは、異なる空港を同一空港とみなして運用することで、同一運賃で乗降地や航空券の変更ができるもの。日本では、東京(成田、羽田)、名古屋(中部、名古屋)、大阪(関空、伊丹、神戸)で国際的に認められている。福岡(福岡、北九州、佐賀)では、JAL、ANA、スターフライヤーなどが独自に「同一空港」として運用しているが、国際的にオーソライズされたものではない。

 北九州空港には、24時間運用可能という福岡空港にはないメリットがある。たとえば、貨物便や深夜便などを北九州空港に振り替えることができれば、北九州空港の利用促進になると同時に、福岡空港の混雑緩和にもなる。両空港一体運用のメリットは大きい。仮に、両空港の運営を同じ企業グループが行うことになれば、空港アクセスを含め、マルチアポートとしての機能向上が期待できる。

当たり前の3,000m滑走路がない

 北九州空港、福岡空港にも足りないものがある。3,000m級の滑走路だ。北九州空港は2,500m、福岡空港は2,800mしかない。たいていの航空便の離発着には2,500mの滑走路があれば事足りるが、多くの乗客などを積載する長距離便の場合、3,000mの滑走路が必要になる。国内の幹線空港のなかで、3,000mの滑走路がないのは、福岡空港だけ。九州で見ると、大分、長崎、熊本、鹿児島などに3,000m滑走路がある。

 「3,000mなんて必要ない。2,500mで十分だ。もっと必要性、実績を積み上げてほしい」――。北九州市では、数年前から滑走路の3,000m化を国に要望しているが、今のところ、国の反応は芳しくない。滑走路延長には、数億円規模の費用がかかる。「これまでにも滑走路が短いために、就航できなかった便があった」(同)とほぞを噛む。

 10年ほど前、JR小倉駅と北九州空港とを地下トンネルを通る軌道でつなぎ、最短10数分で結ぶ構想があった。単なる構想にとどまらず、福岡県と北九州市は共同で、空港アクセス軌道整備の検討調査結果をまとめ、国に提出したが、「利用客120万人前後では採算が取れない」と判断され、頓挫した経緯がある。ルート選択などの選択によって軌道建設コストは大きく変動するが、「利用客数300万人が軌道建設実現の1つの目安」(同)と話している。

 インバウンドは、福岡に限らず、国を挙げての政策。航空便は、訪日客にとって、メインの交通手段だ。日本は国際線のハブ空港として、韓国や香港、シンガポールなどの後塵を拝してきた。空港建設が目的化し、戦略や運用にまでは頭が回らなかったと思われる。周回遅れの日本の航空政策が今後、どう巻き返せるか。北九州空港と福岡空港のあり方はその試金石の1つになるかもしれない。

【大石 恭正】

月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、再開発に関すること、建設・不動産業界に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。現在、業界に身を置いている方や趣味で再開発に興味がある方なども大歓迎です。

ご応募いただける場合は、こちらまで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事