2024年04月23日( 火 )

3期目の置き土産となるか?実現に向けて進む高島市長の夢・ロープウエー(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 高島宗一郎福岡市長が3期目の再選を決めた今年11月の福岡市長選。過去最低の投票率31.4%でありながら、立候補者が2名と少なく、高島氏は最多得票数28万5,435票を獲得。選択肢がないなかで投票所に足を運んだ多くの有権者の消極的選択の結果とも考えられる。この市長選のなかで、市民から困惑の声が挙がっていたのが、高島市長が「私の夢」として公約に盛り込んだロープウエーだ。

「安くて早い」が夢?

ロープウエーの導入を明記した選挙ビラ(下線は編集部)
※クリックで拡大

 「ロープウエーより市民の暮らし」。福岡市長選で現職・高島市長の対抗馬となった共産党候補が一番にもってきたスローガンだ。しかし、選挙戦を通じて、ロープウエーが明確な争点になることはなかった。高島市長が、相手方が矛先を向けたロープウエーを前面に出さず、公開討論を始めとする他候補者との政策論争を徹底的に回避したからだ。しかし、高島市長は、選挙公約の発表で「ロープウエーは是非実現」と語り、選挙ビラ(選挙公報)にも「都心部の渋滞緩和のため、ロープウエーの導入などに取り組みます」と明記している。れっきとした公約であることは間違いない

 ロープウエーが高島市政の表舞台に出てきたのは2017年12月5日。自身の政治資金パーティーで「福岡スカイウェイ構想」として、海外での実例も交えながら、博多駅から大博通りを通り、ウォーターフロント(WF)地区を経由し、北天神の須崎公園付近までを結ぶルートを提示した。この構想の元になったのは、福岡市が15年に民間事業者から公募したWF地区の再整備案で、JR九州などによる提案といわれている。

 日本でロープウエーといえば、山のふもとと山頂を結ぶ乗り物を思い浮かべる人が多いだろう。実際に国内では、都心部を走るロープウエーは前例がない。派手好きで目立ちたがり屋の高島市長が、この日本で“前例がない”乗り物に飛びつかないわけがない。それならそうと、「アジアのリーダー都市にふさわしい、オンリーワンの乗り物を!」と言ってくれたほうがスッキリするのだが、表向きのロープウエー導入の理由(建て前)は、至極現実的なものだった。

 「あくまでこれは私の夢ということで、要するに、検討する段階になっているわけですから、私としても、私はロープウエーというのが、もう世界各地の事例を見ても、最も予算が低コストで済むということ、建設期間が短くて済むということ、それから輸送力というのが非常に実は大きいというようなことから、私は自分の夢としてね、ロープウエーがいいと思っているんですが」(17年12月21日の定例記者会見より)。

 「安い、早い、旨い」が代名詞だったかつての牛丼のような言い様だ。しかし、ほかの交通システムに比べて、安いだけの理由で、長い間使っていく公共交通機関を決めるには短絡的過ぎる。

役人だらけの検討会議

 高島市長の政治資金パーティーを皮切りに始まった福岡市のロープウエー計画。実現に向けた作業プロセスの第1弾は、いまや行政の定番となった有識者会議だ。行政の施策のアリバイ工作には、このほか、ほとんど意見が寄せられなくても実施したという事実が残るパブリックコメント(意見公募)がある。一方、有識者会議は、議題の分野に関連する各種専門家を集めて審議を行うことで理論的な根拠を得ることができる。

 福岡市でも、何かにつけて有識者会議が設けられるが、「確定した情報と誤解されて市民の間に混乱を生じさせるおそれがある」「自由かつ率直な意見の交換が不当に損なわれるおそれがある」などとして大部分が非公開にされ、議事の概要は、どの委員が何を言ったかわからないように隠す。議事録を情報公開請求しても、発言者名は“黒塗り”(非公開)となる。実際のところ、本当に議論がされているのか、市民が知ることはできない。自分の意見を押し通したい為政者にとっては使い勝手のよい仕組みである。

 高島市長の「夢」であるロープウエーについては、「福岡市ウォーターフロント地区アクセス強化研究会」(以下、研究会)として、その第1回が本年1月17日に開催された。

 研究会では、交通計画・都市計画の学識経験者として、筑波大学社会工学域の石田東生(はるお)名誉教授、日本大学理工学部土木工学科の中村英夫教授、福岡大学工学部社会デザイン工学科の辰巳浩教授の3名、都市環境の学識経験者として、九州大学総合理工学研究院の萩島理(あや)教授が委員となり、そのうち石田氏が座長を務める。このほかの委員として、道路下水道局、港湾空港局、住宅都市局など関係部署の部長が4名。オブザーバーには、国交省から九州地方整備局3名と九州運輸局1名、福岡県警1名の計5名が参加している。学識経験者以外は、すべて役人という構成だ。半分の委員が、「ロープウエー愛」を語る高島市長の意向を汲んだ人間ともいえる。しかし、議事内容は、「民」か「官」かという、発言者の識別さえできない状態で公開されるのである。

 会議名からわかるように、研究会は、「ウォーターフロント地区の公共交通のアクセス強化」がテーマのはずだが、第1回の冒頭、事務局(市住宅都市局都心創生部)の挨拶では、「将来的な交通需要に適切に対応していくため、さまざまな交通対策を検討するなかで、道路空間を立体的に活用した新たな交通システムについて、必要性も含め検討を始めた」とある。「道路空間を立体的に」とは、すでに、ロープウエーを意識した検討が始まっていることを示す。

 また、この時の議事では、福岡市が西鉄と提携して16年度からテスト運行を実施している連節バスなど都心循環BRT(Bus Rapid Transit)の専用レーンについては、「道路交通混雑が悪化するため現状では困難」とバッサリ。さらには、「まちの魅力の観点からは、国内初や乗る楽しさなど、事業費以外の指標も考慮することが必要」との内容もある。すでに“国内初”となる都心部ロープウエーの導入を暗に推す声が挙がっている。もう「出来レース」の始まりにしか思えない。

(つづく)
【山下 康太】

(後)

関連キーワード

関連記事