2024年04月19日( 金 )

将来的な役員退職金に備える

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 中小企業の経営者にとって、事業承継は非常に重要ですが、同時に難しい課題でもあります。近年、経営者の年齢が上がっており、2017年のあるデータによれば平均年齢は61.45歳で、5年連続で上昇を続けています。社長の年齢分布は60代が31.98%、70代以上が26.18%の構成になっており、今後、ますます事業承継問題を抱える企業が増加していくと予想されます。

 先日、ある経営者から、先代の代表者の退職金支払いについて相談を受けました。先代社長は体調を崩して5年前から療養中で、残念ながら今秋にお亡くなりになられ、今期、退職金を遺族に支払いたいとの相談でした。

 役員退職金の計算式は、「最終役員報酬月額×役員在任期間×功績倍率」で算出されます。しかし、この算出された退職金額はあくまで参考値であり、業種や規模、業績など退職理由を十分加味して決めることが通例です。法人税法上では、不相当に少額な役員退職金は損金算入が認められておらず、合理的な金額でなければなりません。

 このケースでは、同業種のデータや実例を参考に顧問税理士と打ち合わせをして、遺族の理解を得たうえで円満にお支払いを終えることとなりました。しかし、その際に解決しなければならなかったことが2点あります。まず、決算についてです。退職金支払いは前出したように損金算入となりますので、当期の決算が赤字決算となりました。取引先への説明は明確にできますが、決算書上で支障をきたす可能性がある業種では、大きなマイナスとなります。2つ目は退職金の原資です。まとまった資金を退職金に充当するためにキャッシュフローが厳しくなり、想定外に運転資金を借り入れし、調整することとなりました。最終的に、先代への強い思いから2つの問題を乗り越えて、退職金の支払いを円満に行いましたが、「事前にもう少し準備しておけばよかった」と現経営陣はつぶやいていました。

 では、どのような準備ができたのか。その1つに、生命保険の活用があります。先代の社長が体調を崩されていたため保険を検討していませんでしたが、将来を見越して退職金の原資として積み立てておくほうが良かったのかもしれません。契約形態としては、【契約者:法人・被保険者:現社長】【受取人:法人】となります。この法人は近年、業績も好調でしたので、全額損金処理が可能な保険商品に加入することで、先代社長が体調を崩されてからの5年間だけでも税の繰り延べが可能になります。今期保険契約を解約することにより、雑収入が発生し、退職金の原資に充当できたと思います。保険の解約金は雑収入となりますので、雑損失となる支払退職金と相殺して、決算も赤字にならなかったかもしれません。

 今回の件で、将来のために現社長を被保険者としたご提案をさせていただいているところです。

<プロフィール>
玉井 省吾(たまい・しょうご)

1965年生まれ。長崎出身。88年、福岡シティ銀行入行。県内外の支店に勤務し、中小企業の法人営業を担当。事業者に対し、事業融資、経営アドバイスを行う。99年、外資系保険会社に入社し、ライフプランナーとして勤務。その後、保険を活用した経営コンサル業を開始。2018年1月より現職。(株)アンツインシュアランス 代表取締役社長。

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