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2019年01月23日 09:56

藤井聡教授に聞く~国民に集団自殺を促す「消費増税」を凍結せよ!(後)

京都大学大学院工学研究科 教授 藤井聡氏

消費増税は3月下旬頃、2019年度予算成立後に最終判断する

 緒方 先生は現時点で、どれぐらいの可能性で「消費増税」を凍結できるとお考えですか。

 藤井 大ざっぱに申し上げれば、五分五分と考えています。法律は変えられるのであり、消費増税は「確定」しているわけではありません。昨年の与党・自由民主党の総裁選を機に、「消費増税をめぐる空気」が、少しずつですが「確実」に変わり始めました。現在はその状況がさらに大きく促進、またごく最近は新聞・テレビなどメディアのニュアンスも微妙に変化しています。

 変化の直接的な原因は昨年12月25日の株価暴落です。官邸もかなり肝を冷やしたと思います。現在は戻していますが、一時1万5千円の声も少なからず聞かれました。マーケットというのは不思議なもので、そういう声が出てきたということは、経済学者ケインズのいう「美人投票」(ケインズは、玄人筋の行う投資は「100枚の写真のなかから最も美人だと思う人に投票してもらい、最も投票が多かった人に投票した人たちに賞品を与える新聞投票」に見立てることができるとし、この場合「投票者は自分自身が美人と思う人へ投票するのではなく、平均的に美人と思われる人へ投票するようになる」とした)ではありませんが、1万5千円まで下落する可能性が現実に高まったといえます。

 年初1月3日のラジオ番組で、菅官房長官は、「消費増税は3月下旬頃と見込まれる2019年度の予算成立後に最終判断する」という見通しを語りました。「凍結できる」可能性が十分にあるということです。

合わせ技リーマン・ショックで、すでに3.6%の景気下落圧力

 緒方 現在では、リーマン・ショック“級”のことが起これば、「消費増税」を凍結・延期することは、官邸筋のコンセンサスになっています。ではリーマン・ショック“級”とはどのようなことをいうのでしょうか。

 藤井 1つ目は、本当にリーマン・ショック(3.7%の景気下落圧力)のようなことが起こることです。12月25日の暴落を大きく超える株価大暴落です。

 2つ目は、大和総研『第199回日本経済予測』(2018年11月21日)がまとめているのですが、「合わせ技リーマン・ショック」とでもいうべきものです。それは、2019年に起こると予想される(1)トランプ政権の迷走(保護貿易主義、ドル安カードなど)0.6%(2)中国経済の想定以上の減速0.9%(3)Brexitの悪影響による欧州経済の悪化0.7%(4)中東の混乱などを背景とする原油高0.4%(5)残業規制の強化1.0%を合計すると3.6%の景気下落圧力がかかり、リーマン・ショック“級”になります。

 さらに、これに「五輪終焉リスク」「半島有事リスク」「大災害リスク」などが加わるとすでにリーマン・ショックを超えてしまいます。

経済専門家と政治家、官僚たちもそのことを認識できていない

 緒方 先生は本書で、「消費増税」の問題は、もはや経済学の問題でなく、すでに集団心理学、精神病理学の問題であると言われています。それはどういうことでしょうか。

 藤井 今までご説明申し上げてきましたことからご理解いただけたように、「財政再建のためには、デフレ脱却が不可欠」というのが、この議論の結論です。現在の最悪な状況から脱却するには、10%消費増税を「凍結」すると同時に、10~15兆円規模の大型経済対策を行えばよいのです。極めてシンプルです。このことを多くの国民のみならず、大多数の経済専門家と政治家、官僚たちも認識できていません。今、日本が成長できない真の理由は、国民が、日本経済について、根本的に間違った『物語』(日本は少子高齢化でもう成長できない。一方、国の借金が拡大し、社会保障費も年々拡大するので、その財源を「消費税」で確保する)を信じているからに他なりません。

 そのことに関して、職業上私は学者なので、どうしても許せないことがあります。それは、財務省の「財政審」(消費増税を目標に掲げる政府組織である財務省が設置する財政政策全般を審議する審議会)のメンバーの一部で、世間に強力な影響力をもつ、曲学阿世の御用経済学者たちが、確信犯的に「ウソ」や「デマ」を喧伝し続けていることです。真の『物語』は以下のようになります。

並行して、「法人税増税」と「所得税の累進性の強化」を

 今の日本は、バブル崩壊で傷ついた状況下で断行された1997年の消費増税によって、デフレ・スパイラルが展開するデフレ経済へ凋落してしまった。その結果、日本の経済成長率は世界最低に凋落し、国民は貧困化し、格差は拡大し、そして、財政は大きく悪化してしまった。そもそもデフレ下では、民間は投資を減退させ、黒字を貯めこむようになるため、必然的に政府の「赤字」は拡大する。だから、政府の赤字を縮小し、財政を健全化するには、デフレ脱却を果たす以外に方法は存在しない。そして、デフレ脱却を果たすためには、「消費増税を凍結」し、―ないしは減税し―大型の財政政策を2、3年間継続する他に道はない。それができれば、デフレ・スパイラルが終わり、インフレ・スパイラルが駆動するようになる。そうなれば、自ずと経済は成長し必然的に財政は健全化していく。
『「10%消費税」が日本経済を破壊する』(晶文社)192頁から

 社会保障制度を持続可能なものとするために、並行して、「法人税増税」と「所得税の累進性の強化」や過剰医療の抑制を通した「社会保障の合理化」も進めていく必要があることも忘れてはいけません。それは、過去30年の税制は、消費税の「増加」と、所得税と法人税の「減税」が同時進行し、庶民の間の「格差」や「不平等」を拡大させてきたからです。これは「金持ちと大企業がかつて支払っていた税金を10兆円以上減らし、その大半を、貧乏な世帯を含めたすべての庶民に肩代わりさせた」ことを意味しています。

(了)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
藤井 聡(ふじい・さとし)

 1968年、奈良県生まれ。京都大学大学院工学研究科教授。京都大学工学部、同大学院修了。京都大学助教授、東京工業大学助教授・教授、イエテボリ大学心理学研究員を経て2009年より現職。11年より京都大学レジリエンス実践ユニット長。12~18年まで安倍内閣・内閣官房参与(防災減災ニューディール担当)、18年よりカールスタッド大学客員教授ならびに『表現者クライテリオン』編集長。文部科学大臣表彰、日本学術振興会賞など、受賞多数。専門は、公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書に、『プラグマティズムの作法』(技術評論社)、『国民所得を80万円増やす経済政策』(晶文社)、『プライマリー・バランス亡国論』(扶桑社)、『「10%消費税」が日本経済を破壊する』(晶文社)など多数。
 

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