• このエントリーをはてなブックマークに追加
2019年01月30日 07:01

今、世界中で揺らぐ、「国家」という概念!(中)

元国際基督教大学 教授 高橋一生氏

世界は文明のある国家と文明のない国家で成り立っている

 ――「国家」概念の揺らぎと並行して、人類史上初めてのグローバル文明「パックス・ブリタニカ」と「パックス・アメリカーナ」が終焉を迎えようとしています。少し振り返ってもらえますか。

 高橋 ナポレオン戦争(1803年から1815年にかけてヨーロッパ大陸全域を舞台にして断続的に発生した各戦争の総称。いずれの戦争においてもフランス皇帝ナポレオン1世がその中心にいたことからこのように名付けられた)後のウィーン体制において、保守政権をベースにしたヨーロッパ協調体制ができ、その後1860年代、70年代にはドイツ、イタリアなどの国家が形成されていきました。

 同じタイミングで、日本では明治維新(日本資本主義形成の起点となった政治的、社会的、文化的な一大変革。西洋列強の植民地化に対抗して、関税自主権を回復させるために、強力な中央主権国家をつくる必要があった)が起こりました。

 「パックス・ブリタニカ」とは「イギリスによる平和」を意味します。1815年のウィーン会議以後、第一次大戦までの約100年間、いち早く産業革命を達成したイギリスが、その工業力と海軍力にものを言わせて、ヨーロッパの勢力均衡のバランサーの役割を担い、比較的平和な時代を維持しました。イギリスは世界展開していく過程で、「世界というのは文明のある国家と文明のない国家で成り立っている」という明確な思想をもっていました。文明社会の前提としては、「法治国家」「民主主義」「人権」「自由」などが挙げられます。

 非文明国に対しては、できるだけの文明を与え、同時にイギリスそのものとしては、国益を追求(ほかのヨーロッパ諸国には、自由貿易体制の強制や非ヨーロッパ地域への不平等な従属関係の強要も伴った)していきました。すなわち、押し付けは最小限度にしながら、文明社会と非文明社会を調和して成り立たせたのが100年続いたパックス・ブリタニカといえます。

アメリカがその圧倒的な軍事力と経済力で世界平和を維持する

 次に「パックス・アメリカーナ」(アメリカによる世界平和)です。イギリスが文明社会の前提とした、「法治国家」「民主主義」「人権」「自由」などを、「イデオロギー」として押し付けたのがパックス・アメリカーナです。歴史的には、1890年代頃にはアメリカはすでに鉄鋼生産力でイギリスを上回りました。その後、第一次世界大戦を経て、第二次大戦後には、アメリカは世界経済の40数パーセントを占め、イギリスの圧倒的な債権国になっています。第二次大戦後には、アメリカが軍事力(海軍を中心)と経済力で維持する「パックス・アメリカーナ」が誕生しました。その誕生を予見する象徴的なできごとが「大西洋憲章」の調印です。(1941年8月14日に、米国大統領ルーズベルトと英国首相チャーチルにより発せられた共同宣言。恐怖からの自由、飢餓からの自由、政治体制選択の自由、領土不拡大、民族自決、通商・資源の均等開放、安全保障など、第2次大戦および戦後処理の指導原則を明らかにしており、後の国際連合憲章の基礎となった)

 パックス・アメリカーナの特徴は、自国がイデオロギー国家として成立した経緯を世界に適応しようとすることで、自由、人権、民主主義、市場経済を普遍的な価値と定義し、それを世界におよぼそうとすることです。それを実現するために、たとえば市場経済に関していえば、貿易に関して、GATT(関税貿易一般協定)やWTO(世界貿易機関)などの体制を通じてアメリカの市場をグローバルコモンズとして、世界に開放し、世界全体にも徐々に市場を開放させようとしました。

経済ではアメリカはグローバルコモンズでなくなりました

 ブレトン・ウッズ協定(1945年に発効した国際金融機構についての協定。米ドル紙幣の金兌換比率を1オンス35USドルの固定比率とした)でドルは世界の通貨となりました。しかし、1971年のニクソン・ショックで金兌換が停止されてからは、アメリカの力は「信用力」だけで成り立っています。その信用力は「海軍力」です。歴史上、主要通貨と「海軍力」は一致します。海軍力が貿易ルートを支配、実体経済を支えているからです。通貨面では基軸通貨としての基盤が揺らぎ始めていますし、通商面においては、アメリカ国家は「グローバルコモンズ」ではなく、自由貿易体制をバックアップする力もなくなりました。

 「文明」というオブラートに包んだかたちで、押しつけでなく、世界における「法治国家」「民主主義」「人権」「自由」などを目指した「パクス・ブリタニカ」とそれらを、「イデオロギー」として強引に押し付けた「パックス・アメリカーナ」と方法論は違いますが、根っこの部分では同じで、2つを合せたこの200年間が、人類最初のグローバル文明と考えることができます。それが今終焉を迎えようとしています。

(つづく)

【金木 亮憲】

【略歴】高橋一生(たかはし・かずお)
 元国際基督教大学教授。国際基督教大学国際関係学科卒業。同大学院行政学研究科修了、米国・コロンビア大学大学院博士課程修了(ph.D.取得)その後、経済協力開発機構(OECD)、笹川平和財団、国際開発研究センター長を経て、2001年国際基督教大学教授。
東京大学、国連大学、政策研究大学院大学客員教授を歴任。国際開発研究者協会前会長。
現在「アレキサンドリア図書館」顧問(初代理事)、「リベラルアーツ21」代表幹事、「日本共生科学会」副会長などを務める。専攻は国際開発、平和構築論。主な著書に『国際開発の課題』、『激動の世界:紛争と開発』、訳書に『地球公共財の政治経済学』など多数。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

     

トップニュース

2020年02月29日 09:00

根強い低価格志向、マルキョウ7品目を値下げ~主要3社食品18品目売価調査

 根強い値下げ圧力――データ・マックスが26日に調べた低価格3社の食品18品目売価によると、1月6日時点に比べ、トライアルは値上げ1品目、値下げ2品目、ルミエールは値...

2020年02月29日 07:00

2016年発達障害者支援法が改正 雇用障害者数、過去最高を更新(2)

 2016年4月に新たな障害者雇用促進法(2013年改正)が施行された。改正のポイントは3つ。(1)障害があることを理由に採用を拒否したり、低い賃金を設定したりするこ...

2020年02月28日 18:49

【新型コロナ】繁忙期真っ只中の住宅業界「在庫で対応も長期化を懸念」

 新型コロナウイルス感染拡大を受け、TOTO、LIXILなど住宅設備機器の一部で納期遅延が発生したことで、地場の住宅業界でも影響が出始めた。

2020年02月28日 18:34

休校要請、対応わかれる各自治体~東京23区

 安倍晋三首相は27日、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために全国の小中学校、高校、特別支援学校に3月2日から春休み終了まで臨時休校にするよう要請した。

2020年02月28日 18:11

【ベトナム視察記】ぼったくり額は交渉で決定~タクシー運転手

 ベトナムの移動手段として定着した配車アプリ・GRAB。今回の視察では手頃な料金と位置確認ができる安全性から日本人の間ではタクシーより利用頻度が高いことがわかった。

2020年02月28日 17:53

「まるで、政府への忖度強要だ!」イベント中止・延期要請に悲鳴を上げる九州の演歌公演業界

 安倍首相は2月26日、「全国的なスポーツ、文化イベントなどについては、今後2週間は中止・延期、または規模縮小などの対応を要請することといたします」と政府の新型コロナ...

2020年02月28日 17:29

シリーズ・コロナ革命(3)~中国人系経営者に聞く:業務減のため社員を休職に

 中国で共産党関連組織での勤務経験のあるインバウンド企業の経営者A氏に話を聞いた。

2020年02月28日 17:20

ベトナムの最前線にみる「勢い」と「現況」

 データ・マックスは2月14日から17日にかけて、近年急成長を遂げているベトナムのハロン湾(自然世界遺産)、ハノイ市街近郊を視察した。

2020年02月28日 17:14

九州地銀の株価全面安続く

 本日(28日)の東京株式市場の日経平均株価は、前日比▲ 805円27銭の2万1,142円96銭(▲3.67%)。一時1,000円を超え2万1,000円を割る局面もあ...

2020年02月28日 17:12

コロナで業界再編が加速か~学習塾業界

 安倍首相が新型コロナウイルス感染症対策として、全国小中高に休校を要請したことを受けて、学習塾各社も対応に追われている。現時点では、学生や保護者に対して予防措置を訴え...

pagetop