2024年07月22日( 月 )

【原発を考える1】原子力発電はすでに時代遅れの「お荷物」~その経済競争力の世界的凋落

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須賀 等(山梨学院大学 国際リベラルアーツ学部 教授・副学部長)

各国主要メーカーが原発市場から撤退

 日立製作所はこの2月1日、2019年3月期の連結純利益(国際会計基準)が前期比50%減の1,800億円になると発表した。1月に英・原発事業の凍結にともない3,000億円の損失が発生、他分野の利益計上で相当挽回したが、同社にとっては厳しい結果だ。

 同社の中西会長(経団連会長)は、年頭の日経ビジネス誌のインタビューで「最大の問題は電力会社がお金をたくさん使っても稼げないという点。もうからない商売ほどダメな商売はない。お客さんが儲けられない商売で機器ベンダーが儲けられる筈がない」と英原発事業について極めて正論かつ率直な意見を述べておられた。さらに同氏は日本国内の原発についても「はっきりしているのは国民が支持しないものは動かせない」という至極まっとうな意見を述べられた。

 日立の場合は幸いにも今回の巨額特損も同社の屋台骨を揺るがすには至らず、今後同社は膿を出しきった後、英国をはじめとする鉄道事業やその他のさまざまな事業で業績は回復するだろう。一方、昨年3月、東芝の原発事業米国子会社のウエスチンハウス社(WH社)の経営破綻で同社は6,400億円の損失を確定し、その後主力事業切り売りによる実質的解体の憂き目を見たのは記憶に新しい。

 実は2011年の東日本大震災とそれによる東電の福島第一原発事故以降、世界の原発をとりまく事業環境は激変しており、独のシーメンス社がフクシマ後早々と原発事業からの撤退を決定、以降、仏のアレバ社の実質経営破綻と再編、上記WH社・東芝の経営破綻、日立の大赤字と、世界の主要原発メーカーを取り巻く経営環境は極めて厳しい。最近では原発メーカー最大手の米国

 GE社も原発事業からの撤退が噂されている。
また現在、 ESG(Environment, Social, Governance)投資やSDGs(Sustainable Development Goals)が世界中の主要機関投資家の投資基準として普及しつつあり、この場に至ってもまだ原発に関わっている企業からは今後、メーカー・電力会社双方ともいっせいに資金が引き揚げられる可能性もあろう。

経済競争力を失った原発は、用済みの遺物

 原発メーカー各社の現在の苦境の原因は、フクシマ以降、世界各国で原発に対する安全基準が極めて厳しくなったことにある。ざっくり言えば、これまで100万KWの原発建設コストが5,000億円程度と言われていたのが、現在ではその倍の1兆円もしくはそれ以上に安全設備中心の建設コストが暴騰したこと、さらに廃炉処分の費用も商業性に耐えられないレベルになることが明らかになっていることに起因する。一方で、とりわけここ数年の間に、急激に自然再生エネルギーの技術革新が起こったことにより、独・北欧・オーストリアなどの諸国を中心に欧州各国で経済性・商業性をもって実用化・普及し、もはや原発や化石燃料による発電に依存しなくても、エネルギーの多くが経済性をもって自然再生エネルギーにとって代わられ始めているという事実がある。

 2017年の国際再生可能エネルギー機関(IRENA)のデータでは、太陽光の発電コストは世界平均で1キロワット時あたり10セントで、10年時点と比べて73%下落、陸上の風力の発電コストは同6セントで、7年間で23%下落。化石燃料並かそれ以下のコストで、無論廃炉や安全コストをすべて入れた原発よりはるかに安い。
自然再生エネは燃料代がタダなので、運転効率・安定性が向上し、設備建設コストが下がるほど価格競争力は増す一方だ。欧州諸国ではすでにフクシマ以降、核兵器保有国の仏・英以外は軒並み脱原発を決定し、それに代わる太陽光・風力・バイオマスなどの自然再生エネの技術革新に励み、現在では独の自然再生エネ比率は多い時で全エネルギー需要の80%を商業的に賄える水準に達している。

 さらに欧州各国の送電網の整備・グリッド・地産地消分散化による融通の仕組みも発達した。独の不足電力を仏の原発で補うという話ももはや昔話で、独の自然再生エネ電力は純輸出に転じている。また冒頭に紹介した英・原発のように、英仏も原発依存を大きく減らす方向に動き始めている。原発を100基以上有する米国においても原発の新設はほとんどなく、しかも同国の原発の大部分は地震リスクが極めて少ないミシシッピ川以東に設置されており、日本同様に地震の巣である西海岸のカリフォルニア・オレゴン・ワシントンといった諸州には原発は計9カ所しかなく、そのうち7カ所はすでに廃炉中で残りは2カ所だ。

 原発は21世紀では、経済競争力を失い、まっとうな先進諸国においてはもはや過去のお荷物的遺産になりつつある。いまだに軍事的理由ももつ、国土が広大な中露の両中央集権国家以外で原発稼働に積極的な主要国家はほとんどなくなってきている。火山や地震、津波のリスクが近年ますます高まる日本に依然として54基も原発が存在し、しかも廃炉は遅々として進まず、それどころか40年以上経年した中古原発を無理やり再稼動させようとしつつ、自然再生エネルギーの技術革新も商業化も欧州に比べて10年以上、一説では30年以上遅れてしまっている現状は、日本の自然再生エネルギー技術・プラントの国際競争力にも大きな影を落としてしまっているといえよう。

【次回に続く。次のテーマは「日本の原発の安全性」】

〈プロフィール〉
須賀 等(すが・ひとし) 

早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。ハーバード大学経営管理大学院修了(MBA取得)、三井物産や三井グループ系ベンチャーキャピタルのエム・ヴィー・シー代表取締役社長などを経て、タリーズコーヒージャパン取締役副会長。丸の内起業塾塾長。国際教養大学や京都大学、慶應大学で教鞭を執ったのち、2016年から現職

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