2024年03月29日( 金 )

請願駅はこうして生まれた JR糸島高校前駅に期待される役割(後)

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一筋縄ではなかった新駅設置

 華々しい式典とともに開業したJR糸島高校前駅だが、市民全員が諸手を上げて賛成したわけではなかった。なぜなら、糸島高校前駅は“請願駅”だからである。

 請願駅とは、地方自治体・地元住民・新駅周辺企業などの要望により開設される駅のこと。請願駅の何が問題かを簡潔にいえば、駅舎の建設費を自治体が全額負担しなければならないということだ。駅の新設には、相応額の公金を投入する必要があるが、その出どころはいうまでもなく市民からの税金。市民の税負担増といったケースも考えられるのだ。

「平成31年度糸島市当初予算(案)の概要について」参照
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 17年5月の定例記者会見で、新駅の駅舎建設費用は約10億円と見積もられた。このうち、約5億円が国費補助金で賄われるため、市の実質負担は約5億円となる。この約5億円に関しては、前糸島市長・松本嶺男氏が「税金は使わない」と公言したこともあり、筑肥線新駅設置促進会が中心となって寄付金を募ることになった。

 また、新駅の設置に際して、地元住民は移動に関する“ある不便さ”を受け入れなければならなかった。それは「桂田踏切」の閉鎖だ。桂田踏切は、雷山・篠原方面から幹線道路である国道202号線へ抜ける際に、JR線路をまたぐ非常に便利な通り口だったが、新駅設置にともない閉鎖。国道202号線へ出るには、迂回しなければならなくなった。

 さらに、新庁舎建設や雷山の運動公園の整備など、糸島市内での別の大型公共工事が控えているうえでの新駅設置決定だったため、市の財政を不安視する声も上がった。

 「将来世代の税負担が重くならないようにしなければならない。観光に訪れる分にはいいが、住むとなると不便だと言われないようにするためにも、新駅が単なる飾り物にならないように周辺エリアの開発と合わせて、人を呼び込めるものにしていかなければならない」(市民)。

 誕生に際しては市民間でも賛否両論のさまざまな声が挙がった新駅だが、新旧住民、そして糸島に足を運ぶ人からも愛される駅に発展させていくことが、今後重要になる。駅至近では「クレアホームズ糸島・ザ・レジデンス」(全102戸、20年10月ごろ竣工予定)など複数のマンションが計画されている。対して、生活利便性に重要なスーパーなどの商業施設の開発は、まだ十分とはいえない。九州大学に通う学生たちがアルバイトできる場所の提供という意味でも、商業施設の拡充は急務といえる。

後進たちへのプレゼント

「JR糸島高校前駅」外観

 新駅を語るうえで外せないのが、「福岡県立糸島高等学校」の存在だ。駅名に採用された公立高校で、同校に通う学生たちの通学の便は各段に向上した。同駅舎の建設費は国からの補助金と有志による寄付金。この寄付金の部分で尽力したのが、同校OBで、地場大手企業、九星飲料工業(株)の仲原志平代表取締役会長(91)だ。残念ながら同氏は18年9月7日に逝去され、新駅完成の場に立ち会うことは叶わなかった。

 同氏は糸島高校(旧制:糸島中学校)卒業後、同校同窓会周船寺支部長や、同窓会長を歴任。09年には、返済不要の奨学金制度「志平賞」を創設。毎年、難関校を受験する生徒に対して多額の援助を実施するなど、後輩たちの支援に力を注いでいた。

 母校の飛躍に助力を惜しまなかった同氏は、新駅開業に対しても1億5,000万円を寄付。JR「糸島高校学校前駅」は、同氏を始めとする、寄付を行ったすべての糸島高校OBから後進たちへのプレゼントともいえるのだ。

これまでとこれからを結ぶ駅に

一日駅長を務めた演歌歌手の山内惠介氏

 JR筑肥線では「九大学研都市駅」の誕生以来、実に14年ぶりの新駅となった糸島高校前駅。開業式典には、糸島高校の生徒や地元民など約1,000人(糸島市発表)がお祝いに駆け付けた。また特別ゲストとして、NHK紅白歌合戦にも出場経験のある糸島市出身の人気演歌歌手の山内惠介氏も登場。自慢の歌声で式典を盛り上げた後は、同駅の一日駅長として出発の合図を送るなど、大役を務めあげた。

 一通の陳情書から始まったJR新駅の設置は、今回の開業をもって一区切りを迎えた。しかし、これがゴールではない。その真価が問われるのは、これからにかかっている。糸島高校前駅を新たな賑わい創出の拠点として発展させるために、次に進めるべきは同駅から伊都キャンパス、福岡市西区伊都エリア(今宿・女原・徳永)およびその周辺エリア(西都・周船寺・元岡)への動線確保だ。単に「駅ができて便利になった」だけで終わらせないためにも、交通の要衝、糸島の新たな玄関口としての役割が求められる。

(了)
【代 源太朗】

(前)

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