耕作放棄地を活用して高齢者に雇用の場をつくり出す~社会的起業が挑戦する「希望」の創出
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耕作放棄地とは、過去1年以上作物を栽培せず、「今後数年のうちに耕作を再開する見込みのない土地」とされる。耕作放棄地が問題視されるのは、放置されることで土壌が荒れ、農耕用水システムの維持が困難になって周辺の農家にも影響を与えるためだ。新富町においても耕作放棄地の解消は喫緊の課題だ。16年4月時点の耕作放棄地は107ha、遊休農地23haも加えると東京ドームおよそ27個分の農地が「鍬」を待っている。
今年10月、新富町に移住してきた石川美里さん(27)が取り組もうとしているのは、この耕作放棄地を再利用して社会問題を解決することだ。石川さんはこれまで、起業を通して社会問題を解決することを目的に設立された(株)ボーダレス・ジャパンの福岡オフィスに勤務していた。齋藤潤一氏が語る新富町の潜在力に可能性を感じ、「耕作放棄地を再活用し、低価格なオーガニック野菜を提供する」ための農業法人設立を思い立った。ボーダレス・ジャパンが100%出資し、現在は農業法人としての登記作業を進めている。
石川さんは、東日本大震災をきっかけに「日本の将来に役立つビジネス」をしたいと考え始めたという。少子高齢化が進み、高齢者が年金だけでは生活できない時代がすでに来ているのでは。若い世代も約7割が将来の生活に不安を抱いている――そんな現状認識のもと、石川さんは高齢者の雇用をつくり出すことで希望を与えることも起業の目的に置いた。
ビジネスモデルで目を引くのは、「高齢者を生産者として雇用」することをコンセプトとしていることだ。時短勤務や勤務日数減などで高齢者に負担のかからない労働環境を提供するが、これは実は差別化ポイントにもなる。耕作放棄地で地代を抑えたことに加え、高齢者雇用を導入することでオペレーションコストを下げて、結果的にオーガニック野菜を低価格で流通させることを可能にした。初めは大都市のスーパーに出荷する予定だが、「理想は地産地消」(石川さん)のため将来は各県に拠点をつくり、各県で消費する分を地元スーパーなどで販売する構想だ。
石川さんを「スカウトしてきた」と話す齋藤氏は、移住者が増加することに持続可能性の未来を見ている。「彼女のような移住者が新規事業を起こし、あるいは結婚して子どもを育てる。その子どもたちがまた地域で活躍するという大きなサイクルが生まれれば、そこで初めて『持続可能な』地域おこしという意味をわかってもらえるのでは」(齋藤氏)。
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