2024年04月18日( 木 )

マンション建替えに商機 三菱地所レジデンスの再開発戦略

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三菱地所レジデンス(株) 九州支店 開発グループ長 田端 学 氏

マンションストック、20年後に約352万戸へ

鹿児島市の「中央町19・20番街区第一種市街地再開発事業」

 国土交通省の資料によると、築40年以上の分譲マンションは、2017年末の時点では72.9万戸と全体の約1割。だが、これが10年後の27年には約2.5倍(184.9万戸)に、20年後の37年には約5倍(351.9万戸)となることが予想されており、今後はマンションの老朽化がさらなる社会問題へと発展していくとみられている。

 三菱地所レジデンス(株)では、業界に先駆けてマンション建替え事業を手がけてきた。過去10年間で参画した再開発・建替え事業は、着手中のものも含めると50件以上におよぶ。現在、仕掛かりベースで全体事業の約30%が再開発・建替え案件となるよう取り組んでおり、共同事業を含めると、19年度以降に順次1万戸以上が引き渡される計画だ。

大手3社によるプロジェクト「ザ・パークハウス百道」

 オリンピックイヤーである20年度に引き渡しを開始する再開発・建替え物件は、津田沼ザ・タワー(千葉県習志野市、全759戸)、千住ザ・タワー(東京都足立区、全184戸)、ザ・パークハウス本厚木タワー(神奈川県厚木市、全163戸)、ザ・パークハウス三田タワー(メゾン三田建替)(東京都港区、全111戸)、ザ・パークハウス恵比寿(恵比寿サンハイツ建替)(東京都渋谷区、全102戸)、ザ・パークハウス早稲田(メゾンドール早稲田建替)(東京都新宿区、全115戸)ほか、数多くが控えている。

 同社が参加組合員の一員である「戸越5-19番地地区第一種市街地再開発事業」も本格始動した。東京都知事から再開発組合の設立認可を受け、18年12月の組合設立総会を経て、「戸越五丁目19番地地区市街地再開発組合」が発足。約220戸の住居や店舗、駐車場などからなる地上23階建ての一大事業となり、19年9月の権利変換計画認可、20年8月の着工、23年4月の竣工を予定している。

 さらに注目を集めているのは、隣接する国有地と一体整備されるザ・パークハウス早稲田(メゾンドール早稲田建替)だ。建物の老朽化などにともない、管理組合は06年ごろより建替えの検討を開始。マンション南側に隣接する国家公務員宿舎と一体敷地での建替えを視野に入れるなかで、09年に同社を事業協力者として選定した。15年には土地買収が困難な管理組合に代わり、同社が隣接国有地を取得。その後、民間分譲マンションと隣接する国有地を一体開発する国内初の建替え事業を進めることとなった。

鹿児島市で再開発、福岡では団地再生

 九州で手がけている最大規模の再開発は、鹿児島市の玄関口・JR鹿児島中央駅の桜島口(東口)駅前に商業住宅併設の都市空間を創出する「中央町19・20番街区第一種市街地再開発事業」だろう。

 同事業は、再開発組合をメインに、参加組合員としての三菱地所レジデンス(株)九州支店、(株)大京、(株)穴吹工務店、南国殖産(株)との協業により、18年6月には本体工事に着手(施工は(株)竹中工務店)しており、竣工は21年1月を予定。同事業は、低中層階(1~7階)には商業・サービス系施設を、高層階(8~24階)には分譲マンションが建設される。この再開発では、住宅参加組合員として三菱地所レジデンス(株)九州支店が参画するほか、同社と同じく、特定業務代行者の構成員として(株)三菱地所設計も名を連ねている。

 また、住宅部の管理を三菱地所コミュニティ(株)が務める予定であり、さらには、特定業務代行者の代表構成員であり参加組合員でもある南国殖産(株)が商業部の運営管理を手がける予定であることから、同社の事業コンサルとして三菱地所(株)が事業の推進をサポート、商業リーシングについては三菱地所リテールマネジメント(株)、商業部の管理については三菱地所プロパティマネジメント(株)がそれぞれ支援・協力をするなど、三菱地所グループにとっても一大プロジェクトとなっている。

 また、公団団地の再生にもチャレンジしている。福岡市地下鉄・藤崎駅から徒歩2分に位置し、69年に全体竣工した「藤崎公団住宅」が、老朽化により建替えが決定。16年6月に同社と福岡地所(株)、積水ハウス(株)が事業協力者として選定され、建替えアドバイザー・(株)ラプロス(福岡市)と協力しながら、同年12月に建替えの決議が成立した。17年4月にマンション建替組合の設立が認可されており、20年3月の完成予定で地上12階、総戸数231戸のマンションへと再生される。

イムズからMARK ISまで九州における地所の歴史

 三菱地所グループは1937年に設計部門の出先事務所として福岡出張所を開設して以降、九州において継続的に事業を展開してきた。87年に三菱地所住宅販売(株)(現・三菱地所リアルエステートサービス(株))が福岡営業所を開設。89年には、建替えが公表された都市型商業施設・イムズを開業した。95年に九州支店初の分譲マンション・パークハウス福間を完成させて以降は、マンション供給も増やしてきた。

 2004年には商業施設・鳥栖プレミアム・アウトレットを、11年にはザ ロイヤルパークホテル福岡、14年には物流施設・ロジクロス福岡久山を開業。そして18年11月、ブランドで最大規模となる大型商業施設・MARK IS 福岡ももちを誕生させた。一部、九州のデベロッパーからは、「黒船来襲」とも表現されたが、九州エリアにおける事業展開の歴史は浅くない。

田端九州支店開発グループ長 田端 学 氏

 三菱地所レジデンス九州支店の開発グループ長・田端学氏は、「ザ・パークハウスという分譲マンションのブランド力、三菱地所グループ力、そして本社のバックアップ体制の3点が他社との差別化ポイント」と自社の強みについて話す。

 一方、「課題は九州エリアで竣工した再開発実績がまだないこと。ただ、(再開発事業の業務は)組合員の方を始め、コンサル、行政、設計、施工会社など関係者が多数にわたる事業となり、実務能力はいうにおよばず、調整、交渉など人間力が試されるやりがいのある仕事」(同氏)といい、鹿児島市の再開発プロジェクトは、今後の動向を占う意味でも重要な事業となるだろう。

 三菱地所レジデンスは事業拡大を目的に、18年4月1日に福岡支店の名称を九州支店へ改めた。20年に鹿児島県で国体の開催が予定されるなど、福岡だけでなく九州への注目は高まっており、九州の主要都市や沖縄でも、積極的に再開発事業およびマンション建替え事業に参画していく姿勢だ。

 少子高齢化や人口減少に加え、マンションを始めとしたインフラの老朽化などの社会課題が山積している。また、地震などの大規模自然災害に対する防災力強化も大きな課題となっている。これらの社会課題の解決に向け、豊富な実績や資金力で再開発や建替えに取り組む同社の戦略に注目したい。

【長井 雄一朗】

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