2024年07月23日( 火 )

孫正義の秘密兵器~ソフトバンク300年ビジョン計画(4)

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国際政治経済学者 浜田和幸

 いうまでもなく、今やその投資先は世界中に広がっている。孫氏曰く「もはや国境には意味がない。国境を超えたビジネス展開を追求しなければ、誰かの後塵を拝するだけのこと。情報革命は止まるところがない」。彼がアメリカに限らず、ロシアやインド、そして中国や中東にも頻繁に足を運ぶのは、そのためである。

 彼が誕生間もない「アリババ」に積極的に投資し、同社のジャック・マー氏を世界最大の流通業に押し上げたことは、今では伝説的な語り草となっている。2000年の時点では海のものとも山のものとも判然としなかった「アリババ」に対して2,000万ドルを投資したのが孫正義氏だった。その「アリババ」の現在の市場価値は4,000億ドルである。

 そして、今、孫氏は中国の習近平国家主席が進める「一帯一路計画」に対して、静かながら、深くかかわっている。とはいえ、そのことはほとんど知られていない。中国のエネルギー大手「ステート・グリッド」と提携し、「グローバル・エネルギー相互開発合作機構」を立上げ、「一帯一路」沿線諸国へのエネルギー供給事業に取り組んでいるのである。太陽光や風力、そして小型原子力発電へと関心は広がる一方だ。

 しかも、この事業にはアメリカもロシアも関与させるという念の入れようだ。オバマ政権時代にエネルギー省の長官を務めた中国系アメリカ人のチュー博士やロシア最大のエネルギー企業の代表であるブガルジン氏を巻き込んでいる。このような事業展開は孫正義氏のグローバルネットワークがあって初めて可能となる仕掛けといえるだろう。

 小型原子力発電こそ次世代原発として最も期待が高まる技術である。なぜなら放出される放射能廃棄物の安全処理の時間が大幅に短縮されるからだ。通常の放射性廃棄物の場合、30万年もの時間がかかる。そのため廃棄物の安全な保管場所の確保が至難の業となっている。

 小泉元総理が視察したことで有名になったフィンランドの地下保管施設は強固な岩盤の地下500mに建設されている。しかし、そうした地質の保管場所は容易に見出せない。日本の場合、どこを探してもそのような条件を満たす硬さの地盤は見い出せない。しかし、統合型高速炉(IFR)であれば、300年で自然界と同等レベルまで天然ウラン並みの放射性に低減できるのである。

 この技術は1960年代にアメリカのアイダホ国立研究所ですでに開発済みで、その安全性が証明されている。エネルギー問題に熱い思いを寄せる孫正義氏が注目しないはずはない。もし、この統合型高速炉が採用されることになれば、日本は北朝鮮が保管する40kgのプルトニウムを引き受け、日本のプルサーマル計画でもIFRでも活用することができる。北朝鮮の核問題を解決でき、中国やロシアの原発計画にも応用できる可能性が広がる。まさに日本発の「原子力平和外交」と言っても過言ではない。

 トランプ大統領もペンス副大統領もことあるごとに「一帯一路計画は中国の世界支配の野望の現れである」と警戒心と非難を繰り返している。とはいえ、そうした批判は表面上の方便に過ぎない。ビジネス最優先のトランプ政権にとっては中国の一帯一路計画も裏取引の材料に仕える格好の「ディール(取引)材料」に他ならないのである。トランプ大統領としても、アメリカ発のIFRを日本に売り込み、その結果、北朝鮮や中国、ロシアに恩を売ることになれば、万々歳であろう。そうした前代未聞のディールに日本人ビジネスマンとして食い込んでいるのが孫正義氏というわけだ。

 世界には数多くのビジネスリーダーが活躍している。「アマゾン」のジェフ・ベゾス氏はもとより「フェイスブック」のマーク・ザッカーバーグ氏も若いが世界を変えてきた人物である。もちろん、アップルもマイクロソフトも健在だ。しかし、彼らは自分たちの専門領域のワクを全面的には打ち破ろうとしていない。要は「創造的破壊」には躊躇しているわけだ。イーロン・マスク氏も同じである。

 彼らと比べれば、孫正義氏にはより強力な「破壊力」が備わっている。彼の率いるビジョン・ファンドはすでに228兆ドルの不動産市場、5.9兆ドルのグローバルな交通運輸市場、

 25兆ドルの小売業市場にAIとロボットの技術で「創造的破壊」をもたらそうと動き出しているのである。

 もちろん、膨大な資金調達には前代未聞のリスクが付きまとう。格付け会社の評価はまちまちだ。また、最大のスポンサーでもあるサウジアラビアのムハンマド皇太子への懸念材料も払拭されないままである。

 しかし、こうした目前の山が高く、険しいほど、孫正義氏の闘志は燃え上がるに違いない。彼が尊敬してやまない坂本龍馬が刺客の手に倒れたような悲劇に見舞われないことを願うばかりである。

(了)

<プロフィール>
浜田 和幸 (はまだ・かずゆき

国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。16年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見~「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。

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