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2019年06月18日 15:39

平成挽歌―いち雑誌編集者の懺悔録(7)

 講談社はオーナー企業である。上場はしていない。小学館、新潮社もそうだが、菊池寛がつくった文藝春秋はそうではない。したがって派閥ができる。

 オーナー企業は、社長にはなれないのだから、派閥はできないが寵愛人事や発作的人事がまかり通ることがある。

 だいぶ前になるが、文藝を統括する常務がある日突然、切られたことがあった。役員会議の席で突然、社長からクビをいい渡されたそうだ。

 作家からも人望があり、講談社の文藝にこの人ありといわれた人だった。辞めてから何度か誘ってもらった。さしで酒を呑み、話を聞いたことがある。だが、本人にも思い当たることがないというのだ。

 社長にはっきりものをいう人ではあったが、何が女社長を立腹させたのか、何度聞いても首を傾げるだけだった。

 これも古い話だが、講談社が1988年にDAYS JAPANという月刊誌を出したことがあった。その当時のビジュアルニュース誌としてはなかなか豪華なつくりで、広告も創刊号は1億入ったと聞いた。

 そのDAYS JAPANがある時、有名人の講演料がいくらかという特集をやったことがあった。そこに、今もときどき見かけるがアグネス・チャンという歌手の講演料を間違って載せてしまったのだ。

 アグネスは当時、講談社の仕事をしていたらしく、怒った彼女は、女社長に電話をかけて、間違ったことを書かれたと談じ込んだという。

 早速社長は、Daysの編集長か当該の専務に連絡をしたのだろう。すぐ訂正してお詫びしますとなった。付け加えておくが、講演料の正確な数字は失念したが、1回40万円を50万円と書いた程度だったと思う。

 ボランティアで、カネは受け取っていないというのではない。私にいわせれば「誤差の範囲」だと思った。だが、あわてて部課長を講堂に集めて、専務が、事の経緯を話し、次号でお詫びと謝罪文を掲載すると発表した。

 正確には覚えていないが、次号で、新聞広告に編集長の詫び文を大々的に掲載し、本誌にも長々と詫び文を載せたと記憶している。当然ながら、社内からも、なぜこのようなバカでかいお詫びをしなくてはいけないのかという疑問の声が上がった。

 すると、発売からしばらくして、突然、DAYS JAPANを休刊にすると発表されたのである。聞けば、社長が、「私はこのようなお詫びをしろとはいってない」と、大げさにお詫びをしたことに激怒したというのである。

 結果、担当の専務と編集長は、その責任をとって社を辞した。

 ちなみに、その後、DAYS JAPANは写真家の広河隆一が講談社からタイトルを譲りうけ、フォト・ドキュメンタリー中心の会員制の月刊誌として再発行された。

だが、昨年、広河が、彼を慕って編集部に手伝いに来ていた若い女性たちを次々性的虐待していたことが文春で報じられたため、フォトジャーナリストとしての評価は地に落ち、晩節を著しく汚してしまった。

 DAYS JAPANというのは呪われた雑誌なのかもしれない。

 話は平成に戻る。これもなぜなのか、いまだに当人たちにも分からないようだが、私のいる局で、突然、驚くべき人事が行われたのだ。一局には局長と、局次長というのが編集長の上にいる。

 当時、局長は私と折り合いの悪いSという局長だった。局次長は鈴木敏男。彼は入社してから結核をやり、しばらく現場から離れていた時期があった。私が最初に配属された月刊現代で、一時、雑務をやっていたと記憶している。

 ある時、競馬新聞を見ているのを見て話しかけた。彼は、私が学生時代だったと思うが、当時としては珍しいコンピューターによる競馬予想が評判だという記事を週刊現代でつくったことがあった。たしかトータリゼーターといったか。

 この記事が話題になり、山手線の高田馬場駅構内の雑誌売り場が、客が押し寄せて潰れたというのが新聞記事になった。そんな話で盛り上がり、競馬友だちとなって、時々呑みに行くことがあった。

 だが、押し出しの良くない、人のいいタイプで、およそ出世とは無縁のような人物に思えた。だがある日、この2人の立場が大逆転するのである。

 私と親しい鈴木がいきなり局長のSを飛び越して役員に抜擢されたのである。私もびっくりしたが、本人はもっと驚いたのではないか。だが、肩書はサラリーマン社会では絶対のものである。

 私はもうすぐ45になる頃だった。後でわかるのだが、鈴木役員には腹心の部下というのがいなかった。年下で親しかったのは私ぐらいだった。他の若い者は、彼が役員になるなど想定外だったから、距離を置いて付き合っていたのだろう。

 一局は週刊現代、月刊現代、フライデー、92年にVIEWSが創刊される。だいたい編集長は2年交代だから、次々に回していかなくてはいけない。

 ここでも競馬が身を助けたのである。鈴木役員に呼ばれ、「フライデーの編集長をやらないか」といわれる。ええかっこしいでいえば、「フライデーは気が進まない。週現はダメですか」といった。「おまえ、一足飛びに週現は無理だ。フライデーで成功したら考えてやる」といわれた。

 1986年12月9日に、芸人のビートたけしが、彼の軍団を率いて講談社に殴り込んだ事件が起きた。たけしの愛人の女子大生に、フライデーの記者が乱暴な取材をしたことに腹を立てたことが原因だった。

 副編集長が消火器で殴られ、ケガを負った。単なる「傷害事件」だが、講談社の人間が記者会見で、「言論の自由に対する許せない暴挙」のようなことを発言したのである。

 これに新聞が噛みついた。新潮社がフォーカスを創刊し、続いて、そっくり真似したフライデーが講談社から出ると写真誌ブームが起こり、各社の写真週刊誌を合計すると500万部とも600万部ともいわれていた。

 フライデーも200万部近く出ていて笑いが止まらなかった。だが、写真誌の取材方法やプライバシー侵害が社会問題化していた。大物の政治家や芸能人が病院に入院すると、女性記者に看護婦の格好をさせ、病室に入り写真を撮る。

 有名作家が再婚する女性の家の中を、隣の家の二階から覗いて写真を撮る。アイドルと交際している男が、彼女と2人、ベッドの上で並んでいる写真を撮ったフィルムを近くのDPE屋に出した。

そこのアルバイト店員が、そのデュープ(写真をカメラで再度撮り、フィルムに起こしたもの)を編集部に売り込み、そのまま掲載してしまったことで、その男が自殺するという事件も起きた。売れれば何でもありのやり方は業界内でも顰蹙を買っていた。

 たけし事件の後、写真誌批判が高まり、部数はあっという間に3分の1近くまで激減してしまった。

 私は、社内のフライデー批判の急先鋒で、あんな雑誌は潰すべきだと、社長(当時)や社の上の人間にいったことも何度かあった。

 その私が、フライデー編集長というのは、二つ返事では引き受けられなかった。だが、もういい年である。ここで編集長になれなければ、この先ずっとないかもしれない。それに私を編集長にしてやろうなどという奇特な人間は、講談社内には鈴木役員以外いなかった。

 こうして平成2年(1990年)のたしか6月頃だったか、編集長含みということで、フライデーへ異動したのである。

(文中敬称略=続く)

<プロフィール>
元木 昌彦(もとき・まさひこ)

ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任。講談社を定年後に市民メディア『オーマイニュース』編集長・社長。
現在は『インターネット報道協会』代表理事。元上智大学、明治学院大学、大正大学などで非常勤講師。
主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)『現代の“見えざる手”』(人間の科学社新社)などがある。

連載
J-CASTの元木昌彦の深読み週刊誌
プレジデント・オンライン
『エルネオス』メディアを考える旅
『マガジンX』元木昌彦の一刀両断
日刊サイゾー「元木昌彦の『週刊誌スクープ大賞』」

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