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2019年07月12日 07:00

【もつ鍋業界最前線】ラーメン、明太子に続く福岡の食のコンテンツ(後)

多店舗展開でもサービスで差

 もつ鍋店ながら「博多料理」を前面に押し出し、関東を中心に売上を伸ばしているのが(株)やまやコミュニケーションズ運営の「もつ鍋やまや」。前期までは別会社(株)やまや食工房が運営していた同店は、福岡最大のもつ鍋店で全国45店舗を展開するほか、海外でも別会社が4店舗を運営する。

 やまやとは対照的に、ベトナムや韓国など海外に出店しながらも、福岡市内での拡大を目指し、「もつ鍋以外は提供しない」という姿勢を崩さないのが77年設立の(有)楽天地が手がける「楽天地」だ。仕入を生産者から直接行うことで費用を抑え、また内臓肉全般を使うミックスもつによるもつ鍋の提供を行っている。経営面では、店舗の予約や混雑状況を本部で一括して行い、空いている店舗を照会し、顧客を誘導するなどのマネジメントを行っている。

 「もつ鍋しか提供しない」(つまり店ごとで大きな差異がない)というサービスの均一化を行っていることで、顧客自身にとっても、提供される商品自体はどの店舗でも「福岡の楽天地のもつ鍋」であれば問題ないため、少しの時間がかかっても来店するケースは多い。

 同社は早くから地元客のリピーターを増やす方向から全国集客へと切り替えた。そのため当初はネットを活用していたほか、現在も広告では国内外の観光客や出張などで来る県外者を意識。「博多のもつ鍋といえば楽天地」と連想させるような戦略を図ってきた。

 また、飲食店にとって人材確保はついて回る問題だが、その点については評価基準を「前向きであること」と明確化することで単純にし、社員同士が評価し合うなど互いに切磋琢磨できる環境を整えるなどして良い人間関係を構築できる職場づくりを行い、天神を中心として「福岡の楽天地」の地位確立を目指している。

福岡で生きる「戦前期の遺産」

 ラーメン、明太子、もつ鍋には共通点として「日本以外の食文化に由来する」という点がある。

 (株)テレビ西日本が製作したドラマ「めんたいぴりり」は、博多座での舞台化や映画版の全国公開など人気を集めたが、同作の主人公のモデルは明太子製造業者(株)ふくやの創業者である川原俊夫氏。川原氏は現在の釜山市で生まれ、大陸で育ったが、日本本土に住んだのは戦後からだった。日本が敗戦で「外地」(いわゆる植民地はこう呼ばれていた)を失ったことは、日本へやってきた引揚者たちにとって「ふるさと」の喪失を意味し、彼らの慣れ親しんだ食文化との断絶が起こった。

 その喪失を埋めるため―であったかは定かではないが、少なくとも同じ味覚を共有する人々が一定数、日本の国内に生まれたことで、食文化として定着する素地が生まれた。たとえば戦後に人気食となったラーメンも、日本で食べられるようになったのは戦前期といわれているが、『ラーメンの語られざる歴史』(2015)の著者、同志社大学教授のジョージ・ソルト氏によれば、その当時は「シナそば」と呼ばれ、外地からわたってきた学生や貧しい労働者が中華料理屋で食べる安価な食品の1つだったという。戦後、闇市を中心に「安価な食事」というかたちで広まったラーメンは、のちのカップラーメンの登場で日本人にとって身近な食品になった。

 ラーメンや辛子明太子と同じく、もつ鍋料理もまた大陸からの文化として受容しつつ、日本人の舌に合わせて変化した食文化の1つといえる。その文化背景がアジア圏と共通していることもあり、観光客の増加とともに受け入れられ、また、若年層が中心となって旧来の「郷土料理」から「九州のソウルフード」という位置づけに変化したことも奏功した。

拡大する「食のコンテンツ」

ラーメン、明太子市場は共に成長しきっている

 一方、取材中には「福岡にしばらく新しい商品が生まれていない」といった悲観的な声も聞かれた。ラーメン、明太子、もつ鍋はたしかに戦後以来の福岡の主要な食文化だが、もうそれ以外のものは見い出せないのではないかという意見だ。

 日本社会の高齢化は、ほかの産業同様に食品産業にとっても暗い影を落としている。加齢とともに食が細るため、外食産業や食料品のマーケットが縮小しているという。

 全国的には「クラフトビール」や「タピオカ」といった、かつて隆盛を極めた食料品が、みたびブームを迎えているという。いずれも若年層がそのブームの中心にいることから将来性があると見込まれている。

 福岡市では人口と観光客の増加が続いている。そのため、もつ鍋業界はこのような“流入者”のおかげで拡大しているだけだとする見方もある。しかし、内臓肉の食文化をもつアジア諸国の経済成長が見込まれるほか、ソウルフードという新たなブランドとしての地位を獲得したもつ鍋の人気が衰えることはしばらくないだろう。

(了)
【小栁 耕】

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